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by nicoxz

ラピダス顧客にキヤノン、2nm画像チップを共同開発

by nicoxz
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はじめに

先端半導体の量産を目指すラピダスが、キヤノンとカメラなどに使う画像処理用半導体の共同開発に乗り出すことが明らかになりました。国内の大手需要家がラピダスの顧客候補となるのは初めてのケースです。経済産業省傘下のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)も開発費の一部を支援し、ラピダス最大の課題だった顧客開拓を国を挙げて後押しする形です。

回路線幅2ナノメートル(nm)という最先端の微細化技術を使った画像処理チップを、北海道千歳市の工場で試作する計画です。半導体設計大手の米シノプシスも参画し、設計から製造までの一貫体制を構築します。本記事ではこの提携の意義と、ラピダスの事業化に向けた展望を詳しく解説します。

ラピダス×キヤノンの共同開発の全容

2nm画像処理チップの狙い

今回共同開発するのは、回路線幅2nmの画像処理用半導体です。画像処理チップは、デジタルカメラの高速連写やAF(オートフォーカス)制御、動画のリアルタイム処理など、大量の画像データを瞬時に演算する役割を担います。

キヤノンはミラーレスカメラ「EOS R」シリーズをはじめ、業務用映像機器、監視カメラ、医療画像機器など幅広い製品に画像処理チップを搭載しています。2nm世代のチップが実現すれば、従来比で大幅な処理速度向上と消費電力削減が可能になり、製品競争力の飛躍的な向上が期待できます。

開発体制と役割分担

今回のプロジェクトには3社が参画しています。キヤノンが要求仕様と用途を定義し、米シノプシスの日本法人が回路設計を担当します。そしてラピダスが北海道千歳市のIIM-1工場で2nmプロセスを使った試作・製造を行います。

NEDOはキヤノンとシノプシスに対する開発支援を公表しており、官民一体での取り組みとなっています。この支援スキームは、ラピダスの製造技術開発だけでなく、顧客側の設計・開発費用もカバーすることで、国内企業がラピダスとの連携に踏み出しやすい環境を整える狙いがあります。

ラピダスにとっての戦略的意義

最大の課題「顧客開拓」への突破口

ラピダスが2022年の設立以来、最も厳しく問われてきたのが「誰が顧客になるのか」という問題です。世界最先端の2nmプロセスを目指すとはいえ、量産実績がゼロの新興ファウンドリに最先端チップの製造を任せるのは、企業にとって大きなリスクです。

これまでラピダスのCEO小池淳義氏は「60社以上と協議中」と述べてきましたが、具体的な大手顧客の名前は明かされていませんでした。今回、日本を代表するグローバル企業であるキヤノンが顧客候補として名乗りを上げたことは、他の国内企業に対する強力なシグナルとなります。

IBM・Tenstorrentに続く顧客候補群の形成

海外では、技術パートナーであるIBMや、AI半導体のスタートアップであるTenstorrentがラピダスの潜在顧客として名前が挙がっています。キヤノンの参画で国内・海外の両面から顧客パイプラインが形成されつつあり、ラピダスの事業計画の実現性が一段高まったと評価できます。

ラピダスの現在地と2nm量産への道

技術開発の進捗

ラピダスは2025年4月にIIM-1工場のパイロットラインを稼働させ、同年7月には2nm世代のGAA(Gate-All-Around)トランジスタの動作実証に成功しています。IBMとの技術提携により、ニューヨーク州オルバニーの研究施設に150名以上のエンジニアを派遣して最先端プロセス技術の習得を進めてきました。

2026年2月には、IBMとの協力で2nmプロセスでのチップ製造を安定的に行えるマイルストーンに到達したと発表されています。現在もIBMから約10名のエンジニアが千歳工場に常駐し、技術移転が続いています。

資金調達と政府支援

ラピダスは2026年2月に、日本政府と民間企業から合計2,676億円の資金調達を完了しました。うち民間からは32社が計1,676億円を出資しています。キヤノンも出資企業の一社です。

政府はラピダスへの出資に対して拒否権を保持しており、半導体の国家戦略としての位置づけが明確です。ただし、2nm量産に必要な総投資額は数兆円規模とされ、追加の資金調達が今後も必要になる見通しです。

2027年量産開始への工程

ラピダスは2027年度中の2nm半導体量産開始を目標としています。月産2万5,000枚のウェハー処理能力を当初1年で構築する計画で、これは業界の常識を超えるスピードです。キヤノンとの共同開発による試作がこの工程表の中にどう組み込まれるかが、今後の注目点となります。

画像処理チップ市場の広がり

カメラ以外への応用

2nm画像処理チップの用途はカメラにとどまりません。自動運転車両では高解像度カメラからの映像をリアルタイムで処理する必要があり、低消費電力かつ高性能なチップへの需要が急増しています。遠隔医療では高精細な医療画像の送受信と解析が求められ、ここでも画像処理チップの高性能化は不可欠です。

キヤノンはカメラ以外にも、半導体露光装置や医療機器など幅広い事業を展開しています。今回の2nmチップ開発が成功すれば、自社の多様な製品群への展開が見込まれ、ラピダスへの発注量の拡大につながる可能性があります。

注意点・展望

今回の提携は前向きなニュースですが、いくつかの注意点があります。

まず、共同開発はあくまで「試作」段階であり、量産受託の正式契約ではない点です。試作の結果次第では、キヤノンが量産をラピダスに委託しない選択肢も残されています。現時点では既存のTSMCなど実績あるファウンドリとの比較において、ラピダスが品質・コスト・納期で競争力を示す必要があります。

また、2nmプロセスの量産は世界的にもTSMCとサムスンが先行しており、ラピダスが2027年に量産を開始できたとしても、最先端プロセスで3番手以降になる可能性があります。技術的な差別化や、日本企業との近接性によるサプライチェーン上の利点をどこまで訴求できるかが鍵です。

今後はキヤノンに続く国内大手の参画が焦点となります。自動車、通信、ロボティクスなどの分野で日本企業がラピダスとの連携を進めれば、「日本の半導体復権」は現実味を帯びてくるでしょう。

まとめ

キヤノンがラピダスの顧客候補に名乗りを上げたことは、ラピダスの事業化に向けた重要なマイルストーンです。NEDO支援のもと、シノプシスを含む3社体制で2nm画像処理チップの試作に取り組みます。

ラピダスはIBMとの技術提携で製造技術を確立しつつあり、2027年の量産開始に向けた準備が進んでいます。国内大手企業の参画実績を積み上げることで、さらなる顧客獲得の好循環が生まれるかが今後の焦点です。日本の半導体産業の将来を左右する動きとして、引き続き注目が必要です。

参考資料:

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