企業年金が国内債券に回帰へ、金利上昇で魅力増す
はじめに
国内金利の上昇を受け、企業年金が国内債券の組み入れを増やすとの見方が広がっています。マイナス金利時代に国内債券を減らし、為替ヘッジ付き外国債券などに資金をシフトしていた企業年金が、再び国内債券に目を向け始めているのです。
信託銀行や運用会社は、この「国内債シフト」に備えた商品を相次いで投入しています。日銀の国債買い入れ減額が進む中、企業年金が債券市場の貴重な担い手となる可能性が注目されています。
マイナス金利時代に起きた変化
国内債券からの資金流出
日本にマイナス金利が導入されて以降、企業年金のポートフォリオに大きな変化が起きました。「安定収益」を担う役割を国内債券運用から、為替ヘッジ付きの外国債券や生命保険の一般勘定に移すことがトレンドとなったのです。
国内債券の利回りがゼロやマイナスでは、年金資産の運用目標を達成することが困難でした。そのため、より高い利回りを求めて外国債券への投資が増加しました。
外国債券の課題が顕在化
しかし、外国債券投資にも課題が出てきました。米国の金利上昇に伴い、為替ヘッジコストが大幅に上昇したのです。ヘッジコストがインカムリターンを上回る「ヘッジコスト負け」の状況が発生し、外国債券投資の魅力が低下しました。
また、生保一般勘定の予定利率低下も、企業年金にとっての選択肢を狭める要因となりました。こうした背景から、国内債券への保有スタンスの再考に焦点が当たるようになっています。
金利上昇がもたらす投資環境の変化
国内債券の魅力が回復
日銀は2024年3月にマイナス金利を解除し、その後も段階的に利上げを実施しています。2025年12月には政策金利を0.75%に引き上げ、長期金利は1%台後半まで上昇しました。
国内債券運用には為替ヘッジコストがかからないため、外国債券のようにインカムリターンがヘッジコストに負ける心配がありません。また、日本は米欧と異なり順イールド(長期金利が短期金利より高い状態)を維持しており、「ロールダウン効果」による追加リターンも期待できます。
年金財政への好影響
金利上昇は、企業年金の財政にも好影響を与えています。非継続基準の予定利率は、直前5年間の30年国債の応募者利回りを勘案して定められますが、近年は上昇に転じています。
予定利率が上昇すれば、割引効果により最低積立基準額が減少し、積立比率が改善します。これは企業年金の財務健全性向上につながる動きです。
GPIFの動向と市場への示唆
基本ポートフォリオの維持
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2025年度からの第5期中期計画でも基本ポートフォリオを維持しています。国内債券、外国債券、国内株式、外国株式にそれぞれ25%ずつ配分する構成です。
2020年の見直しでは、マイナス金利下で国内債券の利回りが低かったことから、外国債券への配分を15%から25%に引き上げ、国内債券は35%から25%に削減しました。今回はその配分を維持する判断となりました。
運用目標の達成に向けて
GPIFの運用目標は「長期的に年金積立金の実質的な運用利回り(運用利回りから名目賃金上昇率を差し引いたもの)1.7%を最低限のリスクで確保すること」です。
金利上昇環境では、国内債券からも一定のリターンが期待できるようになり、この目標達成がより現実的になっています。企業年金も同様の観点から、国内債券への回帰を検討していると見られます。
債券市場の需給と企業年金の役割
日銀買い入れ終了の影響
日銀は2024年3月の金融政策決定会合で、社債等の買い入れを段階的に減額し、2025年1月に終了する方針を決定しました。国債についても買い入れを減額しており、2025年9月末時点で日銀の国債保有比率は50%となっています。
日銀に代わる買い手の確保が債券市場の課題となる中、企業年金の動向が注目されています。
超長期債市場の非常事態
2025年には超長期国債市場で「非常事態」が発生しました。買い手不在による需給の緩みから、財務省は20年債、30年債、40年債の発行減額という異例の対応に踏み切りました。
30年物国債の利回りは一時3.185%まで上昇し、ほぼ四半世紀ぶりに過去最高を更新しました。生命保険会社は新たな国際資本規制(ESR)への対応でデュレーションギャップの縮小を進めてきましたが、超長期債の積極購入は一巡しつつあります。
企業年金に期待される役割
こうした環境下で、企業年金が国内債券への投資を増やせば、需給が緩む債券市場で一定の役割を担うことが期待されます。公的年金(GPIF)も日銀保有減少の受け皿として機能しており、2025年9月末時点で3.1兆円の増加を記録しました。
