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by nicoxz

スリープツーリズムが拡大中、首都圏ホテルの睡眠特化プランとは

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はじめに

「観光」でも「グルメ」でもなく、「眠ること」を目的に旅をする。そんな新しい旅のスタイル「スリープツーリズム」が、いま首都圏のホテルを中心にじわりと広がりを見せています。OECD加盟国のなかで最も睡眠時間が短いとされる日本において、睡眠の質を改善したいというニーズは年々高まっています。スリープテック市場が2026年に150億円規模に達すると予測されるなか、ホテル業界もこの潮流を見逃しません。最新の睡眠計測デバイスや高機能寝具、科学的アプローチに基づく快眠プログラムを組み込んだ宿泊プランが次々と登場しています。本記事では、スリープツーリズムが注目される背景と、首都圏ホテルの具体的な取り組みを詳しく解説します。

深刻な「睡眠負債」がスリープツーリズムを後押し

日本人の睡眠時間は世界最短レベル

スリープツーリズムが広がる最大の背景には、日本人の深刻な睡眠不足があります。OECD(経済協力開発機構)の調査によれば、日本人の平均睡眠時間は7時間22分で、加盟国33カ国のなかで最も短い結果となっています。OECD加盟国の平均が8時間28分であることを考えると、日本人は毎日1時間以上も睡眠が足りていない計算です。

特に深刻なのは働き世代です。2025年に実施された有職者1万人を対象とした調査では、平均睡眠時間は6時間50分にとどまりました。年代別では50代が最も短く6時間3分と報告されています。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」でも、30代から50代の男女の約半数が睡眠時間6時間未満と回答しています。

年間15兆円の経済損失

睡眠不足の影響は健康面にとどまりません。米国のシンクタンク「ランド研究所」の試算によれば、睡眠不足に起因する日本の経済損失はGDP比2.92%、年間最大約15兆円にも上るとされています。これはアメリカ(GDP比2.28%)やイギリス(同1.86%)を大きく上回り、調査対象国のなかで最も深刻な数値です。

こうした社会的な課題を背景に、「質の高い睡眠」を積極的に求める動きが活発化しています。Booking.comが33カ国・約2万7,730人を対象に実施した調査では、グローバルの旅行者の58%が「深い眠りを得るための旅をしたい」と回答しました。日本の旅行者でも51%が同様の回答をしており、睡眠を旅の主目的とする意識が広がっていることがわかります。

スリープテック市場の急成長が追い風に

スリープツーリズムの拡大を支えるもう一つの柱が、スリープテック市場の急成長です。矢野経済研究所の調査によると、国内のスリープテック市場は2020年の30億円から2022年に60億円へと倍増し、2024年には125億円に到達しました。2026年には150億円、2027年には160億円への拡大が見込まれています。

市場の拡大とともに参入企業も多様化しています。医療機器メーカーやヘルスケア企業にとどまらず、寝具メーカー、電機メーカー、情報通信企業、さらには大学発スタートアップまでが睡眠関連の製品やサービスを展開しています。こうした最新デバイスやサービスを「購入前に体験したい」というニーズが、ホテルのスリープツーリズムプランとの相性の良さにつながっています。

首都圏ホテルの注目プランを徹底紹介

ホテル椿山荘東京「Sleep wellステイ」

ホテル椿山荘東京が提供する「Sleep wellステイ」は、医学的アプローチが特徴的なプランです。宿泊前の自宅とホテルの両方で睡眠中の脳波を計測し、睡眠の深さや中途覚醒の有無などを科学的に分析します。そのデータをもとに、ホテル内クリニックの医師から個別にアドバイスを受けることができます。

滞在中は庭園ビューが確約された客室で、オリジナルアロマの香りに包まれながら過ごせます。ホテル内バーでのナイトキャップカクテルも含まれており、単なる宿泊にとどまらない総合的な睡眠改善体験を提供しています。自分の睡眠の質を数値で把握できるという点が、健康意識の高い宿泊者から好評を得ています。

ホテル1899東京「お茶と眠りのめぐりステイ」

新橋にあるお茶がテーマのホテル「ホテル1899東京」は、2026年3月1日から4月30日までの期間限定で「お茶と眠りのめぐりステイ -1899 SLEEP JOURNEY-」を展開しています。3月13日の「世界睡眠デー」と3月18日の「春の睡眠の日」に合わせて企画されたプランです。

