トランプ氏、ハセット氏のFRB議長起用を保留へ
はじめに
2026年1月16日、トランプ米大統領は国家経済会議(NEC)のケビン・ハセット委員長について「いまの立場にとどまってほしい」と述べ、次期FRB議長への起用を見送る意向を示唆しました。ハセット氏は5月に任期満了を迎えるジェローム・パウエルFRB議長の最有力後継候補とされてきただけに、この発言は金融市場に大きな波紋を広げています。
本記事では、トランプ大統領の発言の背景、FRB議長人事が金融政策に与える影響、そして今後の展望について詳しく解説します。FRB議長人事は世界経済の方向性を左右する重要な決定であり、投資家やビジネスパーソンにとって見逃せない動きです。
トランプ大統領の発言とその意図
ホワイトハウスでの突然の表明
トランプ大統領は16日のホワイトハウスでのイベント中、観客席にいるハセット氏を見つけて「実のところ、あなたには今の場所にいてほしい」と発言しました。大統領は「FRBの人間、特に今の議長はあまり話さない」とパウエル議長を暗に批判しつつ、「あなたを失うことは私にとって深刻な懸念だ」とハセット氏のコミュニケーション能力を高く評価しました。
この発言は市場参加者にとって予想外のものでした。ハセット氏はトランプ政権第1期に大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務め、金融緩和に積極的な姿勢で知られています。トランプ大統領が望む低金利政策を実現する上で理想的な候補と見られていたためです。
NEC委員長としての価値
トランプ大統領がハセット氏を現職に留めたい理由は明確です。NEC委員長は大統領の経済政策を統括する重要なポジションであり、政権の経済アジェンダを推進する司令塔の役割を果たします。ハセット氏は経済学博士号を持ち、FRBでの勤務経験もある専門家ながら、メディアでの説明能力に優れており、政権の経済政策を効果的に発信できる人材です。
FRB議長に就任すれば、中央銀行の独立性を保つため、大統領との距離を置く必要があります。トランプ大統領にとって、ハセット氏を側近として手元に置くことの価値の方が、FRB議長として送り出すことよりも大きいと判断した可能性があります。
FRB議長人事の背景と課題
パウエル議長の任期とタイムライン
ジェローム・パウエル現FRB議長の議長としての任期は2026年5月15日に満了します。新議長は上院の承認を経て就任する必要があるため、トランプ大統領は2026年1月中には後任を指名する必要があると見られていました。特に、2026年1月31日には短期登板だったミラン理事の任期が終わるため、新議長をまずミラン理事の後任理事に指名し、その後議長に昇格させるという手順が想定されていました。
この時間的制約が、市場がハセット氏の指名を年明け早々に予想していた理由です。しかし、トランプ大統領の16日の発言により、この予想は大きく揺らぐことになりました。
FRBの独立性という難題
ハセット氏の指名に対しては、FRBの独立性を懸念する声が根強くありました。ハセット氏はトランプ大統領に近い側近の一人であり、政治的影響力から金融政策を守るという中央銀行の原則に照らして、市場の信頼を得るのに苦労する可能性が指摘されていました。
実際、2026年1月12日には司法省がパウエル議長に大陪審召喚状を発行したことが報じられ、これがパウエル議長の慎重な利下げアプローチに対する報復ではないかとの批判が起こりました。ベン・バーナンキ、アラン・グリーンスパン、ジャネット・イエレンといった元FRB議長を含む超党派の経済当局者13名が、トランプ大統領が「検察的攻撃」を使ってFRBの独立性を損なっていると非難する声明を発表しています。
このような環境下で、トランプ大統領に近いハセット氏を指名することは、FRBの独立性に対する懸念をさらに高める可能性がありました。ハセット氏自身は「FRBの独立性は本当に、本当に重要だ」と公言し、議長就任の際には「FRBの独立性と透明性へのコミットメント」を持って臨むと述べていましたが、こうした懸念を完全に払拭することは困難でした。
市場の反応と代替候補の浮上
ベッティング市場の急変
トランプ大統領の発言を受けて、予測市場は即座に反応しました。Kalshiではハセット氏がFRB議長になる確率が35%から15%へと急落しました。一方、Polymarketでは、もう一人の有力候補であるケビン・ワーシュ元FRB理事の確率が54%に跳ね上がり、ハセット氏は16%まで低下しました。
この市場の動きは、投資家がトランプ大統領の発言を決定的なシグナルと受け止めたことを示しています。金融市場では米国債が売られ、利下げ期待が後退する動きも見られました。次期FRB議長が誰になるかによって金融政策のスタンスが変わる可能性があるため、市場は人事の行方を注視しています。
ケビン・ワーシュの台頭
ハセット氏の可能性が低下したことで、俄然注目を集めているのがケビン・ワーシュ元FRB理事です。ワーシュ氏は2006年から2011年までFRB理事を務め、金融危機への対応に関わった経験があります。トランプ政権第1期の2017年にもFRB議長候補として検討されていました。
ワーシュ氏はハセット氏よりも金融引き締めに慎重で、インフレ抑制を重視する姿勢が知られています。また、FRB内部での経験があることから、中央銀行としての独立性を保つ能力が高いと評価されています。ハセット氏の指名に対してトランプ大統領に近い高官からも反対があったと報じられており、その背景にはワーシュ氏推薦の動きがあった可能性があります。
注意点と今後の展望
人事は未確定
重要な点として、トランプ大統領の16日の発言はハセット氏の指名を完全に排除したわけではありません。大統領は「いまの立場にとどまってほしい」と述べましたが、最終的な決定を発表したわけではなく、状況は依然として流動的です。
トランプ大統領は過去にも人事について様々な発言をしながら、最終的には別の判断を下したことがあります。FRB議長人事は経済政策の根幹に関わる重要な決定であり、様々な要因を考慮しながら最終判断が下されることになります。
金融政策への影響
次期FRB議長が誰になるかは、今後数年の米国および世界の金融政策を大きく左右します。ハセット氏が選ばれれば金融緩和に積極的な政策が予想され、ワーシュ氏であればより慎重なアプローチが取られる可能性が高くなります。
2026年の米国経済は、トランプ政権の関税政策や財政政策と相まって、インフレと成長のバランスが重要な課題となっています。FRB議長の人選は、この微妙なバランスをどう管理するかという大統領の戦略を反映するものとなります。
まとめ
トランプ大統領の「ハセット氏を現職に留めたい」という発言は、次期FRB議長人事の流れを大きく変える可能性があります。最有力候補と見られていたハセット氏の可能性が後退し、ケビン・ワーシュ氏などの代替候補への関心が高まっています。
FRB議長人事は単なる人事異動ではなく、米国の金融政策の方向性、ひいては世界経済の先行きを占う重要な決定です。中央銀行の独立性という原則と、大統領が望む経済政策の実現という現実のバランスをどう取るかが、今後の焦点となります。
投資家やビジネスパーソンは、今後発表される正式な人事とともに、新議長がどのような金融政策スタンスを取るかを注視する必要があります。今後数週間の動向が、2026年の金融市場を大きく方向付けることになるでしょう。
参考資料:
- Fed chair race heats up: Trump hints Hassett stays put, Warsh odds jump | Invezz
- Kevin Hassett as Fed Chair Pick Uncertain After Trump Expresses Reluctance - Bloomberg
- Trump says he doesn’t want to lose Hassett in his current role | Seeking Alpha
- Hassett says Fed independence is ‘really important’ | CNBC
- Powell subpoena raises independence concerns - Washington Times
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