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by nicoxz

2000円超グルメバーガーが全国展開へ挑む

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はじめに

ファストフードの概念を覆す2000円超の「高級グルメバーガー」が、日本の外食産業で注目を集めています。マクドナルドやバーガーキングといった大手チェーンが数百円で提供するハンバーガーとは一線を画し、厳選された食材と職人技にこだわったグルメバーガーは、これまで個店経営が主流でした。

しかし、2025年6月に横浜赤レンガ倉庫で開催された「JAPAN BURGER CHAMPIONSHIP 2025(通称:バガチャン)」で初出場・初優勝を果たした「BRISK STAND」(ブリスクスタンド)をはじめ、日本一の座を獲得した新興チェーンが全国展開に挑戦しています。本記事では、グルメバーガーチェーンが直面する課題と、成功のための戦略を詳しく解説します。

グルメバーガーとは何か:ファストフードとの決定的な違い

厳選された食材へのこだわり

グルメバーガーとファストフードのハンバーガーの最大の違いは、素材へのこだわりです。グルメバーガーは、黒毛和牛や神戸牛などの上質な肉を使ったパティ、焼きたてのバンズ、新鮮な野菜、特製のソースなど、すべての構成要素に妥協しません。

モスバーガーやフレッシュネスバーガーといった既存の国内チェーンも、高級バーガーラインを展開していますが、新興のグルメバーガー専門店はさらに一歩踏み込んだ品質を追求しています。店によっては行列ができるほどの絶品グルメとして評価され、従来のファストフードとは別物として位置づけられています。

インパクト大のビジュアルと価格帯

グルメバーガーのもう一つの特徴は、そのビジュアルです。バンズとパティともに分厚く、タワーのように積み重なったインパクト大の見た目は、SNS映えも意識した設計になっています。米国発の「シェイクシャック」や「UMAMIバーガー」などの高級バーガーブランドが日本に上陸して以来、このスタイルが定着しました。

価格帯は2000円から2200円程度が一般的で、マクドナルドの通常バーガーが数百円であることを考えると、4〜5倍の価格設定です。それでも、「普段はマック。でも月に一度は凝ったバーガーも食べたい」という顧客層が確実に存在し、市場を支えています。

健康志向と本格的な味

2015年に米国のハンバーガーチェーン「シェイクシャック」が日本初上陸を果たした際、健康志向かつ本格的な味を売りにしたグルメバーガーが話題となりました。フレッシュネスバーガーは、新鮮で高品質、しばしばオーガニックな食材に焦点を当て、居心地の良いカフェのような店舗で、より健康的でプレミアムな商品を求める顧客を引きつけています。

この健康志向のトレンドは、グルメバーガー市場全体の成長を後押ししています。

BRISK STANDの急成長:日本一からの全国展開

「切ったやつ」で一躍有名に

BRISK STAND(ブリスクスタンド)は、神戸に本店を構えるグルメバーガー専門店です。看板メニューの「切ったやつ」は、バーガーを半分に切り、鉄板で2度焼きしながら肉汁を吸わせるという独自の調理法が特徴です。このユニークなスタイルは、「#切ったやつ」というハッシュタグとともにSNSで拡散され、話題を呼びました。

2024年には「食べログ百名店」に選出され、ブランド認知度が一気に高まりました。そして2025年6月、横浜赤レンガ倉庫で開催された「JAPAN BURGER CHAMPIONSHIP 2025(バガチャン)」で、全国72チームの応募から勝ち抜き、初出場・初優勝を果たしました。決勝では45.9点という高得点を記録し、約73,000人の来場者の前で日本一の座を獲得しました。

この優勝により、BRISK STANDは10月に米国インディアナポリスで開催される「World Food Championships」のハンバーガー部門への出場権も獲得し、国際的な注目も集めています。

驚異的なスピードでの全国展開

BRISK STANDは、2024年から2025年にかけて急速に店舗数を拡大しています。2026年1月時点で全国11店舗を展開しており、その多くが直近1〜2年で開業しました。

主要な出店例:

  • 2024年9月:姫路店
  • 2024年10月〜11月:岡崎店、表参道店、歌舞伎町店を2週連続で3店舗同時展開
  • 2025年9月:名古屋初出店(栄店)
  • 2025年10月:堺店(ららぽーと堺内)
  • 2025年11月:北千住店

