半導体製造装置が3四半期ぶり2ケタ増収へ
はじめに
世界の半導体製造装置業界が再び成長軌道に乗ろうとしています。2026年1〜3月期、主要メーカー9社の売上高は前年同期比16%増と、3四半期ぶりの2ケタ増収となる見通しです。
この成長を牽引しているのは、AI(人工知能)関連の旺盛な投資需要です。データセンター向けの先端半導体の増産が急ピッチで進み、製造装置への引き合いが一段と強まっています。一方で、米中対立が深まるなか、中国向け販売が増加していることで地政学リスクも高まっています。
本記事では、半導体製造装置市場の最新動向と、AI投資がもたらす成長の構造、そして見逃せないリスク要因について解説します。
AI投資の加速が装置需要を押し上げる
データセンター向け投資の急拡大
半導体製造装置の需要を強力に牽引しているのが、AI向けデータセンターへの巨額投資です。クラウドサービス大手各社はAIインフラの増強に向けて設備投資計画を大幅に引き上げており、先端半導体の需要が急増しています。
業界団体SEMIの予測によると、2025年の半導体製造装置の世界売上高は前年比13.7%増の1,330億ドルに達し、過去最高を記録しました。2026年には1,450億ドル、2027年には1,560億ドルへとさらに拡大する見込みです。この3年連続の成長を支えているのが、AIと先端技術への移行です。
特に注目されるのが、高帯域メモリ(HBM)向けの装置需要です。AI半導体に不可欠なHBMの量産に向けた投資が各社で加速しており、メモリ向け製造装置の引き合いが極めて強い状況が続いています。
先端ロジック・パッケージングの投資拡大
AI向け半導体の製造には、先端ロジック(演算処理用半導体)だけでなく、先端パッケージング技術も欠かせません。チップレット技術やCoWoS(Chip on Wafer on Substrate)などの先端パッケージング向けの設備投資が活発化しています。
米Applied Materialsは、2026年度第1四半期(2025年11月〜2026年1月)の売上高が70.1億ドルとなり、先端ファウンドリ・ロジック、DRAM(特にHBM)、先端パッケージングの3分野を成長の柱として位置づけています。同社によると、これらのセグメントで設備の稼働率はほぼフル状態にあるとのことです。
主要メーカーの業績動向
欧米勢の見通し
オランダのASMLは2026年通期の売上高見通しを340億〜390億ユーロと発表しており、EUV(極端紫外線)露光装置やHigh NA(高開口数)EUV装置の出荷が業績を牽引する見込みです。AI需要によるEUV装置の受注は堅調で、2ケタの売上成長が期待されています。
Applied Materialsは、AIブームを追い風に2026年度の20%成長見通しを掲げています。ウェーハ処理装置市場における同社のシェア拡大も進んでおり、「AIギガサイクル」の恩恵を最も受ける企業の一つとして市場から注目されています。
日本の装置メーカーの状況
日本半導体製造装置協会(SEAJ)の予測によると、日本製半導体製造装置の2026年度の販売額は前年度比12%増の5兆5,004億円に達する見通しです。AIサーバー向けの先端半導体投資の拡大が、国内装置メーカーの業績を押し上げています。
東京エレクトロンは、2026年3月期の業績見通しにおいて中国向け売上の減少を見込んでいるものの、HBM量産に伴うメモリ向け需要は底堅いと分析しています。2027年3月期にかけて、中国のAI半導体生産やHBM生産がさらに活発になるとの見方もあります。
中国市場という「両刃の剣」
増加する中国向け販売
半導体製造装置メーカーにとって、中国は最大の市場の一つです。SEMIの予測では、中国、台湾、韓国が2027年まで装置投資の上位3カ国を維持する見通しです。中国の国内デバイスメーカーは、成熟プロセスや特定の先進ノードへの投資を積極的に継続しています。
2026年の中国の半導体自給率は21.2%に達する見込みとされていますが、国産化の動きはさらに加速しています。レガシー(汎用)半導体での生産能力拡大に加え、HBMや先端パッケージング技術の内製化にも注力しています。
強まる輸出規制と地政学リスク
一方、米中対立の激化に伴い、半導体製造装置の輸出規制は年々厳格化しています。米商務省産業安全保障局(BIS)は、中国に対する半導体の輸出管理を強化し、特定の半導体製造装置を新たに規制対象としています。さらに、多数の中国企業がエンティティー・リストに追加されています。
この規制は日本や欧州の装置メーカーにも影響を及ぼしており、各社は中国向けビジネスのリスク管理を迫られています。Applied Materialsは、輸出規制による2026年度の売上への影響を約6億ドルと見積もっています。
好業績の裏側で、中国市場への依存度が高まれば高まるほど、規制変更による業績への打撃も大きくなるという構造的な矛盾を抱えているのです。
注意点・展望
半導体サイクルの変質に注意
従来の半導体サイクルは3〜4年周期で景気の波を繰り返してきましたが、AI投資が構造的な需要を生み出すことで、このサイクルが「ギガサイクル」と呼ばれる前例のない長期拡大局面に入ったとの見方があります。ただし、AIバブルへの懸念や、投資回収に時間がかかるという指摘もあり、楽観一辺倒は禁物です。
今後の見通し
短期的には、2026年1〜3月期の2ケタ増収が示すように、AI投資の追い風は力強いものがあります。中長期的には、SEMIが予測する2027年の1,560億ドル市場(過去最高更新)に向けて、成長トレンドが続く可能性が高いです。
ただし、米中対立の行方、各国の輸出規制の動向、そしてAI投資の持続性は、業界の先行きを左右する重要な不確定要素です。投資家や関連企業は、これらのリスク要因を注視する必要があります。
まとめ
半導体製造装置業界は、AI投資の加速を追い風に3四半期ぶりの2ケタ増収を達成する見通しです。HBMや先端パッケージングなどAI関連の装置需要は極めて旺盛で、2027年に向けて市場は過去最高を更新し続ける見込みです。
一方で、中国市場をめぐる地政学リスクは無視できません。好業績と規制リスクが表裏一体となるなか、各企業の中国向けビジネスの戦略的判断が今後の明暗を分けることになるでしょう。半導体関連の投資を検討する際は、AI需要の構造的な成長性と地政学リスクの両面を踏まえた判断が求められます。
参考資料:
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