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by nicoxz

非上場企業の株主総会が9割同意で書面決議可能に

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はじめに

法務省が株主総会の書面決議制度の見直しに動いています。現行法では株主全員の同意が必要な書面決議を、議決権の9割の同意で可決できるよう要件を緩和する方針です。

この改正はスタートアップを念頭に置いたもので、非上場企業の意思決定スピードを速めることが目的です。この記事では、書面決議制度の仕組み、改正の背景、そしてスタートアップ経営への影響について詳しく解説します。

書面決議(みなし決議)制度とは

現行制度の概要

株主総会の書面決議とは、株主全員が書面または電磁的記録(電子メールなど)で同意することで、実際の株主総会を開催せずに決議を行う手続きです。会社法319条1項に定められており、「みなし決議」とも呼ばれています。

この制度を利用すれば、株主総会の招集通知の送付や会場の手配といった手続きを省略できます。報告事項だけでなく、特別決議を要する事項についても書面決議が可能です。

書面決議の手続き

書面決議を行う場合、まず取締役または取締役会が株主総会の議題を提案します。その後、代表取締役から全ての株主に「提案書」を郵送やメールで送付します。

全ての株主から「同意書」を返送してもらい、全員の同意書が揃った時点で株主総会決議があったものとみなされます。決議後は議事録を作成し、同意書とともに本店で10年間保管する義務があります。

現行制度の課題

現行制度では株主全員の同意が必要なため、1人でも反対する株主がいれば書面決議は成立しません。また、連絡が取れない株主や、同意書の返送が遅れる株主がいる場合も、手続きが滞ることがあります。

特にスタートアップでは、エンジェル投資家やベンチャーキャピタルなど複数の投資家が株主となるケースが多く、全員の同意を迅速に得ることが難しい場合があります。

法務省による制度改正の内容

9割同意での決議を可能に

法務省は、書面決議に必要な同意要件を「株主全員」から「議決権の10分の9(9割)」に緩和する方針です。これにより、少数の株主が反対しても書面決議が成立するようになります。

改正案は法制審議会(法相の諮問機関)での議論を経て、2026年度以降に会社法を改正する予定です。非上場企業を対象とした改正であり、上場企業には適用されない見込みです。

改正の目的

今回の改正は、スタートアップを念頭に置いた施策です。成長期のスタートアップでは、資金調達や事業拡大に伴う迅速な意思決定が求められます。株主総会の手続きに時間がかかることが、経営のボトルネックになることを防ぐ狙いがあります。

政府が推進するスタートアップ支援策の一環として、法制面からの環境整備が進められています。

スタートアップにおける株主総会の実態

頻繁な臨時株主総会の開催

成長期のスタートアップは、年1回の定時株主総会だけでは足りないケースが多くあります。資金調達による新株発行、ストックオプションの発行・付与、本店移転などの場面で、臨時株主総会を開催する必要があるためです。

スタートアップは年間平均3〜4回程度、何らかの株主総会を開催していると推定されています。その都度、招集通知の送付や議事録の作成といった手続きが発生し、経営者や管理部門の負担となっています。

迅速な意思決定の重要性

スタートアップにとって、スピードは競争力の源泉です。新規事業の開始や大型の資金調達では、タイミングを逃さないことが成功の鍵となります。

株主総会の招集には原則として1週間前の通知が必要ですが、全員の同意があれば招集手続きを省略できます。しかし、株主数が増えるにつれて全員の同意を得ることは難しくなり、意思決定のスピードが落ちる傾向があります。

現行法での対応策

現行法でもスタートアップが株主総会を迅速に行う方法はあります。定款で「招集通知の期間を短縮できる」旨を定めておくことで、招集期間を短縮できます。また、オンライン総会の活用も有効な手段です。

ただし、これらの方法にも限界があり、今回の法改正によるさらなる迅速化への期待が高まっています。

改正がもたらす影響

スタートアップへのメリット

9割同意で書面決議が可能になれば、少数株主の対応に時間を取られることなく意思決定を進められます。特に、連絡が取りにくい株主や、事務手続きに時間がかかる機関投資家がいる場合でも、9割の同意があれば決議を成立させられます。

これにより、資金調達のクロージングまでの期間短縮や、新規事業への迅速な投資判断が可能になることが期待されます。

少数株主保護の視点

一方で、少数株主の権利保護についての議論も必要です。9割の同意で決議が成立する場合、残り1割の株主の意見が反映されにくくなる可能性があります。

ただし、非上場企業では株主間契約などで事前に重要事項についての合意形成が行われていることが多く、書面決議の要件緩和による実質的な影響は限定的との見方もあります。

上場企業への影響

今回の改正は非上場企業を対象としており、上場企業には直接の影響はありません。上場企業は株主数が多いため、書面決議の利用は現実的ではなく、従来通り株主総会を開催することになります。

注意点と今後の展望

法改正の時期

法制審議会での議論を経て、2026年度以降に会社法改正が行われる見込みです。実際の施行までにはさらに時間がかかる可能性があり、具体的な適用開始時期は今後明らかになります。

実務上の準備

改正法の施行に備え、スタートアップは株主間契約や定款の見直しを検討しておくことが有益です。書面決議の活用方針や、少数株主への配慮について事前に整理しておくことで、改正後のスムーズな対応が可能になります。

他の法改正との連携

スタートアップ支援の観点からは、株主総会以外にも登記手続きの簡素化や、ストックオプション税制の拡充など、さまざまな施策が検討されています。今回の会社法改正もこうした一連の取り組みの一部として位置づけられます。

まとめ

株主総会の書面決議制度が見直され、9割の株主同意で決議が成立する方向で検討が進んでいます。スタートアップの迅速な意思決定を支援するための改正であり、2026年度以降の会社法改正が予定されています。

非上場企業の経営者にとっては、資金調達や事業拡大のスピードアップにつながる重要な法改正です。法制審議会での議論の進展を注視しつつ、改正に備えた準備を進めることをおすすめします。

参考資料:

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