住宅ローン再強化で預金獲得へ 銀行各行の最新戦略を解説
はじめに
銀行業界で住宅ローンが再び脚光を浴びています。日銀の段階的な利上げにより金利環境が変化するなか、各金融機関は住宅ローンを単なる融資商品としてではなく、預金や決済取引を広げるための重要な顧客接点として位置づけ直しています。りそな銀行は借入額の上限引き上げやペアローン向け団体信用生命保険の拡充に踏み切り、広島銀行は対面の相談拠点を増設して新規顧客の開拓を進めています。本記事では、銀行各行が住宅ローン戦略を再強化する背景と具体的な取り組み、そして今後の金利環境が利用者に与える影響について、独自調査に基づき解説します。
住宅ローン強化の背景と各行の取り組み
なぜ今、住宅ローンなのか
銀行にとって住宅ローンは長期にわたる顧客接点を生む商品です。住宅ローンを契約した顧客は、返済用の口座開設を皮切りに、給与振込や公共料金の引き落とし、さらには資産運用や保険といった幅広い金融サービスの利用につながります。いわゆる「クロスセル」の起点として、住宅ローンの戦略的価値が改めて見直されているのです。
とりわけネット銀行の台頭により、住宅ローン市場の競争は激化しています。PayPay銀行やSBI新生銀行などのネット系金融機関が低金利を武器にシェアを拡大するなか、メガバンクや地方銀行は金利競争だけでは差別化が難しい状況に直面しています。そこで各行が注力しているのが、商品ラインナップの拡充と対面サービスの強化です。
りそな銀行の商品拡充戦略
りそな銀行は住宅ローン分野で積極的な商品開発を続けています。同行の住宅ローンは最長40年の借入期間に対応し、借入上限額は最大3億円と高額物件にも対応可能な設計となっています。ペアローンの場合は夫婦それぞれが最大1億円まで借り入れることができ、共働き世帯の住宅取得ニーズに幅広く応えています。
特に注目すべきは、2024年10月に提供を開始した「ペアローン団信」です。これは夫婦でペアローンを組んだ際、どちらか一方が死亡・高度障害の状態になった場合に、2人分の住宅ローン残高がゼロになるという画期的な団体信用生命保険です。さらに、がん特約付きのプランでは、所定のがんと診断された場合にも両者のローン残高が全額保障される仕組みを備えています。
りそな銀行によると、同行の住宅ローン残高のうち約3割がペアローンで占められています。住宅価格の高騰と共働き世帯の増加を背景に、ペアローンの需要は着実に拡大しており、団信の内容が住宅ローン選定の重要な判断基準となっているとの調査結果もあります。同行はこうした市場の変化を的確に捉え、商品力で他行との差別化を図っています。
広島銀行の対面重視戦略
一方、ひろぎんホールディングス傘下の広島銀行は、対面サービスの強化を軸に住宅ローンのシェア拡大を目指しています。同行は広島県内の住宅ローンシェアを現在の4割超から6割まで引き上げる目標を掲げ、相談拠点の増設と人員体制の拡充に取り組んでいます。
この戦略は、住宅ローンの販売にとどまらず、資産運用サービスとのセット提案を見据えたものです。住宅ローンの相談をきっかけに、投資信託や保険商品の提案へとつなげる総合的なコンサルティング体制を構築しようとしています。地域に密着した対面の相談体制は、ネット銀行にはない地方銀行ならではの強みといえるでしょう。
実際に地方銀行を選んだ利用者の調査では、選定理由として最も多かったのが「対面で相談できて安心だった」(37.2%)であり、利用後に良かった点としては「対面でわかりやすく説明してもらえた」(50.0%)が最多でした。金利だけでは測れない付加価値が、地方銀行の住宅ローン戦略を支えています。
ペアローンの拡大と金利環境の変化
共働き世帯とペアローン需要の急伸
住宅ローン市場で最も顕著なトレンドの一つが、ペアローン利用の急増です。住宅金融支援機構の2024年4月の調査によると、住宅ローン利用者のうち約22.8%がペアローンを、約15.4%が収入合算を利用しています。ペアローンの利用率は2023年から2025年にかけて約8.6倍という驚異的な成長を示しました。
