ベネズエラの隠しビットコイン60万枚説、米押収で供給ショックも

by nicoxz

はじめに

米軍による軍事作戦でニコラス・マドゥロ大統領が拘束されたベネズエラについて、大量のビットコインを秘密裏に保有しているとの見方が仮想通貨市場で浮上しています。調査報道メディア「Whale Hunting」によると、同国政権は米国の経済制裁を回避する目的で、最大600億ドル(約9兆5000億円)相当のビットコインを蓄積してきたとされています。

この「影の準備金」の存在が事実であれば、ビットコイン総供給量の約3%に相当する規模です。米国がこれを押収・凍結した場合、市場に出回る量が減少し、価格を下支えする可能性が指摘されています。本記事では、ベネズエラのビットコイン保有疑惑の実態と、市場への影響を詳しく解説します。

ベネズエラのビットコイン蓄積疑惑

「影の準備金」とは何か

諜報筋の報告によると、ベネズエラ政府は2018年頃から国の資産売却益をビットコインに換える秘密の金融システムを構築していたとされています。この「影の準備金」は、米国の厳しい経済制裁をかいくぐるために設計されました。

報道されている保有規模は60万〜66万BTC、金額にして560億〜670億ドルに相当します。この規模が事実であれば、米企業マイクロストラテジー(Strategy社)に匹敵し、国家としてはエルサルバドルをはるかに上回る世界最大級の保有量となります。

蓄積の手法

ベネズエラがビットコインを蓄積したとされる手法は、主に3つあります。

まず、オリノコ鉱業地帯からの金の売却です。2018〜2020年に同国は数十トンの金を輸出し、その収益約20億ドルを当時の平均価格5000ドル前後でビットコインに交換したとされています。金はトルコで精製・売却され、UAEを経由してグローバル市場に流れたと報じられています。

次に、国営石油会社PDVSAを通じた原油輸出決済のステーブルコイン(テザー=USDT)での受領です。米ドル建て決済が制裁で困難になったため、USDT建てで原油代金を受け取り、これをビットコインに交換したとされています。

さらに、国内のビットコインマイニング事業からの没収も蓄積源として挙げられています。

アレックス・サーブの役割

この「影の金融システム」の設計者として名前が挙がっているのが、マドゥロ大統領の側近であるアレックス・サーブ氏です。コロンビア生まれのベネズエラ人ビジネスマンで、2024年10月からベネズエラの産業・国家生産大臣を務めています。

サーブ氏は複数の国際的リーク文書(パナマ文書、パンドラ文書、FinCENファイル)に名前が登場しており、コロンビア当局からはマネーロンダリングの疑いで起訴されています。2020年にはカーボベルデで逮捕され、2021年に米国に引き渡されましたが、2023年の囚人交換で釈放されベネズエラに帰国しました。

サーブ氏がコールドウォレット(オフライン保管)の秘密鍵を管理する中心人物である可能性が指摘されており、彼の協力なしにはビットコインにアクセスできない可能性があります。

保有量への懐疑論

ブロックチェーン分析との乖離

複数のブロックチェーン分析企業は、600億ドル規模の保有量について検証できていないとしています。BitcoinTreasuries.netのデータによれば、ベネズエラ政府が公式に確認されている保有量はわずか240BTC(約2200万ドル相当)に過ぎません。

ブロックチェーン分析企業Whale Alertの共同創設者フランク・ウィアート氏は「もし本当に60万BTCを保有していたなら、多くのブロックチェーン分析企業を欺いたことになる。そのような主張には強力な証拠が必要だ」とコメントしています。

懐疑派の見解

暗号資産貸付サービスLednの共同創設者マウリシオ・ディ・バルトロメオ氏は、ベネズエラで育ち、家族が2014年から同国で暗号資産マイニングを行ってきた経験から、3つの蓄積源すべてに信憑性がないと指摘しています。

「公開記録と一致するものが何もない」と彼はFortune誌に語っています。「あまりにも多くの腐敗、横領、行方不明のお金がある。意味のある金額が蓄積されたとは思えない」という見解を示しています。

600億ドル説の根拠

注目すべきは、600億ドル(60万BTC)という数字がオンチェーン(ブロックチェーン上の)証拠に基づいていない点です。これは2018年以降のベネズエラの金売却額からの数学的推計であり、主要なブロックチェーン情報企業は大規模な未申告のベネズエラ・ビットコイン保有の証拠を提示していません。