さらに、フランチャイズオーナーの募集も開始しており、加盟金やロイヤリティの体系を整備することで、より加速的な展開を目指しています。

立地戦略:都市部と商業施設への集中

BRISK STANDの出店戦略を見ると、東京(表参道、歌舞伎町、浅草、北千住)、愛知(岡崎、栄)、大阪(堺)、兵庫(神戸)など、主要都市圏に集中していることがわかります。特に、ららぽーと堺のような大型商業施設への出店は、安定した集客が見込める一方、高い賃料をカバーできる売上が必要です。

都市部の若年層や流行に敏感な顧客層をターゲットにすることで、SNS拡散を狙ったマーケティング戦略とも連動しています。

グルメバーガーチェーン展開の3つの壁

第一の壁:立地選定とドミナント化

飲食チェーンの展開において、立地戦略は最も重要な要素の一つです。グルメバーガーのような高単価業態は、一定以上の購買力を持つ顧客が集まるエリアでなければ成立しません。

ドミナント化の重要性:

チェーン展開の基本戦略として「ドミナント化」があります。これは、特定のエリアに集中的に出店することで、ブランド認知度を高め、物流コストを削減し、競合店を囲い込む手法です。バーガーキングは、2019年に全国77店舗まで減少していましたが、2025年12月時点で337店舗に拡大し、2028年末までに600店舗を目指しています。この成功の背景には、戦略的なドミナント出店があります。

BRISK STANDも、東京都内で複数店舗を展開することで、エリア内でのブランド浸透を図っています。

高賃料への対応:

都市部や商業施設への出店は、高い賃料を伴います。グルメバーガーの客単価は2000円前後と高いものの、回転率はファストフードに比べて低くなりがちです。賃料をカバーできる売上を維持するには、ピーク時間帯の集客最大化と、平日昼夜の需要喚起が不可欠です。

第二の壁:品質管理の標準化

グルメバーガーの価値は、その「品質」にあります。しかし、店舗数が増えるにつれ、品質を一定に保つことが難しくなります。

オペレーションの標準化:

チェーン展開の鉄則は、「標準化、平準化、簡素化、差別化」です。BRISK STANDの「切ったやつ」のように、特殊な調理工程がある場合、各店舗で同じ味と見た目を再現するためのトレーニングとマニュアル整備が必須です。

食材の一括調達と品質管理:

小規模店舗では大量仕入れができないため、食材単価が高くなりがちです。チェーン化により本部で購買を一元化することで、コストを削減しつつ、品質を統一できます。ただし、在庫管理のノウハウがなければ、廃棄率が高まるリスクもあります。

HACCPへの対応:

2021年6月から、日本では原則すべての食品事業者にHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が義務付けられています。グルメバーガーは生鮮食材を多用するため、温度管理、交差汚染の防止、継続的な監視・記録が求められます。チェーン展開する際には、全店舗でこの基準を満たす体制が必要です。

職人技のジレンマ:

グルメバーガーの多くは、職人の技に依存しています。しかし、チェーン展開では「誰が作っても同じ品質」が理想です。このジレンマを解決するには、調理工程の一部を機械化・システム化しつつ、核心部分は丁寧な技術伝承で対応するバランスが重要です。

第三の壁:幅広いファンづくり

「月に一度」から「週に一度」へ:

グルメバーガーは、「普段はマック。でも月に一度は凝ったバーガーも」という利用頻度が一般的です。しかし、チェーン展開で安定した売上を確保するには、この頻度を高める必要があります。

ロイヤルティプログラムや季節限定メニュー、SNSキャンペーンなどで、リピート率を向上させる施策が求められます。

インバウンド需要の取り込み:

ウェンディーズファーストキッチンでは、2023年に期間限定で発売した2000円前後の高級バーガーがインバウンド客に好評でした。日本のグルメバーガーは、海外からの観光客にとっても魅力的なコンテンツです。多言語メニューやキャッシュレス決済の充実など、インバウンド対応も重要な戦略です。

SNSマーケティングの活用:

BRISK STANDの「#切ったやつ」の成功が示すように、SNS映えするビジュアルと独自性は、マーケティングコストを抑えつつ認知度を高める強力な武器です。ユーザー生成コンテンツ(UGC)を促進し、口コミ効果を最大化することが、幅広いファンづくりにつながります。

