Research

Research

by nicoxz

バイトダンスがAI半導体を自社開発する狙いと背景

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

動画共有アプリ「TikTok」の親会社として知られる中国ネット大手のバイトダンス(ByteDance)が、AI推論用の半導体を独自に開発していることが明らかになりました。ロイター通信が2月11日に関係者の話として報じたもので、製造については韓国サムスン電子と協議を進めているとされています。

このプロジェクトは「SeedChip」のコードネームで呼ばれ、2026年3月末までにサンプルを受け取り、年内に少なくとも10万個の生産を目指す計画です。バイトダンスは報道の内容について「不正確」としていますが、中国テック企業によるAI半導体の自社開発は加速しており、その背景には米国の輸出規制があります。

本記事では、バイトダンスのAI半導体戦略、サムスンとの連携の狙い、そして中国AI半導体市場の全体像を解説します。

SeedChipの開発計画と狙い

AI推論に特化した設計

バイトダンスが開発中のSeedChipは、AIの「推論(Inference)」タスクに特化して設計されています。AI推論とは、学習済みのモデルを使ってユーザーの問い合わせにリアルタイムで回答を生成するプロセスです。TikTokのレコメンドエンジンや、バイトダンスが展開するAIサービスにおいて、推論処理の効率化は事業の根幹に関わる課題です。

バイトダンスは短編動画だけでなく、eコマース、エンタープライズ向けクラウドサービスなど幅広い事業を展開しています。AIがこれらの事業ポートフォリオを変革するという確信のもと、半導体の自社開発という大型投資に踏み切ったと見られます。

生産規模と投資計画

報道によると、バイトダンスは2026年内に少なくとも10万個のSeedChipを生産する計画で、段階的に生産量を増やし最大35万個まで拡大する方針です。3月末までにサンプルチップの受け取りを目指しており、開発は相当進んでいることがうかがえます。

バイトダンスの2026年のAI関連投資は約1,600億元(約220億ドル、約3.3兆円)に達する見通しです。この巨額投資の半分以上が、米NVIDIAの「H200」をはじめとする先端半導体の調達と、自社半導体の開発に充てられるとされています。

サムスン電子との連携

なぜサムスンなのか

バイトダンスがサムスン電子をパートナーに選んだ背景には、複数の要因があります。まず、サムスンは世界有数の半導体ファウンドリ(受託製造)能力を持ち、先端プロセスでの製造実績があります。

加えて、サムスンとの協議では半導体の製造だけでなく、メモリーチップへのアクセスについても話し合われています。世界的なAIインフラの構築競争が激化する中、高帯域幅メモリー(HBM)をはじめとするメモリー半導体の供給は極めて逼迫しています。メモリー分野で世界トップクラスのシェアを持つサムスンとの連携は、製造と部材調達の両面でメリットがあります。

ファウンドリ事業の追い風

サムスンにとっても、バイトダンスとの取引は歓迎すべき案件です。サムスンのファウンドリ事業はTSMC(台湾積体電路製造)に大きく水をあけられており、大口顧客の獲得は事業強化の好機となります。中国テック企業がTSMCを利用しづらい状況にある中、サムスンが受け皿となる構図が生まれています。

中国テック企業のAI半導体自給競争

米国輸出規制がもたらした「自給自足」の波

バイトダンスのAI半導体開発は、中国テック企業全体の動きの一環です。米国は2022年10月に先端AI半導体の対中輸出を原則禁止とし、2023年10月にはさらに規制を強化しました。NVIDIAの最先端GPU「H100」「H200」などへのアクセスが制限されたことで、中国企業は半導体の自社開発を加速させています。

主要プレーヤーの動向

ファーウェイ(Huawei) は、この分野で最も先行しています。AIプロセッサ「Ascend」シリーズを独自に開発し、中国最大のファウンドリSMICの先端プロセスで製造しています。2026年には主力の「Ascend 910C」を約60万個生産する計画で、シリーズ全体では最大160万個への増産を目指しています。中国国内のAI半導体市場で約3割のシェアを獲得するまでに成長しています。

アリババ(Alibaba) もAI推論に特化した独自チップの開発を進めています。SMICでの製造が有力視されており、NVIDIA依存からの脱却を図っています。

バイドゥ(Baidu) は独自のAI半導体「Kunlun 3」を開発中で、検索エンジンやAIサービス「Ernie Bot」の基盤として活用する方針です。

バイトダンスのSeedChipは、こうした中国テック大手によるAI半導体自給の流れに新たなプレーヤーが加わったことを意味します。

中国全体の生産能力拡大

中国は国家的な取り組みとして、AIプロセッサの国内総生産量を2026年に前年の3倍に引き上げる計画を掲げています。ファーウェイ向けの半導体製造工場が新たに3カ所稼働する予定で、AI半導体の「国産化」は着実に進んでいます。

注意点・展望

技術的なハードル

バイトダンスのSeedChipが実際にどの程度の性能を発揮できるかは未知数です。AI半導体の開発は設計だけでなく、ソフトウェアエコシステムの構築が不可欠です。NVIDIAが圧倒的な優位を持つ理由の一つは、開発フレームワーク「CUDA」を中心とした成熟したソフトウェア基盤にあります。自社開発チップで同等の開発環境を構築するには、相当な時間と投資が必要です。

また、バイトダンス自身が報道を「不正確」としている点も注目に値します。計画が報じられた通りに進むかどうか、今後の推移を慎重に見る必要があります。

米中半導体競争の新局面

米国の輸出規制は中国のAI発展を抑制する狙いでしたが、皮肉にも中国企業の半導体自給化を加速させる「ブーメラン効果」を生んでいます。NVIDIAにとっては巨大な中国市場の喪失を意味し、長期的には世界の半導体産業の勢力図を塗り替える可能性があります。

一方で、中国製AI半導体が性能面でNVIDIA製品に追いつくには時間がかかるとの見方も根強く、当面は「二重標準」が併存する時代が続く見通しです。

まとめ

バイトダンスのAI半導体「SeedChip」の開発は、中国テック企業によるAI半導体自給戦略の新たな一歩です。サムスン電子との製造協議は、製造能力とメモリー供給の確保を同時に狙う戦略的な動きと言えます。

ファーウェイ、アリババ、バイドゥに続くバイトダンスの参入により、中国のAI半導体エコシステムは急速に拡大しています。米国の輸出規制が続く限り、この流れはさらに加速するでしょう。今後は、各社の半導体がどの程度の性能を実現し、NVIDIAの支配的地位にどこまで迫れるかが注目ポイントとなります。

参考資料:

関連記事

最新ニュース