米国による押収の可能性

マドゥロ拘束の経緯

2026年1月初旬、トランプ大統領は対ベネズエラ軍事作戦を実行しました。デルタフォースの特殊部隊がカラカスでマドゥロ大統領と妻を拘束し、強襲揚陸艦イオー・ジマに移送。マドゥロ氏は麻薬密売と武器取引の罪で連邦裁判所に出廷するためニューヨークに向かっています。

これは1989年のパナマ侵攻以来、最も劇的な米国の中南米での軍事作戦とされています。

SEC委員長の発言

米国証券取引委員会(SEC)のポール・アトキンス委員長は1月13日、ベネズエラが保有するとされる仮想通貨について、米国政府による押収の可否は「まだ見通しが立たない」と述べました。技術的にも法的にも、600億ドル相当のビットコインの存在確認と押収には多くの課題があるとみられます。

考えられる3つのシナリオ

ベネズエラのビットコインが存在し、米国がアクセスを得た場合、3つのシナリオが考えられます。

第一のシナリオは凍結です。米国がビットコインを押収し、財務省が保管して売買を行わないケースです。法的手続きが長期化し、何年も市場から隔離される可能性があります。

第二のシナリオは戦略的準備金への組み入れです。トランプ大統領は押収ビットコインを長期資産として保有することに前向きな姿勢を示しており、米国の「戦略的ビットコイン準備金」に追加される可能性があります。

第三のシナリオは緊急売却ですが、これは最も可能性が低いとされています。司法省がCoinbase Primeや米連邦執行官オークションを通じて迅速に売却するケースです。

市場への影響

供給ショックの可能性

専門家は、米当局がこれらの資産を確保し凍結した場合、ビットコイン流通量の約3%が長期間市場から除外されることになると指摘しています。これは「供給ショック」を引き起こす可能性があります。

比較として、2024年にドイツ政府が約5万BTCを売却した際、市場は15〜20%の調整と数週間の弱気相場を経験しました。ベネズエラの保有量はその12倍に相当するため、凍結の場合は逆に強い上昇圧力となる可能性があります。

短期的な市場反応

2026年1月初旬の軍事作戦発表時、ビットコイン価格は一時的に約0.5%下落し89,300ドルまで下げましたが、その後すぐに回復しました。市場は現時点では比較的冷静に事態を見守っています。

米国政府の既存保有量

参考として、米国政府は既に約198,012BTC(約178億ドル相当)を保有しています。これは主に違法活動からの押収資産で、ダークネット市場の閉鎖などで蓄積されてきました。大統領令14178により、これらは「戦略的ビットコイン準備金」として位置づけられ、米国は世界最大級の政府系デジタル資産保有者となっています。

注意点・今後の展望

情報の信頼性

ベネズエラの600億ドルビットコイン保有説は、現時点では確認されていない情報です。ブロックチェーン上の証拠がなく、公式に確認された保有量との乖離は極めて大きいです。投資判断においては、この情報を鵜呑みにせず、今後の検証を待つ必要があります。

秘密鍵へのアクセス

仮に大量保有が事実であっても、秘密鍵へのアクセスが得られなければ、米国政府でさえビットコインを移動・凍結することはできません。アレックス・サーブ氏の協力が得られるかどうかが鍵となりますが、彼は現在ベネズエラに滞在しており、状況は不透明です。

制裁回避の手法としての暗号資産

今回の事案は、経済制裁下にある国家が暗号資産を活用して制裁を回避しようとする事例として注目されています。イランや北朝鮮なども同様の手法を用いているとされ、国際的な規制強化の議論が進む可能性があります。

まとめ

ベネズエラが最大60万BTCを秘密裏に保有しているとの説は、仮想通貨市場に大きな波紋を広げています。この規模が事実であれば、米国による押収・凍結は市場の3%を長期間ロックアップすることになり、供給ショックによる価格上昇圧力となる可能性があります。

一方で、ブロックチェーン分析企業はこの規模の保有を確認できておらず、懐疑的な見方も根強くあります。投資家は、この情報の信頼性について慎重に判断し、今後の公式発表や調査結果を注視する必要があります。

いずれにせよ、国家レベルでのビットコイン保有と政府による押収という事態は、暗号資産の地政学的な重要性が高まっていることを示しています。今後の展開次第では、ビットコインの価格動向だけでなく、国際的な暗号資産規制にも影響を与える可能性があります。

参考資料:

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