グルメバーガーブームの持続性:

数年前に起きた「グルメバーガーブーム」は、現在やや落ち着いています。一過性のブームに終わらせず、定番の外食選択肢として定着させるには、継続的な価値提供と顧客体験の向上が不可欠です。

市場環境と競合動向

大手チェーンの動向

バーガーキング: 2019年に77店舗まで減少したバーガーキングは、積極的な出店戦略により2025年12月時点で337店舗に回復し、2028年末までに600店舗を目指しています。インフレ経済下でも限定的な値上げに抑え、消費者を維持したことが成功の要因です。

2025年には、ゴールドマン・サックスがバーガーキングの日本事業買収交渉の独占権を獲得したとの報道もあり、国際的な投資家からも注目されています。

ファットバーガー: 米国のプレミアムバーガーチェーン「ファットバーガー」は、2025年12月に沖縄に1号店をオープンし、日本市場に再参入しました。今後5年間で沖縄に4店舗を展開する計画です。

ウェンディーズファーストキッチン: プライベートエクイティファームのロングリーチが、ウェンディーズファーストキッチンの株式売却を検討していると報じられています。外食産業における投資家の動きが活発化しています。

グルメバーガー専門店の競争

フレッシュネスバーガーやモスバーガーといった既存チェーンも、高級バーガーラインを強化しています。さらに、地域密着型の個店も依然として人気があり、競争は激化しています。

2025年の「バガチャン」には、全国72チームが応募し、42チームが予選に進出しました。この数字は、日本全国に多数の実力あるグルメバーガー店が存在することを示しています。

原材料費と人件費の高騰

原材料費・人件費等のコストアップ要因や物価高による消費者の節約志向は、当面緩和・解消の見通しが立っていません。各チェーンは、価格改定、コスト削減、新メニュー開発、DX(デジタルトランスフォーメーション)による効率化などで対応しています。

グルメバーガーのような高付加価値業態でも、コスト管理の最適化は避けられない課題です。

注意点と今後の展望

チェーン化による個性の希薄化リスク

グルメバーガーの魅力は、その「個性」にあります。しかし、チェーン化により標準化が進むと、個店ならではの魅力が失われる恐れがあります。BRISK STANDのような成功例は、標準化と個性のバランスをどう取るかが鍵となります。

フランチャイズ展開の課題

BRISK STANDがフランチャイズオーナーを募集している背景には、急速な店舗拡大の狙いがあります。しかし、フランチャイズ展開では、品質管理、ブランドイメージの統一、加盟店との利益配分など、新たな課題も生じます。

海外展開の可能性

バガチャンの優勝者は、米国で開催される「World Food Championships」への出場権を獲得します。日本のグルメバーガーが国際的に評価されれば、海外展開のチャンスも広がります。BRISK STANDが世界大会でどのような評価を受けるかが、今後の展開に影響を与えるでしょう。

持続可能性への配慮

外食産業全体で、環境への配慮が求められています。地産地消、フードロス削減、プラスチック削減など、サステナビリティへの取り組みが、ブランド価値を高める要素となります。

DXによる効率化

デジタル技術の活用は、チェーン展開の効率化に不可欠です。モバイルオーダー、在庫管理システム、顧客データ分析など、DXによる業務改善が競争力を左右します。

まとめ

2000円超のグルメバーガーは、もはやニッチな存在ではなく、外食産業の重要な一角を占めつつあります。BRISK STANDをはじめとする新興チェーンが、日本一の座を獲得し、全国展開に挑戦していることは、この市場の成長性を示しています。

しかし、成功への道は平坦ではありません。立地選定とドミナント化、品質管理の標準化、幅広いファンづくりという3つの壁を乗り越える必要があります。職人技にこだわりながらも、チェーン展開に必要な標準化を実現する。高品質を維持しながらも、コストを最適化する。SNSでの話題性を保ちながらも、リピート率を高める。これらの矛盾する要求をバランスよく満たすことが求められます。

グルメバーガー市場の今後は、これらの課題にどう対応するかにかかっています。BRISK STANDの全国展開、そして世界大会での活躍が、日本のグルメバーガー産業全体の未来を占う試金石となるでしょう。

参考資料:

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