米、欧州8カ国に追加関税、グリーンランド購入を要求
はじめに
トランプ米大統領は2026年1月17日、デンマーク自治領グリーンランドの取得に反対する欧州8カ国に対し、2月1日から10%の追加関税を課すとSNSで表明しました。6月1日には税率を25%に引き上げるとしており、米国がグリーンランドを「完全かつ全面的に購入する」まで関税をかけ続けると宣言しています。
トランプ氏がグリーンランドへの関心を示すのは今回が初めてではありません。2019年にも購入に言及して物議を醸した経緯があります。しかし今回は関税という具体的な圧力手段を伴っており、欧米関係に深刻な亀裂をもたらしかねない事態となっています。
本記事では、グリーンランドの戦略的重要性、トランプ政権の狙い、欧州各国の反応について詳しく解説します。
グリーンランドの戦略的重要性
地政学的位置と北極圏の競争
グリーンランドは北米大陸と欧州の間に位置し、カナダ、グリーンランド、アイスランド、英国を経由する海上航路(GIUKギャップ)に跨っています。領土の3分の2以上が北極圏内にあり、第二次世界大戦以降、北米防衛にとって重要な役割を果たしてきました。
気候変動によって北極の氷が薄くなり、国際貿易のための北西航路が開かれる可能性が高まっています。それに伴い、地域の鉱物資源へのアクセスをめぐってロシアや中国との競争が再び激化しています。
トランプ大統領は「世界平和と安全保障がかかっている」と主張し、ロシアや中国がグリーンランドを狙っているとして、デンマークには十分な防衛力がないと強調しました。
レアアースと希少資源
グリーンランドには、レアアース、黒鉛、ニオブなど、米国の国家安全保障や経済安定に不可欠とされる50種類の鉱物のうち約39種類が存在するとされています。酸化物換算量で米国と同等規模である150万トンの埋蔵量が確認されており、未開発地域としては世界最大規模のポテンシャルを持っています。
米中貿易摩擦が激化する中、中国は世界のレアアース採掘・加工で圧倒的なシェアを誇り、米国に対してレアアースの輸出規制を発動しています。2025年には米国による大幅な関税引き上げを受け、サマリウム、ガドリニウム、テルビウムなど7つのレアアース元素を輸出管理の対象品目に追加しました。
ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイのクラウス・ドッズ教授は「グリーンランド取得の真の目的は、中国の締め出しにあるのだろう」と指摘しています。
追加関税の詳細と対象国
関税措置のスケジュール
トランプ大統領が表明した関税措置は以下のとおりです。
- 2026年2月1日: 10%の追加関税を発動
- 2026年6月1日: 税率を25%に引き上げ
- 終了条件: 米国がグリーンランドを「完全かつ全面的に購入」するまで継続
対象となる欧州8カ国
関税の対象として挙げられたのは以下の8カ国です。
- デンマーク(グリーンランドの宗主国)
- ノルウェー
- スウェーデン
- フィンランド
- フランス
- ドイツ
- オランダ
- 英国
これらの国々は、グリーンランド購入に反対する姿勢を示したとしてトランプ政権から圧力を受けることになります。北欧諸国に加えて、EU主要国である仏独蘭、さらにEUを離脱した英国も含まれている点が注目されます。
欧州各国の反応
一斉に反発する欧州首脳
トランプ大統領の発表に対し、欧州諸国は一斉に反発しています。
フランスのマクロン大統領は「受け入れられない」と強く批判し、関税が実際に発動されれば欧州は協調して対応すると表明しました。英国のスターマー首相も「NATO同盟国の集団安全保障を追求するために同盟国に関税を課すのは完全に誤りだ」と指摘しています。
NATOの同盟国間で関税を武器にした圧力が行使されることへの懸念が高まっています。これは通商問題にとどまらず、西側同盟の結束そのものを揺るがしかねない事態です。
グリーンランドでの抗議活動
グリーンランドの中心都市ヌークでも大規模な抗議集会が行われました。島の人口5万6000人のうち約5000人が参加したと推定されており、これは人口の約9%に相当する規模です。参加者は「ヤンキーは帰れ」「グリーンランドはすでに偉大だ」と書かれた横断幕を掲げ、米国による領有への強い反発を示しました。
グリーンランドの自治と独立問題
デンマークとの関係
グリーンランドはデンマーク王国の一部ですが、広範な自治が認められています。1979年に自治権を獲得し、2009年には自治協定によって政治的権限がさらにデンマーク政府からグリーンランド政府へと移譲されました。
独立には住民投票で賛意を得た上で、自治政府とデンマーク政府の交渉を経て、最終的にデンマーク議会の同意が必要となります。2023年には自治政府が初めて独自の憲法草案を作成・公表し、2025年1月3日には自治政府首相がデンマークからの独立を目指す方針を表明しました。
独立派と慎重派の対立
2025年1月時点で約56%の住民が独立志向を示していますが、2025年3月の議会選挙後は「独立を急がない」あるいは「独立に慎重」な4政党が連立を組んでいます。
独立への最大の障壁は経済的な問題です。グリーンランドの財政の約30%はデンマーク政府からの補助金に依存しており、自治政府予算の約半分をデンマークの補助金に頼っています。独立すればこの補助金を失うことになり、財政的な自立が課題となります。
注意点・今後の展望
採掘の現実的な課題
トランプ政権がグリーンランドの資源に期待を寄せる一方で、実際の採掘には大きな課題があります。北極研究所のマルテ・ハンパート氏は「グリーンランドを米国のレアアース工場にするという考えはSFだ」と述べています。
グリーンランドの地表は約80%が氷に覆われており、北極圏での採掘は地球上の他の場所に比べ5〜10倍もの費用がかかる可能性があります。また、これまで豪州や中国の企業が開発を試みてきたものの、住民合意の問題から進展は限定的でした。
米EU関係への影響
2025年7月には米国とEUの間で関税協議が妥結し、相互関税や自動車関税の税率を15%に下げることで合意していました。今回のグリーンランドをめぐる追加関税は、この合意とは別の政治的圧力として位置づけられています。
EUはこれまでも米国の関税に対し、260億ユーロ規模の対抗措置を準備してきた経緯があります。グリーンランド問題でさらに関係が悪化すれば、報復関税の応酬に発展する可能性も否定できません。
北極圏をめぐる国際競争
グリーンランド問題は、より大きな北極圏をめぐる国際競争の一部です。ロシアと中国も北極圏の航路や資源に関心を高めており、米国としては戦略的拠点を確保したいという思惑があります。
しかし、NATO同盟国であるデンマークの領土を強引に取得しようとする姿勢は、西側同盟の信頼関係を損なうリスクをはらんでいます。
まとめ
トランプ大統領がグリーンランド取得に反対する欧州8カ国に追加関税を課すと表明したことは、北極圏の戦略的重要性とレアアース資源をめぐる国際競争を背景としています。2月1日から10%、6月1日から25%という段階的な関税引き上げは、欧州への強い圧力となります。
一方で、グリーンランドの住民は米国による領有に強く反発しており、欧州各国もNATO同盟国間での関税圧力を批判しています。北極圏での採掘の現実的課題も考慮すると、グリーンランド取得が実現する可能性は低いと見られます。
今後は、この問題が米EU関係全体にどのような影響を与えるか、また北極圏をめぐる米中ロの競争がどのように展開するかが注目されます。
参考資料:
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