Research

Research

by nicoxz

ベトナムPVガスが不可抗力宣言、LPG供給停止の背景

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

2026年3月、ベトナム国営ガス大手のペトロベトナムガス(PVガス)が、液化石油ガス(LPG)の配送について「フォースマジュール(不可抗力)」を宣言しました。背景には、米国・イスラエルとイランの軍事衝突に端を発するホルムズ海峡の事実上の封鎖があります。

世界のエネルギー供給の約2割が通過するホルムズ海峡が機能停止に陥ったことで、東南アジアを含む世界各地のエネルギー調達に深刻な影響が広がっています。本記事では、PVガスの不可抗力宣言の詳細と、ホルムズ海峡危機が東南アジアのエネルギー供給に及ぼす影響について解説します。

PVガスの不可抗力宣言と配送停止の詳細

宣言の経緯と対象範囲

PVガスの傘下企業であるPVガストレーディングは、2026年3月2日付でベトナム南部の顧客に対してフォースマジュール条項の発動を通知しました。対象となるのは一部顧客向けのLPG供給で、3月10日以降のLPG配送が停止されます。

フォースマジュールとは、天災や戦争など当事者の制御を超えた事象が発生した場合に、契約上の義務を一時的に免除する法的条項です。PVガスが今回この条項を適用した直接の要因は2つあります。

供給途絶の直接的原因

第一に、サウジアラビアのジュアイマNGL施設で2月23日に積出桟橋が崩壊し、契約済みのプロパンおよびブタンの積載が中断しました。第二に、中東の軍事衝突によりホルムズ海峡を通過する冷凍LPGタンカーの航行が困難になっています。

PVガスのティーバイおよびディエムディエンにある冷凍LPGターミナルに3月10日以降到着予定だった全LPG貨物が一時停止されました。供給元は3月後半から4月末までの中東由来の冷凍LPG貨物について、配送計画を未確認の状態です。

ホルムズ海峡危機と世界のエネルギー供給

危機の発端

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランに対して軍事攻撃を実施しました。これに対しイランは報復としてミサイルおよびドローンによる反撃を行い、イスラム革命防衛隊(IRGC)がホルムズ海峡での船舶通航を禁止する警告を発しました。

海峡封鎖の影響規模

ホルムズ海峡は世界で最も重要なエネルギーの要衝です。2024年時点で1日あたり約2,000万バレルの原油が通過し、年間約5,000億ドル相当のエネルギー取引を支えていました。封鎖後、タンカー交通量は約70%急減し、150隻以上の船舶がリスク回避のため海峡外に停泊する事態となりました。

世界のLNG輸出の約20%もホルムズ海峡を経由しており、特にカタールからのLNG輸出はほぼ全量がこの海峡に依存しています。航路遮断が続けば、アジアの買い手は数日のうちに主要な供給源を失う可能性があります。

エネルギー価格への影響

原油価格は急騰し、ブレント原油は初期取引で10〜13%上昇しました。アナリストの間では、混乱が長期化すれば1バレル100ドルを超える可能性が指摘されています。欧州の天然ガス価格も前週の30ユーロ/MWhから3月3日には60ユーロ/MWhを超え、ほぼ2倍に跳ね上がりました。

東南アジアと日本への波及

アジア諸国への打撃

2024年にホルムズ海峡を通過した原油・コンデンセートの84%がアジア市場向けでした。中国、インド、日本、韓国の4カ国で海峡通過原油の69%を引き受けています。特にインドはLNG輸入の半分以上が湾岸由来であり、最も大きな複合的リスクにさらされています。

ベトナムのPVガスによるフォースマジュール宣言は、東南アジアでのエネルギー供給途絶の象徴的な事例です。インドでも石油化学やガス分野で同様の不可抗力宣言が相次いでいます。

日本への影響

日本は輸入原油の8〜9割がホルムズ海峡を経由しており、海峡封鎖による影響は極めて深刻です。原油供給の減少や価格高騰を通じてガソリン・電気代が上昇し、家計への打撃やGDPの押し下げ要因になるとの懸念が高まっています。

注意点・今後の展望

供給の多角化が急務

PVガスは5月以降、供給源の多角化と追加の輸入先確保を進める方針を示しています。しかし、中東からの供給が世界のLPG・LNG市場で占める割合を考えると、短期間での代替確保は容易ではありません。

長期化リスク

ホルムズ海峡の封鎖がどの程度長期化するかは、米国・イスラエルとイランの軍事衝突の行方次第です。封鎖が長引けば、世界のエネルギー市場はさらに混乱し、各国のインフレ加速や経済減速を引き起こす可能性があります。

また、世界の肥料貿易の3分の1もホルムズ海峡を通過しており、エネルギーだけでなく食料生産にも波及するリスクが指摘されています。

まとめ

PVガスの不可抗力宣言は、ホルムズ海峡危機が実体経済に具体的な影響を及ぼし始めたことを示す重要なシグナルです。世界のエネルギー供給の約2割を担う海峡の機能停止は、原油・LNG・LPGの価格高騰と供給不安を世界規模で引き起こしています。

日本を含むアジア各国は、エネルギー調達の多角化や備蓄の活用など、短期・中期的な対策の検討を迫られています。中東情勢の推移を注視しつつ、エネルギー安全保障の見直しが求められる局面です。

参考資料:

関連記事

最新ニュース