投資判断における注意点
金利上昇リスクへの対応
債券運用において最も留意すべきリスクは、金利上昇時のキャピタルロス(債券価格の下落による損失)です。NOMURA-BPI(総合)の修正デュレーションは近年9年を超える水準となっており、外国債券のインデックスと比較して2年以上長くなっています。
このことは、同じ幅の金利上昇でも、日本国債の方が価格下落幅が大きくなることを意味します。国内債券の方が外国債券よりもリスクが高いという見方もあり、投資判断には慎重さが求められます。
今後の金利見通し
市場関係者の予想では、日銀は2026年も利上げを継続し、政策金利は1%程度まで上昇する可能性があります。長期金利も1%台後半での推移が見込まれています。
金利がピークに達した後であれば、債券投資のリスクは低下しますが、利上げ途中での投資は価格変動リスクを伴います。企業年金各社は、投資タイミングの見極めに苦心していると見られます。
運用会社の商品対応
国内債シフトに備えた商品投入
信託銀行や運用会社は、企業年金の国内債券シフトに備えた商品を相次いで投入しています。従来の国内債券ファンドに加え、金利変動リスクを抑制した商品や、インフレ連動型の商品などが開発されています。
企業年金向けの運用商品では、株式・債券から不動産、プライベート・エクイティなどのオルタナティブ資産まで幅広い選択肢が提供されるようになっています。
まとめ
国内金利の上昇により、企業年金が国内債券への投資を再検討する動きが広がっています。マイナス金利時代に外国債券や生保一般勘定にシフトしていた資金が、ヘッジコスト上昇や予定利率低下を背景に、国内債券に回帰する可能性があります。
日銀の国債買い入れ減額が進む中、企業年金は債券市場の貴重な担い手となることが期待されています。一方で、金利上昇局面での債券投資にはキャピタルロスのリスクもあり、投資タイミングの見極めが重要です。
信託銀行や運用会社も国内債シフトに備えた商品を投入しており、企業年金の運用担当者にとっては選択肢が広がっています。今後の金利動向と各社の投資判断に注目が集まります。
参考資料:
関連記事
J-REITが米豪を上回る好調ぶり、金利上昇下でも成長する理由
日本の上場不動産投資信託(J-REIT)が2024年末比で24%上昇し、米国やオーストラリアを上回るパフォーマンスを記録。金利上昇局面でもオフィス賃料の改善が追い風となっている背景を解説します。
J-REITが金利上昇下でも堅調、年24%高の背景
日本のJ-REITが金利上昇という逆風の中でも堅調な推移を見せています。東証REIT指数は年間24%上昇し、米国・豪州を上回るパフォーマンス。オフィス市況好転と賃料収入増がカギです。
「高市トレード」で明暗、株式と債券市場が異なる反応を示す理由
高市首相の衆院解散検討報道で株高・円安・債券安が同時進行。積極財政への期待で株価は最高値を更新する一方、長期金利は27年ぶりの高水準に。株式市場と債券市場で評価が分かれる構造的な要因を解説します。
政投銀系と大和証券が国内最大級の航空機ファンド設立へ
日本政策投資銀行系のマーキュリアホールディングスと大和証券グループが、アイルランドのエアボーン・キャピタルと組み1500億円規模の航空機投資ファンドを設立。機関投資家向けの新たな投資機会について解説します。
楽天銀行が住宅ローン変動金利を引き上げ、家計への影響は
楽天銀行が2026年2月から変動型住宅ローン基準金利を0.11%引き上げ。日銀の利上げを受けた措置で、借り手の返済負担が増加します。今後の金利動向と家計防衛策を解説。
最新ニュース
麻生副総裁「解散は首相の専権、議席増に全力」
訪韓中の麻生氏が衆院解散を巡り発言。「脇役が言う話ではない」と首相を支持しつつ、事前相談なしへの不満も滲む。
日銀1月会合は据え置き濃厚、成長率見通し上方修正で利上げ継続に布石
日銀は1月22〜23日の会合で政策金利0.75%を維持する見通し。政府の経済対策を反映し2026年度の成長率見通しを引き上げ、段階的利上げ継続への道筋を示します。
立憲民主・公明が新党「中道改革連合」結成へ
2026年1月、立憲民主党と公明党が高市政権に対抗する新党を結成。食品消費税ゼロを掲げ衆院選に挑む。国民民主は参加せず独自路線を選択。
新党「中道改革連合」、反高市路線で政権に対抗
立憲・公明が新党結成。積極財政修正、集団的自衛権全面容認反対など、高市政権との対立軸を鮮明に。家計分配重視にリスクも。
建設業界7割が大型工事受注できず、人手不足が経済成長の足かせに
2026年度に大手・中堅建設会社の約7割が大型工事を新規受注できない見通し。深刻な人手不足が受注余力を制約し、民間設備投資と公共投資に影響を及ぼす現状を解説します。