ソニー・ホンダEV中止、米政策転換と電動化の行方
はじめに
ソニー・ホンダモビリティ(SHM)は2026年3月25日、EV「AFEELA 1」および第2弾モデルの開発・発売を中止すると発表しました。約9万ドルの価格で2026年内に米国で納車開始予定だった同車は、オハイオ州での試験生産も始まっていた段階での撤退となります。
直接の原因はホンダのEV戦略の抜本的見直しですが、その背景にはトランプ政権による米国のEV政策転換があります。補助金廃止と関税政策の影響で米国EV市場が縮小する中、BYDなど中国勢が世界市場で存在感を増しており、日本メーカーの電動化競争での後れが鮮明になっています。
ホンダのEV戦略見直しと巨額損失
北米向けEV3車種の開発中止
ホンダは2026年3月12日、四輪電動化戦略の見直しを発表しました。北米で生産予定だったEV3車種「Honda 0 SUV」「Honda 0 Saloon」「Acura RSX」の開発・発売を中止する決定です。
この見直しに伴う損失は甚大です。2026年3月期の連結業績において、営業費用として8,200億円~1兆1,200億円、持分法による投資損失として1,100億円~1,500億円を計上する見込みとなりました。来期以降を含めた累計の損失は最大2兆5,000億円に達すると試算されています。
ホンダにとって上場以来初の連結最終赤字に転落する見通しであり、経営への衝撃の大きさがうかがえます。
SHMへの波及
AFEELA 1は、ホンダからの技術やアセット提供を前提に設計されていました。ホンダの戦略転換により、これらのリソースが活用困難になったことで、SHMは「これまでの企画通りに商品化することが困難」と判断しました。
三部敏宏社長は「複数シナリオがなかった」と戦略の反省点を認めており、EV一本足での計画がリスク要因だったことが浮き彫りになりました。
米国のEV政策転換が生んだ逆風
EV補助金の撤廃
トランプ政権は2025年9月30日、インフレ削減法(IRA)に基づくEV購入時の7,500ドル(約112万円)の税額控除を撤廃しました。さらに10月にはエネルギー省が再生可能エネルギー関連の223件のプロジェクトに対する総額75億6,000万ドルの補助金を撤回しています。バッテリーリサイクル向けの約7億ドルの補助金も打ち切られました。
この政策転換の影響は数字に明確に表れています。EV税額控除撤廃後の2025年11月、米国の全新車販売におけるEVの割合は6.3%にまで低下しました。自動車情報サイトのエドマンズは、2026年のEVシェアが6.0%にまで落ち込むと試算しています。
自動車関税の引き上げ
EV補助金廃止に加え、トランプ政権は自動車関税も引き上げました。従来2.5%だった関税に25%を上乗せし、27.5%まで引き上げる大統領令に署名しました。その後、日米合意を受けて15%に引き下げられましたが、依然として従来の6倍の水準です。
この関税政策は日本の自動車メーカー全体に打撃を与えています。スバルは大幅な利益減少に見舞われ、マツダは赤字に転落しました。ホンダにとっても米国市場の不透明さがEV投資の継続を困難にした大きな要因の一つです。
中国勢との電動化競争で広がる差
BYDを中心とする中国メーカーの躍進
ホンダやソニーが構想段階で足踏みする一方、中国のEVメーカーは着実に世界市場でのシェアを拡大しています。BYDはすでに販売台数でテスラを上回り、世界最大のEVメーカーとしての地位を確立しました。
BYDは2026年後半に日本市場へPHEV(プラグインハイブリッド車)2車種「ATTO 2」と「SEAL 6」を投入する方針を示しており、同年夏には軽自動車EV「RACCO」の発売も予定しています。RACCOは同社初の海外専用設計車であり、日本市場への本格攻勢の姿勢が鮮明です。
日本メーカーの課題
中国勢が生産のモジュール化やスケールメリットを武器にEV価格の引き下げを実現する中、日本メーカーは開発コストの回収すら見通しが立たない状況に追い込まれつつあります。
ホンダのEV3車種開発中止と最大2兆5,000億円の損失は、日本の自動車産業が電動化の波に乗り遅れるリスクを端的に示しています。AFEELAの中止は、この構造的な問題の象徴的な出来事といえるでしょう。
注意点・展望
ハイブリッドへの回帰は最適解か
ホンダはEV戦略の見直しに伴い、ハイブリッド車の強化に舵を切っています。米国でのEV需要鈍化を踏まえた短期的には合理的な判断ですが、中長期的にはリスクをはらんでいます。
欧州や中国ではEVシフトが続いており、米国の政策も政権交代で再び変わる可能性があります。ハイブリッドへの過度な依存は、次のEV需要拡大期に再び出遅れるリスクにつながりかねません。
SHMの行方
SHMは解散ではなく、事業方針の見直しを行う段階にあります。ソニー、ホンダ、SHMの3社は「JVの設立主旨に立ち返り」、中長期的な方向性を協議するとしています。しかし、ホンダが自社のEV事業自体を大幅に縮小する中で、SHMが新たなハードウェア事業を展開する道筋は見えにくいのが現状です。
ソフトウェアやモビリティサービスに特化した事業体への転換も選択肢ですが、具体的な方向性はまだ示されていません。
まとめ
ソニー・ホンダモビリティのAFEELA開発中止は、米国のEV政策転換がもたらした連鎖的な影響の表れです。トランプ政権による補助金廃止と関税引き上げが市場を冷え込ませ、ホンダのEV戦略見直しを引き起こし、結果的にSHMのEV事業を頓挫させました。
BYDなど中国勢との電動化競争では差が広がっており、日本の自動車産業にとって構造的な課題が浮き彫りになっています。ホンダのハイブリッド回帰が吉と出るか凶と出るか、そしてSHMが新たな方向性を見出せるのか、今後の展開が注目されます。
参考資料:
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