金とビットコイン「2つのゴールド」で明暗が分かれた理由
はじめに
「2つのゴールド」の明暗が鮮明になっています。1月末にともに急落した金(ゴールド)と「デジタルゴールド」と呼ばれるビットコインですが、その後の値動きは対照的です。金には根強い買いが入り上昇基調を維持している一方、ビットコインは下落が止まらず、資金流出が加速しています。
2025年秋ごろまでは、米国資産からのマネーの退避先としてともに上昇してきた両者ですが、足元では仮想通貨から資金を引き揚げる動きが強まっています。この記事では、2つの「金」市場で生じた値動きの差の背景と、今後の展望を解説します。
1月末の同時急落とその後の分岐
トランプ関税が引き金に
1月末、金とビットコインがともに急落しました。きっかけはトランプ米大統領による新たな関税政策の発表です。市場全体にリスク回避姿勢が広がり、あらゆる資産クラスで売りが出ました。
金価格は1月29日に一時1オンス当たり5,600ドル超という史上最高値を記録した直後に急落し、5,200ドル前後まで反落しました。下落率は一時10%を超える場面もありました。ビットコインも同時期に大幅な下落に見舞われています。
金の「V字回復」
しかし、急落後の展開は大きく異なりました。金は日本時間2月2日昼時点で年初とほぼ同水準か、やや高い水準まで回復しています。1月全体でみれば20%超の上昇となり、1980年代以来の最高月間上昇率を記録する見込みです。
急落は一時的な利益確定売りにすぎず、押し目買いが素早く入ったことがわかります。金に対する実需と投資需要の強さが改めて確認された形です。
ビットコインの続落
対照的に、ビットコインは急落後も下げ止まる気配がありません。2025年10月に約1,800万円台をつけた価格は、2026年2月上旬時点で900万円台まで下落しました。ピーク時からほぼ半値という水準です。ドル建てでも6万5,000ドル割れが濃厚とされ、予測市場でも短期的な悲観論が優勢です。
金が底堅い3つの理由
中央銀行の旺盛な購入
金価格を下支えする最大の要因が、世界各国の中央銀行による金準備の積み増しです。新興国を中心にドル依存からの脱却を図る動きが加速しており、中央銀行の購入は構造的な需要として継続しています。
この「公的セクターの買い」は、個人投資家の投機的な売買とは異なり、長期的かつ安定的な需要です。価格が下がれば積極的に買い増す傾向があるため、金価格の下落を防ぐ強力なクッションとなっています。
安全資産としての再評価
トランプ政権の通商政策やイラン情勢の悪化懸念など、地政学的リスクの高まりも金への資金流入を促しています。不確実性が高まる局面で、数千年の歴史を持つ金の安全資産としての地位は揺るぎません。
特に米国の財政や政策への信認が揺らぐ中、ドル建て資産から金への資金シフトが進んでいます。
金利環境の追い風
2025年から2026年にかけて、主要中央銀行による利下げサイクルが意識されています。金利が低下すれば、利息を生まない金の保有コストが相対的に下がるため、投資妙味が増します。
大手金融機関も強気の見通しを維持しています。ゴールドマン・サックスは2026年末の金価格ターゲットを4,900ドルに引き上げ、JPモルガンは6,300ドルという強気予想を示しています。
ビットコインが売られる3つの理由
ETFからの大規模な資金流出
ビットコイン下落の直接的な要因として、米国の現物ビットコインETFからの資金流出が挙げられます。直近1月だけで30億ドル超が流出しており、2025年11月以降、大口資金の流出傾向が続いています。
2024年に米国でビットコイン現物ETFが承認され、機関投資家の参入が相場を押し上げましたが、現在はその巻き戻しが起きている状態です。
金融引き締め懸念の再燃
ビットコインは金利環境に敏感なリスク資産としての性格を持っています。元FRB理事のウォーシュ氏が次期FRB議長に指名されたことで、利下げに慎重な金融政策が続くとの見方が広がりました。
金利が高止まりすれば、利回りを生まないビットコインよりも、国債などの安全資産に資金が向かいやすくなります。「デジタルゴールド」と呼ばれながらも、ビットコインは金利上昇局面では金とは異なる値動きを示すことが明らかになりました。
トランプ効果の剥落
2024年のトランプ大統領再選時、仮想通貨に友好的な政策への期待からビットコインは大きく上昇しました。しかし、関税政策の強硬化やハイテク株の下落が、こうした「トランプ効果」を帳消しにしています。
ビットコインの価格はトランプ再選後の上昇分をすべて吐き出す水準にまで下がっており、投機的な資金の退出が鮮明です。
「デジタルゴールド」の限界
金とビットコインの本質的な違い
今回の値動きの分岐は、金とビットコインの根本的な違いを浮き彫りにしました。金は中央銀行という安定的な買い手を持ち、数千年の歴史に裏打ちされた実物資産です。一方、ビットコインは誕生から17年程度の新しい資産であり、その価値を裏付ける実物が存在しません。
「デジタルゴールド」という呼称は、ビットコインの希少性(発行上限2,100万枚)に着目したものですが、危機時の挙動は金とは大きく異なることが今回改めて示されました。
リスク資産としての再定義
ビットコインは安全資産というよりも、ナスダック指数などのハイテク株と連動するリスク資産としての性格が強まっています。今後の仮想通貨市場では、ビットコインの位置づけが「デジタルゴールド」から「ハイリスク・ハイリターン資産」へと再定義される可能性があります。
注意点・今後の展望
金の過熱リスク
金価格は史上最高値圏にあり、短期的な調整リスクは常に存在します。中央銀行の購入が減速したり、ドル高が進行したりすれば、下落に転じる場面もあり得ます。
ビットコインの反発余地
一方、ビットコインについては過去の暴落局面でも大幅な反発を見せてきた歴史があります。規制環境の改善やETFへの資金回帰が起これば、回復の余地は残されています。短期的な悲観は、長期投資家にとっての好機となる可能性もあります。
まとめ
「2つのゴールド」の明暗は、資産としての本質的な違いを映し出しています。中央銀行の買いと安全資産需要に支えられる金は、急落後も底堅さを維持しています。一方、ETFからの資金流出と金融引き締め懸念に直面するビットコインは、リスク資産としての脆弱性を露呈しました。
投資家にとって重要なのは、それぞれの資産の特性を正しく理解し、ポートフォリオにおける役割を見極めることです。金とビットコインは「ゴールド」という共通の呼称を持ちながらも、危機時の挙動が根本的に異なることを、今回の相場が証明しました。
参考資料:
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