銀行の株売りが23年ぶり高水準、債券含み損の穴埋めか
はじめに
銀行による日本株の売りが急拡大しています。2026年1月第4週(1月26日~30日)の銀行の売越額は1,131億円に達し、2002年9月第2週(1,155億円)以来、実に23年4カ月ぶりの高水準を記録しました。
この背景にあるのは、国内金利の急上昇に伴って膨らんだ債券の含み損です。銀行は含み損を抱えた債券を損切りする一方で、含み益のある日本株の利益を確定させ、損失と利益を相殺する動きに出ています。
この記事では、銀行の大量株売りの背景と、株式市場や金利環境への影響を詳しく解説します。
銀行の株式売却の実態
23年ぶりの売越規模
銀行セクターは1月第4週に1,131億円の日本株を売り越しました。この規模は2002年9月第2週の1,155億円に匹敵するもので、当時はバブル崩壊後の不良債権処理で銀行が株式の持ち合いを解消していた時期です。
今回の売りは不良債権処理とは異なりますが、金利環境の大きな変化に対応するための資産ポートフォリオの調整という点では、歴史的な転換期の動きといえます。
同週の日経平均への影響
銀行の大量売却が行われた1月第4週、日経平均株価は週間で524円(約1%)下落し、5万3,323円で終えました。週初の1月26日には円高・ドル安の進行を受けて961円の大幅下落を記録しています。
その後、戻りを試す動きも見られましたが上値は重く、銀行の機関的な売りが相場の上値を抑える一因となりました。為替市場では「日米両金融当局によるレートチェックが行われた」との観測が広がり、円高基調が強まったことも株式市場への重しとなっています。
債券含み損と株式益出しのメカニズム
金利上昇が債券価格を押し下げる
債券は金利が上昇すると価格が下落する関係にあります。日本では日銀による金融政策の正常化が進む中、長期金利が上昇傾向にあり、銀行が保有する国債の評価額が大きく目減りしています。
日銀自身も2025年9月中間決算で、保有する国債の含み損が32兆8,258億円と過去最大になったことを公表しています。銀行にとっても事情は同様で、特に地方銀行の国内債含み損は前年同期比で2倍に膨らんでいます。
「損益通算」の仕組み
銀行が株式を売却する理由は、含み益のある株式を売って利益を実現させ、含み損のある債券を同時に売却して損失を確定させることで、両者を相殺する「損益通算」にあります。
具体的には、長年保有してきた取得単価の低い株式を売却すれば大きな利益が出ます。同時に、金利上昇で含み損が生じている債券を売却して損失を確定させれば、税務上の利益を圧縮できます。決算期末を控えたこの時期に、こうしたポートフォリオの調整が集中的に行われたとみられます。
金利上昇の背景と今後の見通し
日銀の金融政策正常化
金利上昇の根本的な原因は、日銀による金融政策の正常化です。長年続いたマイナス金利政策からの脱却が進む中、国債買入れの減額も並行して実施されています。
2026年の長期金利について、市場の最高予想は2.3%とされています。日銀がさらなる利上げに踏み切れば、銀行の債券含み損はさらに拡大する可能性があります。
銀行にとっての「表と裏」
金利上昇は銀行にとって一面では追い風です。貸出金利と預金金利の差である利ざやが拡大し、本業の収益力が向上します。2025年には三井住友フィナンシャルグループが上場来高値を更新するなど、金融株は人気化していました。
しかし裏面では、保有債券の含み損という問題が深刻化しています。銀行株のPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回っている銘柄が8割を占める背景には、この含み損リスクへの懸念があります。金利上昇の恩恵と負担の両面を理解することが重要です。
株式市場への影響と投資家の注意点
需給面での下押し圧力
銀行による日本株の大量売却は、需給面での下押し圧力となります。特に銀行が長期保有してきた大型株や、政策保有株(持ち合い株)が売りの対象になりやすく、個別銘柄への影響も無視できません。
ただし、銀行の売りが一巡すれば需給環境は改善に向かう可能性があります。2002年当時も、銀行の大量売却は一時的な現象にとどまり、その後の相場回復につながりました。
金利上昇局面での資産配分
投資家にとっては、金利上昇局面における資産配分の見直しが課題となります。債券価格の下落リスクがある一方で、銀行株をはじめとする金融セクターは利ざや改善の恩恵を受けます。
金利が上昇する環境では、セクター間の明暗が分かれやすくなります。銀行株自体は「本業の収益改善」というポジティブ要因と「保有債券の含み損」というネガティブ要因が綱引きしている状態であり、個別銀行の債券ポートフォリオの構成を確認することが投資判断の鍵となります。
注意点・今後の展望
地方銀行への波及
