グリーンランドめぐり米欧対立、関税報復の応酬へ
はじめに
トランプ米大統領がデンマーク自治領グリーンランドの取得を目指し、反対する欧州8カ国に追加関税を課す方針を表明しました。これに対しEU(欧州連合)は17兆円規模の報復措置を検討するなど、欧米関係に深刻な亀裂が生じています。
グリーンランドは北極圏に位置し、レアアースなどの戦略資源が眠る要衝です。米国は100年以上にわたり購入を画策してきましたが、デンマークとグリーンランドは一貫して拒否してきました。
本記事では、なぜトランプ大統領がグリーンランドにこだわるのか、追加関税の内容と欧州の対応、そして今後の欧米関係への影響について詳しく解説します。
トランプ大統領の追加関税表明
欧州8カ国に10%の関税上乗せ
トランプ大統領は2026年1月17日、グリーンランド領有に反対しデンマークを支持する欧州8カ国に対し、10%の追加関税を課すと発表しました。
対象国(2月1日発効)
- デンマーク
- ノルウェー
- スウェーデン
- フランス
- ドイツ
- 英国
- オランダ
- フィンランド
これらの国からの「あらゆる製品」が追加関税の対象となります。合意に至らない場合、2026年6月1日には25%へ引き上げるとされています。
発表の背景
トランプ大統領の発表は、デンマークなど欧州8カ国がグリーンランドでNATO(北大西洋条約機構)の軍事演習を実施すると表明したことへの対抗措置です。
ホワイトハウスのレビット報道官は「トランプ大統領はグリーンランドの取得が米国の国家安全保障上の優先事項であることを繰り返し明らかにしてきた」と説明しています。
さらに、グリーンランド取得のために「米軍の活用も常に選択肢のひとつだ」と表明するなど、NATO同盟国に対して異例の圧力をかけています。
グリーンランドでの抗議活動
この動きに対し、グリーンランドの中心都市ヌークでは大規模な抗議集会が開かれました。島の人口5万6,000人のうち、推定約5,000人が参加したとされています。
なぜ米国はグリーンランドを欲しがるのか
地理的・軍事的重要性
グリーンランドは世界最大の島であり、その3分の2以上が北極圏内に位置しています。この立地が軍事的に極めて重要です。
軍事的価値
- ミサイル警報システム - モスクワとニューヨークの間に位置するピツフィク宇宙軍基地は、米軍の最北拠点としてミサイル警報を担う
- GIUKギャップの監視 - NATOが北大西洋におけるロシア海軍の動きを監視する要衝の一部
- 北米防衛の前線 - 第二次世界大戦以降、北米防衛の重要拠点として機能
1951年の防衛協定に基づき、米国はグリーンランド北西部に空軍基地を建設し、現在も運用を続けています。
豊富な戦略資源
グリーンランドには、現代経済に不可欠な戦略資源が豊富に眠っています。
主な資源
- レアアース(希土類元素)
- 黒鉛
- ニオブ
- その他約39種類の重要鉱物
これらは携帯電話、コンピューター、電気自動車用バッテリー、風力タービン、半導体、軍事装備品の製造に不可欠です。
特に重要なのは、世界のレアアース採掘・加工で中国が圧倒的なシェアを占めている点です。米中貿易戦争が激化する中、中国に依存しないレアアース供給源の確保は米国にとって戦略的優先事項となっています。
気候変動で高まる価値
地球温暖化により、グリーンランドの戦略的価値は一段と高まっています。
- 北極海航路の開通 - 氷解が進み、年間を通じた航行が可能になりつつある
- 資源採掘の容易化 - 氷床の融解でレアアース採掘がより現実的に
- 新たな地政学的競争 - ロシア・中国も北極圏での影響力拡大を狙う
中国は2018年に自国を「近北極国家」と位置づけ、「極地シルクロード」構想を打ち出しています。北極圏での米中ロの競争が激化する中、グリーンランドの重要性は増す一方です。
欧州の反発と報復措置
各国首脳の反応
トランプ大統領の発表に対し、欧州各国は一斉に反発しました。
フランス・マクロン大統領 「受け入れられない。関税が確認されれば欧州は協調して対応する」
英国・スターマー首相 「NATO同盟国の集団安全保障を追求するために同盟国に関税を課すのは完全に誤りだ」
ドイツ 「欧米の関係を損ない、危険な悪循環に陥るリスクがある」との懸念を表明
EUの報復措置検討
EUは930億ユーロ(約17兆円)規模の報復措置を検討しています。具体的な対象品目として以下が挙げられています。
| 品目 | 規模(推定) |
|---|---|
| 航空機 | 131億ユーロ |
| 乗用車 | 73億ユーロ |
| 医療機器 | 64億ユーロ |
| コンピューター・部品 | 53億ユーロ |
フランスはEUに対し、最も強力な対抗手段である「反威圧措置」(ACI)の発動検討を求めています。これは経済的威圧をかける国に反撃するためのツールで、これまで発動されたことはありません。
マクロン大統領の呼びかけ
マクロン大統領は企業に対し、米国での投資を見合わせるよう呼びかけています。貿易だけでなく、投資面でも米国に圧力をかける姿勢を示しています。
ウクライナ支援への影響
難しいバランス
欧州にとって、米国との対立は深刻なジレンマをもたらします。
ウクライナへの軍事・経済支援において、米国の協力は不可欠です。欧米関係が悪化すれば、ウクライナ支援の継続に影響が及ぶ可能性があります。
欧州が直面するジレンマ
- 主権・領土保全の原則を守る必要性
- ウクライナ支援での米国との協力維持
- 経済的な報復合戦の回避
グリーンランド問題で米国と対立しながら、ウクライナ問題では協力を維持するという難しい外交が求められています。
NATO同盟への影響
トランプ大統領がNATO同盟国に対して関税という圧力をかけることは、同盟関係の信頼性に疑問を投げかけます。
「集団安全保障のために同盟国に関税を課す」という矛盾した行動は、今後のNATOの結束にも影を落とす可能性があります。
注意点・今後の展望
関税の悪循環リスク
専門家は「危険な悪循環」への懸念を指摘しています。
- 米国が関税を課す
- 欧州が報復措置を発動
- 米国がさらに関税を引き上げ
- 貿易戦争が本格化
このシナリオが現実化すれば、世界経済全体に悪影響が及びます。
交渉の余地
2月1日の発効まで交渉の時間があります。過去にもEUは報復措置の発動を延期し、米国との交渉に臨んだ経緯があります。
ただし、グリーンランドの領有権という本質的な問題で妥協点を見出すことは容易ではありません。
日本への影響
欧米間の貿易戦争が激化すれば、日本企業にも影響が及ぶ可能性があります。
- 欧米市場への輸出に影響
- サプライチェーンの混乱
- 為替市場の変動
特に自動車産業など、欧米両市場に拠点を持つ企業は動向を注視する必要があります。
まとめ
トランプ大統領はグリーンランド取得を目指し、反対する欧州8カ国に10%の追加関税を課す方針を表明しました。グリーンランドは北極圏の軍事的要衝であり、レアアースなど戦略資源が眠る地でもあります。
EUは17兆円規模の報復措置を検討しており、欧米間の貿易戦争に発展する懸念があります。一方で、ウクライナ支援やNATO同盟での協力を維持する必要もあり、欧州は難しい判断を迫られています。
2月1日の関税発効を前に、外交交渉が進むかどうかが注目されます。
参考資料:
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