トランプ政権の中南米政策、ベネズエラ後の次の標的は
はじめに
2026年1月3日、トランプ米政権がベネズエラに対して軍事攻撃を実施し、マドゥロ大統領を拘束するという衝撃的な出来事が起きました。1989年のパナマ侵攻以来となる中南米への本格的な軍事介入は、地域全体に大きな動揺をもたらしています。
トランプ大統領は攻撃成功後、キューバやコロンビア、メキシコなど「次の標的」を示唆する発言を繰り返しています。中南米各国は「次は自分たちか」と警戒を強めています。本記事では、トランプ政権の中南米政策と各国の対米関係を整理し、今後の展望を解説します。
ベネズエラ攻撃の概要
作戦の経緯
2026年1月2日午後10時46分(東部標準時)、トランプ大統領が作戦決行を指示。翌1月3日未明、米軍がベネズエラの首都カラカスを含む複数の地点を爆撃しました。作戦名は「オペレーション・アブソリュート・リゾルブ」です。
攻撃直前にはサイバー攻撃でカラカスに停電を発生させ、ベネズエラ軍のロシア製地対空ミサイルをジャミングで無力化。特殊部隊デルタフォースがマドゥロ大統領と妻のシリア・フローレス氏を拘束し、ニューヨークへ移送しました。両名は1月5日、マンハッタン連邦裁判所で麻薬テロ関連の罪状について無罪を主張しています。
攻撃の根拠
トランプ政権は「麻薬戦争」と「テロ対策」を作戦の根拠としました。2025年2月には、ベネズエラの犯罪組織「トレン・デ・アラグア」を含む8つのラテンアメリカの組織を「外国テロ組織」(FTO)に指定。「ベネズエラ政府がこれらの組織と連携し、麻薬と不法移民を米国に送り込んでいる」と主張しました。
一方で、石油資源へのアクセスも重要な動機であったことをトランプ政権は認めています。ベネズエラの石油産業を実質的に米国の管理下に置く構えを見せています。
被害状況
ベネズエラ当局によると、攻撃で少なくとも23人の警備要員が死亡。また、キューバ政府は同国の軍・情報機関職員32人が死亡したと発表しました。
中南米各国の対米関係マップ
親トランプ派:攻撃を支持した国々
アルゼンチン(ミレイ大統領) 「アルゼンチンのトランプ」と呼ばれる右派指導者ミレイ大統領は、攻撃を賞賛し「自由万歳!」とコメントしました。パリ協定離脱を検討するなど、トランプ政権との協調姿勢を鮮明にしています。2025年11月には米国と貿易協定の枠組みに合意しました。
エルサルバドル(ブケレ大統領) 2024年に再選を果たしたブケレ大統領はSNSで支持を表明。米国との貿易協定にも合意しており、緊密な関係を維持しています。
エクアドル(ノボア大統領) 2025年4月に再選されたノボア大統領は、攻撃を「ベネズエラのナルコ・チャベス主義構造への打撃」と評価。米国との貿易協定にも参加しています。
中立・対話重視派
パナマ 1989年の米軍侵攻という「苦い過去」を持つパナマは、今回の攻撃についてトランプ政権を擁護する立場を取りました。ただし、複雑な歴史的経緯から慎重な姿勢も見られます。
反対派:攻撃を非難した国々
ブラジル(ルラ大統領) ルラ大統領は攻撃を強く非難し、「受け入れられない一線を越えた」「中南米における干渉の最悪の瞬間を想起させる」と述べました。平和地域としての中南米の地位を脅かすものと警告しています。
コロンビア(ペトロ大統領) ペトロ大統領はSNSで「コロンビア政府はベネズエラとラテンアメリカの主権に対する侵略を拒否する」と投稿。「内部紛争は平和的に、人民の自決原則に基づいて解決されるべきだ」と主張しました。トランプ大統領から「タチの悪い男」と名指しで批判されています。
メキシコ 攻撃を国連憲章違反と非難し、侵略行為の即時停止を要求。次の標的として名指しされていることへの警戒感を強めています。
チリ(ボリッチ大統領) 「ベネズエラにおける米国の軍事行動に懸念と非難を表明」する立場を示しました。
国際社会の反応
1月4日、ブラジル、スペイン、チリ、コロンビア、メキシコ、ウルグアイの6カ国が共同声明を発表し、「ベネズエラ領土における米国の一方的な軍事行動に対する深い懸念と強い拒否」を表明しました。
