欧州株が全面安、グリーンランド巡る関税対立で
はじめに
欧州株式市場が揺れています。2026年1月19日、主要な株価指数が軒並み下落し、全面安の展開となりました。きっかけは、トランプ米大統領がグリーンランドの取得に反対する欧州8カ国に対し、追加関税を課すと発表したことです。
ドイツのDAX指数は1.3%下落、英国のFTSE100も0.7%の下げを記録しました。投資家の間では「TACO(Trump Always Caves Out:トランプはいつも腰砕け)」との見方も聞かれますが、貿易摩擦の激化を警戒する声が強まっています。
本記事では、グリーンランド問題の背景と、今回の関税措置が欧州経済に与える影響について解説します。
トランプ大統領の関税発表
欧州8カ国に10%の追加関税
トランプ大統領は2026年1月17日、米国がデンマーク自治領のグリーンランドを取得するまで、欧州8カ国からの輸入品に10%の追加関税を課すと発表しました。対象国はデンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、英国の8カ国です。
関税は2月1日から発動され、6月1日までに合意が成立しなければ税率を25%に引き上げるとしています。トランプ大統領はソーシャルメディアで「グリーンランドの完全かつ全体的な購入でディールが成立しない限り」関税を引き上げると警告し、「この神聖な土地は誰にも手を出させない」と述べました。
欧州市場の反応
この発表を受けて、1月19日の欧州株式市場は全面安となりました。ドイツのDAX指数は前週末比1.3%下落し、フランスのCAC40は1.4%、イタリアのFTSE MIBは1.1%それぞれ下げました。
欧州の代表的な株価指数であるSTOXX Europe 600も0.7%下落し、指数構成銘柄の大半がマイナス圏で取引を終えています。特に関税の影響を受けやすい輸出関連銘柄や、フランスのワイン・シャンパン関連銘柄の下落が目立ちました。
欧州の対抗措置
EU、17兆円規模の報復措置を検討
欧州連合(EU)は、トランプ大統領の関税発表に対し、対抗措置の検討を開始しました。追加関税など930億ユーロ(約17兆円)規模の報復案を示し、米国に撤回を求めています。
フランスのマクロン大統領は、EUに「貿易バズーカ」と呼ばれる反威圧措置(ACI:Anti-Coercion Instrument)の発動を要請しました。ACIは2023年に導入されたEUの新たな通商防衛手段で、第三国による経済的威圧に対して関税引き上げなどの報復措置を可能にするものです。
欧州8カ国が「団結して反対」
関税の対象となった8カ国は緊急会合を開き、「団結して反対する」との共同声明を発表しました。声明では「関税の脅しは大西洋を挟んだ関係を損ない、危険な悪循環を引き起こすリスクがある」と警告しています。
英国のスターマー首相は「NATOの集団安全保障に貢献しようとしている同盟国に関税をかけるのは、完全な間違いだ」と強く批判しました。デンマーク政府も「グリーンランドは売り物ではない」との立場を繰り返し表明しています。
なぜグリーンランドなのか
北極圏の戦略的要衝
グリーンランドは世界最大の島で、デンマークの自治領です。北米大陸と欧州の間に位置し、領土の3分の2以上が北極圏内にあります。カナダ、グリーンランド、アイスランド、英国を経由する「GIUKギャップ」と呼ばれる海上航路に跨る戦略的な立地から、第二次世界大戦以降、北米防衛の重要拠点となってきました。
現在もグリーンランドには米軍の宇宙軍基地があり、人工衛星の監視などの任務を担っています。地球温暖化の進行により北極圏の氷解が進むなか、北方の海上航路が年間を通じてより長く航行可能になりつつあり、その戦略的価値は一段と高まっています。
世界最大級のレアアース埋蔵量
グリーンランドが注目されるもう一つの理由は、豊富な鉱物資源です。同島には世界最大級のレアアース資源が眠っているとされ、酸化物換算量で約150万トンの埋蔵量が確認されています。これは未開発地域としては世界最大規模のポテンシャルです。
グリーンランドには、レアアース、黒鉛、ニオブなど、米国の国家安全保障や経済安定に不可欠な50種類の重要鉱物のうち約39種類が存在するとされています。現在、世界のレアアース生産・加工で圧倒的なシェアを誇る中国に対抗する上で、グリーンランドの資源は戦略的な意味を持っています。
中露への対抗という文脈
米中貿易摩擦が激化するなか、中国はすでに米国に対するレアアースの輸出規制をちらつかせています。専門家の中には「グリーンランド取得の真の目的は、レアアース供給における中国依存からの脱却にある」との指摘もあります。
また、北極海ではロシアや中国が進出を強めており、この戦略海域への「橋頭堡」としても、グリーンランドは米国の軍事・経済安全保障にとって重要性を増しています。
市場への影響と投資家の見方
「TACO」との楽観論も
一部の投資家の間では「TACO(Trump Always Caves Out:トランプはいつも腰砕け)」との見方も聞かれます。過去のトランプ政権でも、強硬な発言の後に交渉で妥協するパターンが見られたためです。
しかし、今回のグリーンランド問題は通常の貿易交渉とは性質が異なります。デンマークが自治領の「売却」に応じる可能性は極めて低く、交渉による解決の道筋が見えにくいという点で、投資家の懸念は簡単には払拭されません。
セクター別の影響
関税の影響は業種によって異なります。特に影響が大きいのは自動車、機械、化学品など米国向け輸出が多い製造業セクターです。ドイツの自動車メーカーやフランスの高級ブランドなどが懸念材料として挙げられています。
フランスのワイン・シャンパン業界も打撃を受ける可能性があります。トランプ大統領がフランス製ワインに200%の関税を課すと警告したことを受け、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトンの株価は2.2%下落しました。
注意点と今後の展望
関税戦争の長期化リスク
今回の関税措置がきっかけとなり、米欧間の貿易摩擦が長期化するリスクがあります。EUが17兆円規模の報復措置を検討していることから、報復の連鎖が始まる可能性も否定できません。
米財務長官のスコット・ベッセント氏は、欧州各国政府が対抗措置として米国債を売却できるという考えを否定しました。しかし、貿易摩擦の激化が続けば、金融市場への影響は避けられないでしょう。
NATO同盟関係への影響
今回の関税措置は、NATO同盟国を標的としている点で異例です。安全保障面で協力関係にある国々に対する経済的圧力は、大西洋を挟んだ同盟関係にひびを入れる恐れがあります。
欧州では、米国への安全保障依存を見直し、「戦略的自律」を強化すべきとの議論が再燃しています。関税問題が長期化すれば、NATO内部の結束にも影響を与える可能性があります。
まとめ
トランプ大統領によるグリーンランド関連の関税発表は、欧州株式市場に大きな衝撃を与えました。DAXやFTSE100など主要指数が全面安となり、投資家は関税戦争激化への警戒を強めています。
グリーンランドは北極圏の戦略的要衝であり、豊富なレアアース資源を有することから、米国にとって重要な意味を持っています。しかし、デンマークの自治領を「購入」するという手法には欧州から強い反発が起きており、交渉による解決は容易ではありません。
今後の焦点は、EUの報復措置の内容と、米欧間の交渉の行方です。関税戦争が長期化すれば、欧州経済への影響は避けられず、市場の不透明感は続くことになるでしょう。
参考資料:
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