大手銀行以上に懸念されるのが、地方銀行への影響です。地方銀行は国債を中心とした債券保有比率が高く、金利上昇の影響を受けやすい構造にあります。上位行では損切りが進んでいますが、下位の地方銀行にはリスクが蓄積している可能性があります。
政策保有株の解消加速
今回の銀行の株式売却は、金利環境への対応という側面に加え、東京証券取引所が求めている政策保有株の解消という流れとも重なっています。企業統治改革の一環として、銀行と事業会社の株式持ち合いの解消は今後も続く見通しです。
まとめ
銀行による日本株売りの23年ぶり高水準は、日本の金利環境が大きな転換点を迎えていることを象徴する出来事です。長年の低金利・マイナス金利環境で積み上がった債券ポートフォリオの見直しが、株式市場の需給にも影響を及ぼしています。
金利上昇は銀行の本業にはプラスですが、保有資産の評価においてはマイナスに作用するという二面性があります。投資家は、短期的な需給の乱れに惑わされず、金利正常化がもたらす中長期的な影響を見極めることが重要です。
参考資料:
関連記事
日経平均5日続落、銀行株急落の背景にある「悪い金利上昇」とは
日経平均が5日続落し銀行・保険株が売られた背景には、金利上昇による保有債券の含み損拡大懸念があります。「悪い金利上昇」のメカニズムと投資家への影響を解説します。
銀行の「余裕資金」4年ぶり低水準、金利上昇圧力に警戒
銀行の預貸ギャップが約329兆円と4年ぶりの低水準に落ち込んでいます。堅調な貸出に預金の伸びが追いつかず、国債運用の余地が狭まり、新たな金利上昇圧力となる可能性を解説します。
日経平均急反発の実像、AI偏重相場と原油高が残す業績不安の行方
4月14日前場の日経平均は1346円高まで反発し、終値でも2.43%高となりました。背景には原油安とAI関連株買いがありますが、原油輸入の中東依存度95.1%、ソフトバンクのOpenAI追加投資300億ドル、アドバンテスト上方修正が示す期待先行も見逃せません。指数上昇の中に残る業績リスクと物色集中の危うさを解説。
日経平均566円安の読み方 ホルムズ危機と安川電逆行高の意味
日経平均が4月13日前場に566円安となった背景には、ホルムズ海峡を巡る緊張で原油が100ドル台に再上昇し、ドル高とインフレ懸念が同時に強まったことがあります。一方で安川電機は好決算とAI・半導体向け受注を材料に逆行高となりました。全面安ではなく資金移動として今回の下げを読み解きます。
日経平均急反発でも高値遠い理由と長期金利2.5%の分水嶺とは
停戦報道を受けた日経平均は2878円高で半値戻しを達成したが、過去最高値までなお2500円超の距離が残る。次の関門は10年国債利回り2.5%だ。日銀の利上げ継続姿勢・春闘5%超の賃上げ・財政拡張によるタームプレミアム拡大が同時に重なり、株式バリュエーションの上昇余地が急速に狭まる構造を詳しく解説する。
最新ニュース
ブラジルがBYD「奴隷労働」認定を撤回した背景と波紋
ブラジル政府が中国EV大手BYDを「奴隷労働」企業に認定後わずか2日で撤回し、認定を主導した労働監督局長を解任した。カマサリ工場建設現場で163人の中国人労働者がパスポート没収・賃金搾取の被害に遭った事件の経緯と、中国との外交関係を優先する政治判断が労働者保護を揺るがす構造的問題を読み解く。
AI半導体株高が再点火した理由 世界株高を支える成長と危うさの正体
日経平均は4月14日に5万7877円へ反発し、米ナスダックも戦争ショック後の下げをほぼ吸収しました。なぜAI・半導体株に資金が戻るのか。TSMC、ASML、Broadcom、半導体ETF、原油高との綱引きを手掛かりに、世界株高の持続条件と崩れやすさを解説します。
Amazonのグローバルスター買収 通信衛星戦略と競争環境整理
Amazonは2026年4月14日、Globalstarを総額115.7億ドルで買収すると発表しました。狙いは衛星通信網、Band n53の周波数、Apple向けサービス、そしてDirect-to-Device市場です。Starlink先行の構図の中で、Amazon Leoが何を得て何が課題として残るのかを整理します。
ANA人事騒動は何だったのか 1997年対立と統治改革の起点
1997年のANA人事騒動は、若狭得治名誉会長、杉浦喬也会長、普勝清治社長の対立が表面化し、社長候補の差し替えまで起きた統治危機でした。背景には規制緩和下での旧運輸官僚主導と生え抜き経営のねじれがありました。1999年の無配、取締役31人から19人への削減、スターアライアンス参加へつながる改革の意味を読み解きます。
ANAとJALの上級座席競争を需要回復と機材更新戦略から読む
ANAは2026年8月受領の787-9に個室型ビジネスクラス「THE Room FX」を載せ、JALは2027年度から737-8で国内線ファーストクラスを全国展開します。訪日客4268万人、訪日消費9兆4559億円、国内旅行消費26兆7746億円の時代に、航空会社が座席を上質化する収益戦略を読み解きます。