トランプ「常識革命」1年の衝撃とベネズエラ侵攻の意味
はじめに
2025年1月20日に発足した第2期トランプ政権が、まもなく1年の節目を迎えます。「常識の革命(Common Sense Revolution)」を掲げて始まった政権運営は、国際社会に大きな衝撃を与え続けてきました。特に2026年1月3日に実行されたベネズエラ軍事作戦は、戦後80年にわたって維持されてきた国際秩序の根幹を揺るがす出来事となっています。
本記事では、トランプ政権1年間の外交政策を振り返り、ベネズエラ侵攻の背景と国際社会への影響について詳しく解説します。
「常識の革命」から「ドンロー主義」へ
就任演説で示された政権の方向性
2025年1月の就任演説でトランプ大統領は「米国の完全な修復と常識の革命を始める」と宣言しました。この「常識の革命」という言葉には、既存の国際秩序や外交慣行を見直し、米国の国益を最優先する姿勢が込められていました。
政権発足後、トランプ大統領は次々と従来の外交方針を転換していきます。2025年12月に発表された「国家安全保障戦略(NSS)」では、19世紀のモンロー主義を彷彿とさせる「西半球重視」の姿勢が明確に打ち出されました。
「ドンロー主義」の実践
特に注目すべきは、トランプ大統領自身が言及した「ドンロー主義」という概念です。これは19世紀にジェームズ・モンロー大統領が提唱した「モンロー主義」を大幅に拡大解釈したもので、米国が中南米地域に対してより積極的に介入する権利を主張するものです。
ベネズエラ軍事作戦の際、トランプ大統領は「これはモンロー主義を遥かに凌駕したドンロー主義の実践である」と述べ、米国の「裏庭」における覇権を明確に主張しました。
ベネズエラ軍事作戦の全貌
「オペレーション・アブソリュート・リゾルブ」
2026年1月3日未明(現地時間午前2時頃)、米軍は「オペレーション・アブソリュート・リゾルブ(Operation Absolute Resolve)」と名付けられた軍事作戦を開始しました。
作戦の概要は以下の通りです。まず、サイバー攻撃によってカラカス市内に停電を発生させ、ベネズエラ軍の対応能力を麻痺させました。その後、150機以上の航空機がベネズエラ北部の防空施設を爆撃し、制空権を確保しました。最終的に、特殊部隊デルタフォースがマドゥロ大統領の公邸を急襲し、大統領夫妻を拘束・連行しました。
作戦は5時間未満で完了し、米軍側の人的損失はゼロでした。ロシア製の防空システムと中国製のレーダーシステムは、米軍のサイバー攻撃によって完全に無力化されたと報じられています。
作戦の正当化根拠
トランプ政権は、この軍事作戦を「麻薬戦争」と「テロ対策」の一環として正当化しました。2025年2月、政権は中南米の犯罪組織「トレン・デ・アラグア」を含む8つの組織を「外国テロ組織」に指定していました。
政権の主張によれば、マドゥロ政権はこれらの犯罪組織と連携し、麻薬密輸と不法移民を米国に送り込んでいたとされます。ただし、米国の情報機関からは、マドゥロ政権が犯罪ネットワークを直接指揮しているかどうかについて異論が出ていたことも報じられています。
司法省の法務意見書は、この作戦が「憲法上の意味での戦争には該当しない」とし、大統領の「固有の憲法上の権限」に基づく法執行活動であると結論づけました。
被害と直後の状況
ベネズエラ側の発表によると、作戦中に少なくとも23人のベネズエラ治安部隊員が死亡しました。また、キューバ政府は32人のキューバ軍・情報機関関係者が死亡したと発表しています。
拘束されたマドゥロ大統領夫妻は米国本土に移送され、1月5日にマンハッタンの連邦裁判所で麻薬テロ関連の容疑について無罪を主張しました。ベネズエラでは、デルシー・ロドリゲス副大統領が大統領代行に就任し、政権機能の維持を図っています。
国際社会の反応と分断
国連での非難と米国の孤立
国連のグテーレス事務総長は、この軍事作戦を「危険な前例」と呼び、国際法の遵守を強く求めました。1月5日に開催された国連安全保障理事会の緊急会合では、中国やロシアを中心に米国の行動を「法的根拠を欠く」と非難する声が相次ぎました。
多くの国際法専門家も、この作戦が国連憲章とベネズエラの主権を侵害するものだと指摘しています。
欧州・日本の微妙な立場
一方、米国の同盟国である欧州諸国と日本は、微妙な立場に置かれました。ドイツのメルツ首相は「国際法が指導的枠組みである」と原則論を述べつつも、米国を直接批判することは避けました。
フランスのマクロン大統領は「ベネズエラがマドゥロ独裁政権から解放されたことを歓喜する」としながらも、政権交代は民主的プロセスを通じて行われるべきだと述べ、両論併記の姿勢を示しました。
日本の高市首相は「G7や関係国と緊密に連携しつつ、ベネズエラでの民主主義の回復に向け外交努力を進める」と述べるにとどまり、明確な賛否を示しませんでした。
中南米諸国への波及
今回の軍事作戦は、中南米諸国に大きな衝撃を与えています。米国の「裏庭」とされてきた地域において、軍事力による政権転覆が現実のものとなったことで、各国政府は自国の安全保障政策の見直しを迫られています。
今後の展望と注意点
長期化する可能性
トランプ大統領は1月7日の記者会見で、ベネズエラへの関与が「年単位になる」可能性を示唆しました。「1年以上か」との質問に対し「もっと長いだろう」と答え、さらに「安全で適切かつ慎重な移行ができるまで、我々がこの国を運営する」と述べています。
地上部隊の派遣についても「我々は地上部隊を恐れていない」と発言しており、軍事的関与の拡大も視野に入れていることがうかがえます。
国際秩序への長期的影響
今回の軍事作戦は、第二次世界大戦後に構築された国際秩序の根幹を揺るがすものです。主権国家の指導者を軍事力で拘束し、国内に移送して裁判にかけるという前例は、今後の国際関係に深刻な影響を与える可能性があります。
特に懸念されるのは、他の大国がこの「前例」を自らの行動の正当化に援用する可能性です。一部の専門家は「プーチンの論法と同じ」と警告しており、国際秩序の一層の不安定化が危惧されています。
2026年中間選挙への影響
米国内では、2026年秋の中間選挙に向けた動向も注目されます。ベネズエラ作戦に対する世論調査では、共和党支持層の約7割が攻撃を支持しているものの、全体としては賛否が分かれています。
中間選挙で与党共和党が下院過半数を失う可能性が高まれば、トランプ大統領がさらなる強硬策に出る可能性も指摘されています。
まとめ
第2期トランプ政権の「常識の革命」は、1年を経て国際社会に深い傷跡を残しつつあります。ベネズエラ軍事作戦は、米国が国際法よりも国益を優先する姿勢を明確に示したものであり、戦後秩序の転換点となる可能性があります。
日本を含む同盟国は、米国との関係維持と国際秩序の擁護という困難なバランスを求められています。今後のトランプ政権の動向と国際社会の対応を注視していく必要があります。
参考資料:
- 2026年アメリカ合衆国によるベネズエラ攻撃 - Wikipedia
- 2026 United States intervention in Venezuela - Wikipedia
- Making sense of the US military operation in Venezuela | Brookings
- ベネズエラ・マドゥロ大統領拘束、トランプ流「力による解決」の衝撃 | 東洋経済オンライン
- トランプ流「電撃作戦」の衝撃 | 電通総研
- A Guide to Trump’s Second-Term Military Strikes and Actions | Council on Foreign Relations
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