この背景には、住宅価格の高騰があります。首都圏を中心にマンション価格は上昇を続けており、単独の収入では希望する物件に手が届きにくくなっています。2025年の住宅購入市場では、共働き世帯が全体の約6割を占めるとされ、夫婦2人の収入を合わせて住宅を取得するスタイルが主流になりつつあります。
ペアローンは夫婦がそれぞれ独立した住宅ローン契約を結ぶ仕組みで、借入可能額を大きく増やせる点が最大のメリットです。加えて、住宅ローン控除を夫婦それぞれが受けられるため、税制上の恩恵も大きくなります。一方で、契約が2本になることで事務手数料や登記費用が増加する点、離婚時の処理が複雑になる点などのデメリットも理解しておく必要があります。
変化する金利環境と住宅ローンへの影響
2025年12月、日本銀行は金融政策決定会合で政策金利を0.50%から0.75%に引き上げました。政策金利が0.75%となるのは1995年以来約30年ぶりのことです。この利上げは住宅ローン市場に大きな影響を及ぼしています。
2026年2月時点の住宅ローン金利を見ると、変動金利は多くの銀行で0.6%から0.7%台を維持していますが、2026年4月には基準金利の見直しにより0.25%程度の引き上げが見込まれています。実際の返済額への反映は2026年7月分からとなる見通しです。
固定金利はすでに上昇が顕著です。主要銀行の10年固定金利は2.2%から2.8%台が中心となり、半年以上にわたって上昇傾向が続いています。住宅金融支援機構のフラット35(21年から35年、団信あり、自己資金10%以上)は2.26%まで上昇し、前月比で0.18ポイントの上昇を記録しました。
こうした金利上昇局面だからこそ、銀行各行は住宅ローンの商品力やサービス品質で差別化を図る必要に迫られています。金利が上がれば借り手にとってのコストは増えますが、同時に銀行にとっては利ざやが拡大する局面でもあります。住宅ローンを通じて獲得した顧客基盤から預金や資産運用へと取引を広げる戦略は、金利上昇時代においてますます重要性を増しています。
注意点・今後の展望
住宅ローンの検討にあたっては、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。まず変動金利を選択する場合、今後の追加利上げの可能性を織り込んだ返済計画が不可欠です。現時点では変動金利・固定金利ともに今より高い水準となる可能性が高いと専門家は指摘しています。
ペアローンについては、「今借りられる金額」だけでなく、「将来にわたって無理なく返済できるか」という視点が重要です。出産や育児で一時的に収入が減少するケースも想定し、余裕のある返済計画を立てるべきでしょう。
銀行の住宅ローン戦略は今後さらに多様化すると見られます。ネット銀行との競争が続くなか、メガバンクは優良個人顧客への絞り込みと手数料ビジネスへの転換を進め、地方銀行は対面サービスと地域密着の強みを活かした総合的な金融コンサルティングへと舵を切っています。利用者にとっては、金利だけでなく、団信の保障内容やアフターフォロー、関連する金融サービスも含めた総合的な比較検討がこれまで以上に大切になります。
まとめ
銀行各行が住宅ローン戦略を再強化する動きは、金利上昇局面を迎えた日本の金融市場における重要なトレンドです。りそな銀行のペアローン団信拡充や広島銀行の対面拠点増設に見られるように、各行は独自の強みを活かして顧客獲得を進めています。住宅ローンは銀行にとって預金・決済取引を広げる入り口であり、利用者にとっては人生最大の金融取引の一つです。金利環境が大きく変わりつつある今、最新の商品動向と金利見通しを把握したうえで、自分に最適な住宅ローンを選ぶことが重要です。
参考資料
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