Research
Research

by nicoxz

株主総会の書面投票が廃止へ?電子投票時代の到来

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

法務省の法制審議会が、株主総会における書面投票の義務規定を廃止する方向で検討を進めています。実現すれば、企業は株主総会前の議決権行使をインターネット上のみで実施できるようになります。さらに、完全オンラインで開催する「バーチャルオンリー株主総会」の要件も緩和される見通しです。

現行の会社法では、議決権を持つ株主が1,000人以上の会社に対して書面投票制度の採用を義務付けています。しかし、電子投票の利用率が急速に高まる中、書面投票の維持が企業にとって大きな負担となっています。この記事では、検討されている制度改正の内容と、企業や株主への影響を詳しく解説します。

現行制度の仕組みと課題

書面投票制度とは

現在の会社法(第298条)では、議決権を行使できる株主が1,000人以上いる会社は、書面による議決権行使の制度を設けなければなりません。具体的には、株主総会の招集通知とともに議決権行使書面を郵送し、株主はその用紙に賛否を記入して返送するという仕組みです。

一方、電子投票制度は取締役会の決議によって任意に導入できるものの、書面投票の「代替」ではなく「追加」の手段として位置付けられています。つまり、電子投票を導入しても書面投票を廃止することはできず、企業は両方の制度を並行して運用する必要があります。

企業が抱える二重コストの問題

書面投票と電子投票を併用する企業は、議決権行使書面の印刷・郵送費用に加え、電子投票システムの運用費用も負担しています。特に近年の郵便料金値上げにより、大量の議決権行使書面を発送する上場企業のコスト負担は増大しています。

また、書面投票と電子投票の両方で議決権を行使した株主がいる場合、どちらを有効とするかの判断や集計作業にも手間がかかります。一般的には電子投票を優先する取り扱いが多いものの、法的な明確さに欠ける部分もあり、実務上の課題となっています。

法制審議会での検討内容

会社法制部会の設立と審議経過

2025年2月、法務大臣は会社法制に関する見直しを法制審議会に諮問しました。これを受けて新設された「会社法制(株式・株主総会等関係)部会」が2025年4月から審議を開始し、月1回のペースで議論を重ねています。部会では主に3つのテーマが検討されています。

1つ目は株式の発行の在り方、2つ目は株主総会の在り方、3つ目は企業統治の在り方です。今回の書面投票義務の廃止は、2つ目の「株主総会の在り方」に関する論点の一部として議論されています。

書面投票義務の廃止案

検討されている改正案の柱は、1,000人以上の株主を持つ会社に対する書面投票制度の義務付けを撤廃することです。これにより、企業はインターネット上での電子投票のみによる議決権行使制度を選択できるようになります。

ただし、これは書面投票そのものを禁止するわけではありません。企業が任意で書面投票を継続することは引き続き可能です。あくまでも「義務」を外し、企業に選択の自由を与えるという趣旨です。

バーチャルオンリー株主総会の要件緩和

もう1つの大きな論点が、バーチャルオンリー株主総会の要件緩和です。現行制度では、完全オンラインの株主総会を開催するには産業競争力強化法に基づく特例措置が必要で、以下の要件を満たす必要があります。

  • 上場会社であること
  • 定款にバーチャルオンリー総会を開催できる旨を定めること
  • 経済産業大臣および法務大臣の「確認」を受けること

法制審議会では、この制度を会社法本体に組み込み、大臣確認や定款変更を不要とする方向で検討が進んでいます。実現すれば、上場会社に限らず全ての会社がバーチャルオンリー株主総会を開催できるようになる可能性があります。

電子投票の普及状況と背景

電子投票が書面投票を逆転

電子投票の普及は近年急速に進んでいます。2024年6月の定時株主総会シーズンでは、三井住友信託銀行が業務受託した857社を対象にした調査で、総会前に議決権を行使した株主のうち電子投票の割合が52%に達し、初めて書面投票を上回りました。

この背景には、新型コロナウイルスの感染拡大以降、各企業が個人投資家向けに電子投票システムの導入を積極的に進めたことがあります。スマートフォンで簡単に議決権を行使できるサービスが広がり、特に若年層の投資家を中心に利用が拡大しています。

機関投資家向けプラットフォームの整備

機関投資家向けには、日本取引所グループが運営する「議決権電子行使プラットフォーム」が整備されています。このプラットフォームでは、議案情報の伝達から議決権行使、集計までをデジタルで完結させることが可能です。

個人投資家と機関投資家の双方で電子投票のインフラが整いつつある中、書面投票の義務を維持する合理性が薄れてきたというのが、今回の制度改正議論の背景にあります。

注意点・展望

デジタルデバイドへの対応が課題

電子投票への完全移行にあたって最も懸念されるのが、IT機器を持たない高齢者株主への配慮です。法制審議会でもこの点は重要な論点として取り上げられており、通信障害時のルール整備と合わせて議論されています。

書面投票の義務が廃止されても、企業が自主的に書面での議決権行使手段を残すことは可能です。しかし、コスト削減を目的として書面投票を完全に廃止する企業が増えた場合、議決権を行使できない株主が生じるリスクがあります。

中間試案と今後のスケジュール

法制審議会の部会は、2026年3月中にも中間試案を取りまとめる予定です。その後、パブリックコメントの手続きを経て、2026年度中のできるだけ早い時期に結論を得ることが目指されています。最終的な法制審議会での答申は2027年3月までに行われる見通しです。

つまり、実際の会社法改正が実現するのは早くても2027年以降となります。企業はこの間に電子投票システムの整備や、株主への周知を計画的に進める必要があります。

まとめ

法務省の法制審議会が検討している会社法改正は、株主総会の在り方を大きく変える可能性を秘めています。書面投票義務の廃止により企業の事務負担とコストが軽減され、バーチャルオンリー総会の要件緩和によって株主総会のデジタル化が一層加速するでしょう。

一方で、デジタルデバイドへの対応や通信障害時の株主保護など、解決すべき課題も残されています。投資家としては、今後の法改正議論の動向を注視しつつ、電子投票の利用に慣れておくことが重要です。企業の株主総会担当者は、中間試案の公表後にパブリックコメントへの意見提出も検討してみてはいかがでしょうか。

参考資料:

関連記事

最新ニュース