ラピダス、2026年春に後工程試作ライン稼働へ
はじめに
2027年度後半に北海道千歳市で最先端半導体の量産を目指すラピダスにとって、2026年は勝負の年となります。春にはウエハーから切り出したチップを電子基板に実装する「後工程」の試作ラインが稼働する予定です。
半導体製造において、後工程の重要性は近年急速に高まっています。経済安全保障の観点からも、国内でのサプライチェーン構築が焦点となっています。
本記事では、ラピダスの後工程戦略と技術的な課題、そして日本の半導体産業復活に向けた展望を解説します。
ラピダスの後工程開発拠点「RCS」
セイコーエプソン敷地内に設置
ラピダスは2024年10月、建設中の千歳工場(IIM-1)に隣接するセイコーエプソンの千歳事業所内に、後工程の研究開発拠点「Rapidus Chiplet Solutions(RCS)」の建設を開始しました。
この施設では床面積9000平方メートルのクリーンルームを整備し、先進パッケージング工程の試作ラインを設置します。2025年4月から製造装置の導入を開始し、2026年4月に本格的な研究開発を始める計画です。
対応する先端技術
RCSでは、最先端のパッケージング技術に対応します。具体的には以下の技術が含まれます。
- FCBGA(フリップ・チップ・ボール・グリッド・アレイ):高性能CPUやGPUに使用される実装技術
- シリコンインターポーザー:複数のチップを接続する中間基板
- RDL(再配線層):チップ上の配線を再構成する技術
- ハイブリッドボンディング:チップ同士を直接接合する先端技術
さらに、ラピダスは600mm角のガラス基板を使用したインターポーザーの試作も進めています。従来の300mm円形シリコンウエハーと比較して、1枚あたり最大10倍のインターポーザーを製造できるとされています。
前工程の進捗状況
2nm試作に成功
ラピダスは千歳工場で2nm(ナノメートル)世代の先端半導体の試作に成功しています。次世代の「ゲートオールアラウンド(GAA)」構造のトランジスタを製造し、正常に動作することを確認しました。
GAA構造は、トランジスタのゲートが電流を流すチャネルを全方向から囲む設計で、より精密な電流制御を可能にします。この構造での製造実績は国内初であり、世界でも数社程度とされています。
IBMとの戦略的提携
この技術の基盤となっているのが、IBMとの戦略的パートナーシップです。2022年12月に締結されたこの提携により、ラピダスはIBMが開発した2nm半導体技術のライセンスを取得しました。
小池淳義社長によると、「IBMから2nm半導体の製造を委託できないかという相談があり、そこからすべてが始まった」とのことです。IBMは米ニューヨーク州アルバニーの研究開発拠点で2021年に2nmプロセスを開発済みでした。
異例のスピード
注目すべきは開発のスピードです。通常6カ月かかるとされる2nmプロセスのロジック半導体を、ラピダスは12日と18時間で実現しました。社名「Rapidus」(ラテン語で「速い」の意味)の通り、スピードを強みとしています。
小池社長は「顧客の設計に十分に耐え得るものを確認できた」と語り、2027年量産開始に向けた自信を示しています。
後工程の重要性
パッケージング技術の進化
近年、半導体業界では後工程の重要性が急速に高まっています。かつては前工程(回路形成)や設計に比べて付加価値が低いとみなされていた後工程ですが、現在では半導体技術の中核として認識されています。
背景にあるのは、チップレット技術や2.5D/3D実装といった先端パッケージング技術の登場です。微細化の限界に近づく中、複数のチップを効率的に組み合わせることで性能向上を図る手法が主流となりつつあります。
経済安全保障の観点
経済安全保障の観点からも、後工程の国内回帰は重要な課題です。現在、半導体の後工程を担うOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)企業の多くはアジアに集中しています。
材料を調達して国内で前工程を行い、海外で後工程を行い、さらにテストを日本で行うという流れでは、リードタイムが長くなり、市場の変化にタイムリーに対応できません。また、地政学的リスクも高まります。
日本政府は経済安全保障推進法に基づき、半導体を「特定重要物資」に指定し、サプライチェーンの強靭化に向けた措置を講じています。2023年度の補正予算では約1兆9800億円が盛り込まれました。
課題と展望
前工程との連携
現在の課題は、前工程と後工程の足並みを揃えることです。後工程の試作開始が2026年4月であるのに対し、前工程の量産開始目標は2027年です。
試作ラインでの開発と並行して、量産用装置の選定を進め、千歳工場内に量産用の後工程ラインを構築する必要があります。RCSの試作ラインは2027年以降も稼働を続け、前工程の量産と並行して技術開発を進める計画です。
サプライチェーン構築
道内を中心としたサプライチェーンの構築も重要な課題です。半導体製造には多種多様な材料や装置が必要であり、それらを安定的に調達できる体制を整える必要があります。
幸い、日本は半導体の後工程に関連する素材や装置で高い技術力とシェアを持っています。これらの強みを活かしながら、国内での一貫生産体制を構築できるかが鍵となります。
国際連携の深化
ラピダスは国際的な連携も進めています。IBMとのパートナーシップに加え、LSTC(技術研究組合最先端半導体技術センター)、産業技術総合研究所、東京大学、ドイツのフラウンホーファー研究機構、シンガポールのA*STAR IMEなどとも協力関係を築いています。
2024年6月にはチップレット技術に関してIBMとの追加提携も発表されており、先端パッケージング技術の開発を加速しています。
まとめ
ラピダスの後工程試作ライン稼働は、日本の半導体産業復活に向けた重要な一歩です。2nm世代の前工程技術に加え、先端パッケージング技術を国内で確立することで、経済安全保障の観点からも価値の高いサプライチェーンを構築できる可能性があります。
2026年春の試作ライン稼働、そして2027年度後半の量産開始に向けて、ラピダスの挑戦は正念場を迎えます。IBMとの提携で培った技術力と、日本の素材・装置産業の強みを組み合わせ、世界最先端の半導体製造拠点を実現できるか、注目が集まっています。
半導体は現代のあらゆる産業の基盤であり、その国産化は日本の産業競争力に直結します。ラピダスの成否は、日本の経済安全保障と産業の未来を左右する重要な試金石となるでしょう。
参考資料:
- Rapidus establishes state-of-the-art back-end semiconductor manufacturing process research-and-development center
- Rapidus’ advanced packaging R&D line construction begins, aiming for official operation in April 2026
- ラピダスが後工程の開発急ぐ、前工程より遅れて量産か - 日経クロステック
- 2ナノ半導体の試作成功、ラピダス量産に弾み - ニュースイッチ
- ラピダス小池社長、世界初600mm角基板を披露 - マイナビニュース
- 半導体調達の未来を支える: 経済安全保障とサプライチェーンの再定義 - EY Japan
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