ソフトバンクG株、4000円台の壁を越えられるか
はじめに
ソフトバンクグループ(SBG、9984)の株価が再び4000円台に挑戦しています。3月26日には前日比279円(7.3%)高の4088円まで上昇し、約3週間ぶりの高値を記録しました。きっかけは、傘下の英半導体設計企業Armが35年の歴史で初となる自社製チップ「AGI CPU」を発表したことです。
しかし、市場関係者の間では4000円台での「売りの壁」を意識する声が少なくありません。2026年1月の株式分割以降、新たな投資家層が参入する一方で、この価格帯が需給面で重要な節目となっています。本記事では、SBG株が一段高を達成するための条件と課題を分析します。
Armの歴史的転換が株価を押し上げる
初の自社製チップ「AGI CPU」の衝撃
3月24日、Armのレネ・ハースCEOがサンフランシスコで発表した「AGI CPU」は、同社にとって歴史的な転換点です。これまでArmはApple、NVIDIA、Amazonなどにチップ設計のライセンスを提供するIP(知的財産)企業でした。しかし今回、自らシリコンを製造・販売するという新たなビジネスモデルに踏み出しました。
AGI CPUはTSMCの3nmプロセスで製造され、最大136個のNeoverse V3コアを搭載します。オールコア動作で3.2GHz、ブースト時には3.7GHzに達し、TDP(熱設計電力)は300ワットです。x86アーキテクチャのプロセッサに対して最大2倍の性能を発揮するとされています。
Metaが初の顧客、年間売上150億ドルを目標
注目すべきは顧客の顔ぶれです。Metaがアンカーカスタマーとして名を連ね、さらにOpenAI、Cloudflare、SAP、Cerebras、SK Telecomなど計8社が商業契約を結んでいます。Armはこの自社チップ事業で5年以内に年間150億ドル(約2兆2000億円)の売上を目指すとしており、ライセンス収入だけに依存しない収益構造への転換を図っています。
この発表を受けて、Armの米国上場株は一時16%以上の急騰を見せました。SBGはArmの約90%の株式を保有しているため、Armの株価上昇は直接的にSBGの含み益拡大につながります。
4000円台に立ちはだかる「売りの壁」
株式分割後の新たな需給構造
SBGは2026年1月1日に1対4の株式分割を実施しました。分割前の株価は約1万5000〜2万2000円台で推移しており、最低投資金額が200万円を超える場面もありました。分割により投資単位が4分の1に下がったことで、個人投資家の参入ハードルは大きく低下しています。
しかし、この新たな投資家層は短期志向の傾向が強いとの指摘があります。分割後に参入した投資家の中には、4000円台で利益確定を急ぐ層が一定数存在すると見られています。分割前の1万6000円(分割後換算4000円)付近は過去にも売り圧力が強まった水準であり、テクニカル的にも意識される価格帯です。
信用取引の動向にも注意
SBG株は個人投資家の信用取引が活発な銘柄の一つです。株価が急落した3月上旬に買い向かった信用買いのポジションが、4000円台への戻りで含み損が解消されるため、「やれやれ売り」(損失解消に伴う手仕舞い売り)が出やすい環境にあります。こうした需給面のオーバーハング(潜在的な売り圧力)が、株価の上値を抑える要因として懸念されています。
SBGの企業価値と今後の見通し
NAVは過去最高を更新
SBGの投資価値を測る指標であるNAV(純資産価値)は、2026年3月期第1四半期時点で35.3兆円と過去最高を記録しました。OpenAIへの出資に伴う投資利益もあり、同四半期の親会社帰属純利益は前年同期比398.7%増の3兆1727億円に達しています。
アナリストの目標株価コンセンサスは平均5417円で、現在の株価から約35%の上昇余地があるとの見方が示されています。13名のアナリストが「買い」を推奨し、「売り」は2名にとどまっています。
AIインフラへの「フルベット」戦略
孫正義会長兼社長は、ASI(人工超知能)の実現に向けた「フルベット」戦略を掲げています。OpenAI(頭脳)、Arm・Ampere(神経・回路)、ABBロボティクス(身体)を軸にAIバリューチェーン全体を垂直統合する構想です。今回のArm自社チップ参入は、この戦略の重要なピースが埋まったことを意味します。
ただし、ArmがチップIPのライセンス先と直接競合するリスクも指摘されています。Apple、NVIDIA、Qualcommなど既存の大口顧客との関係に影響が出る可能性があり、この点は中長期的なリスク要因として注視が必要です。
注意点・展望
4000円台の壁を越えるには、いくつかの条件を満たす必要があります。まず、Armの自社チップ事業が単なる発表にとどまらず、実際の受注や売上として数字に表れることが重要です。次に、信用買いの整理が進み、需給が軽くなる期間を経る必要があるでしょう。
テクニカル面では、4000円台を数日間にわたって維持できるかが焦点です。終値ベースで4000円を安定的に上回れば、次の上値目標として分割後高値の4500円付近が意識されます。一方、再び4000円を下回る展開となれば、3500〜3800円のレンジでのもみ合いが長引く可能性があります。
米国のAI関連株全体の動向も無視できません。NVIDIAやMicrosoftなどの米テック株が堅調に推移することが、SBG株の追い風となる条件の一つです。
まとめ
ソフトバンクグループの株価は、Armの歴史的な自社チップ参入を追い風に4000円台を回復しました。しかし、株式分割後の新たな需給構造や信用取引のオーバーハングが「売りの壁」として立ちはだかっています。
中長期的には、NAVの過去最高更新やAIフルベット戦略の進展がポジティブな要因です。短期的には4000円台の定着が焦点となり、Armの受注動向や米テック株の地合いが鍵を握ります。投資家としては、目先の値動きに一喜一憂するよりも、SBGが描くAIバリューチェーン構築の進捗を冷静に見極めることが重要です。
参考資料:
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