このプランには「心と体の巡り」を良くするための9つの特典が用意されています。各客室には14段階の高さ調整が可能な高機能枕「No Sheep Pillow -Tuning-」が設置されています。夜はカモミールを茶香炉で焚いて安眠へと誘い、朝はほうじ茶ベースのおしるこやお茶料理で心地よい目覚めをサポートします。

さらに、夕方から夜にかけては2階のティーカウンターで、タルトチェリージュースやピスタチオ、ミルクを使ったノンアルコールの「スリープカクテル」を提供します。ジャーナリングや就寝前のストレッチなど、睡眠の悩みに応じたアクティビティも含まれています。料金は1泊1室1名利用で税込32,500円からです。

リビエラ逗子マリーナ「SLEEP WELL STAY」

リビエラ逗子マリーナ内の「マリブホテル」は、2026年2月5日より「SLEEP WELL STAY」プランの提供を開始しました。「海の静寂」という自然環境と、科学的な睡眠テクノロジーの融合がコンセプトです。

注目すべきは、血行促進効果が期待できる「ReFa VITALWEAR」の導入と、睡眠学・人間工学に基づいた寝具環境を診断する「EMOORの診断メソッド」のホテル初導入です。シモンズ製ベッドにEMOOR製マットレスを組み合わせ、宿泊者一人ひとりに最適な睡眠環境を提案します。1日1組限定という贅沢な設定で、料金は通常宿泊料金に1名あたり12,500円(税・サービス料込)の追加です。

就寝前にはハーブティーやショコラなどのルームサービスが提供されるほか、光と音による安眠空間の演出も行われます。オプションとして船上モーニング、朝の海ヨガ、絶景の「OCEAN SAUNA」なども用意されており、湘南の自然を活かした総合的なウェルネス体験を楽しめます。

その他の注目プラン

ザ・プリンス パークタワー東京は、快眠セラピスト監修の「快眠サポートステイ」プランを展開しています。持ち帰り可能なパジャマや枕、マッサージグッズなどの充実したアメニティが特徴です。ホテルグランバッハ東京銀座では、全室にハイエンドベッド「Sirta」を導入し、YAMAHAの高音質サウンドバーでバッハの楽曲を通じたリラクゼーションプログラムを提供しています。

今後の展望と利用時の注意点

グローバルに拡大するスリープツーリズム市場

スリープツーリズムは日本だけでなく、世界的に急成長しています。グローバルのウェルネスツーリズム市場は2028年までに1.35兆ドル(約200兆円)に達する見通しで、2022年の6,370億ドルから倍増する勢いです。なかでも睡眠に特化したツーリズム分野は6,900億ドル規模とされ、2024年から2028年にかけてさらに4,000億ドルの成長が予測されています。

最先端のホテルでは、AIがREM睡眠の周期に応じてリアルタイムで温度を調整するベッドや、専任の「スリープコンシェルジュ」を配置するなど、テクノロジーの活用がますます進んでいます。日本のホテルにも今後、こうしたグローバルトレンドがさらに波及してくることが予想されます。

利用時に押さえておきたいポイント

スリープツーリズムを効果的に活用するためには、いくつかの点を意識すると良いでしょう。まず、1泊だけでは睡眠の質の劇的な改善は期待しにくいという点です。多くの専門家は、得られた知見やテクニックを日常生活に取り入れることの重要性を指摘しています。

また、料金は通常の宿泊プランよりも割高になる傾向があります。ホテル1899東京の32,500円、マリブホテルの追加料金12,500円など、睡眠特化の付加価値に対してどの程度の投資が適切かは、個人の睡眠に対する課題意識によって判断が分かれるところです。

さらに、プランの内容はホテルによって大きく異なります。医学的な脳波計測を重視するのか、リラクゼーション体験を重視するのか、最新デバイスの体験を目的とするのか。自分のニーズに合ったプランを事前にしっかり比較検討することが大切です。

まとめ

スリープツーリズムは、日本人の深刻な睡眠不足という社会課題と、スリープテック市場の急成長という二つの潮流が交差するところに生まれた、新しい旅の形です。首都圏のホテルでは、脳波計測による科学的分析、お茶文化と融合した安眠プログラム、海辺の自然環境を活かしたリラクゼーションなど、それぞれの個性を打ち出した宿泊プランが続々と登場しています。

年間15兆円ともいわれる睡眠不足の経済損失を踏まえれば、良質な睡眠への投資は個人の健康だけでなく、社会全体の生産性向上にもつながります。周辺観光やグルメに代わる旅の新たな目的として、スリープツーリズムは今後さらに多くの人々に受け入れられていくことでしょう。

参考資料

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