国連のグテレス事務総長は「国際法の規則が尊重されなかった」と懸念を表明。中国は「主権国家に対する明らかな武力行使」として「深い衝撃」を示し、ロシアもベネズエラ国民との連帯を表明しました。
次の標的とされる国々
キューバ:経済的締め付けが深刻化
トランプ大統領は「キューバはベネズエラの石油にすべての収入を依存していたが、それが手に入らなくなる。崩壊は近い」と発言しています。ベネズエラとの経済的結びつきが強いキューバは、石油供給の途絶で深刻な打撃を受ける見通しです。
キューバはすでに長期的な経済危機に苦しんでおり、ベネズエラ攻撃時には32人のキューバ軍・情報機関職員が死亡。トランプ政権の次の標的として最も警戒されています。
コロンビア:麻薬組織への攻撃を示唆
トランプ大統領はペトロ大統領を激しく批判し、コロンビアの麻薬組織への爆撃の可能性に言及。記者団から「コロンビア攻撃は良い考えか」と問われ「いい考えだ」と答えました。左派のペトロ政権は「長くない」との発言もあり、政権転覆を示唆する姿勢を見せています。
メキシコ:麻薬カルテル問題
メキシコに対しても、麻薬カルテルへの対処を理由とした軍事介入の可能性が取り沙汰されています。米墨国境問題と絡め、強硬姿勢を強める可能性があります。
トランプ政権の戦略的背景
「西半球の優位性回復」
トランプ政権が2025年12月に公表した国家安全保障戦略では、「米国の西半球における優位性の回復」が強調されています。特に中国の中南米進出を警戒し、「非西半球の競争相手が軍隊等を配置すること」や「重要な資産を所有・支配すること」を否定する方針を示しました。
中国・ロシアとの対抗
中南米における中国の経済的プレゼンスは拡大しており、トランプ政権はこれを安全保障上の脅威と見なしています。ベネズエラ攻撃は、中国・ロシアの影響力を排除し、「米国の裏庭」を取り戻す戦略の一環と位置付けられています。
今後の展望と注意点
地域の分断深刻化
ベネズエラ攻撃を巡り、中南米は親米派と反米派に二分されつつあります。2026年にはペルーとコロンビアで大統領選挙が予定されており、右派勢力の台頭が予測されています。「ピンクの潮流」と呼ばれた左派政権の連鎖に変化の兆しが見えています。
国際法を巡る議論
米国の軍事介入は国際法上の正当性を巡り、激しい議論を呼んでいます。国連も「危険な前例」と警告しており、今後の国際秩序への影響が懸念されます。
中間選挙を見据えた動き
2026年11月の米国中間選挙を控え、トランプ政権がさらなる強硬策に出る可能性も指摘されています。中国やロシアが反撃に出る可能性もあり、地政学的リスクは高まっています。
まとめ
トランプ政権によるベネズエラ攻撃は、中南米地域に大きな動揺をもたらしました。キューバ、コロンビア、メキシコなど「次の標的」を示唆する発言が続き、各国は警戒を強めています。
中南米は親米派と反米派に分断され、地域の安定が揺らいでいます。「西半球の優位性回復」を掲げるトランプ政権の動向と、それに対する各国・国際社会の反応を注視していく必要があります。
参考資料:
- 2026年アメリカ合衆国によるベネズエラ攻撃 - Wikipedia
- U.S. strikes in Venezuela trigger regional and global alarm - NPR
- Making sense of the US military operation in Venezuela - Brookings
- How the World Is Reacting to the U.S. Capture of Nicolas Maduro - TIME
- ベネズエラ・マドゥロ大統領拘束、トランプ流「力による解決」の衝撃 - 東洋経済オンライン
- 自信深めたトランプ政権「次の標的」は…キューバ、コロンビア、グリーンランドなど言及 - 産経新聞
- キューバが次の標的か - Bloomberg
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