大和ハウスが物流施設の再生事業を強化、1兆円規模へ
はじめに
物流施設の開発市場が大きな転換点を迎えています。建築資材の高騰と建設人材の不足により、新築物件の開発コストが急上昇する中、既存建物を活用した「再生事業」への注目が高まっています。
大和ハウス工業は、この市場環境の変化を好機と捉え、物流施設や商業施設の改修・再生を手がける事業を本格的に拡大しています。同社が2024年に立ち上げた不動産ストック事業ブランド「BIZ Livness(ビズ・リブネス)」は、2026年度に売上高4000億円、さらに2030年には1兆円規模への成長を見据えています。
本記事では、建築費高騰の実態と物流施設再生事業の可能性、大和ハウスの戦略について詳しく解説します。
建築費高騰が物流施設開発に与える影響
4年間で建築資材が2倍に高騰
建設業界全体で資材価格の上昇が深刻化しています。2021年1月期と2025年4月期を比較すると、板ガラスが83%、アルミ地金が82%、電線類が80%など、主要建材がわずか4年で約2倍に値上がりしました。
特に物流施設(倉庫)の建築コストへの影響は顕著です。倉庫の工事原価指数を見ると、2015年から2020年までの6年間の上昇はわずか4ポイントだったのに対し、2021年から2024年の4年間では32ポイントも上昇しています。
この急激なコスト上昇により、開発計画の見直しを余儀なくされるケースが相次いでいます。
新規供給計画の22%が見直しに
建築費高騰の影響は、物流施設の供給計画にも表れています。首都圏の物流施設について、2023年第4四半期時点で2025年の新規供給は59.5万坪と見込まれていましたが、2024年第4四半期時点では46.7万坪に減少しました。わずか1年間で約13万坪、22%もの開発計画が縮小されたことになります。
開発用地の取得時に想定していた建築費と、実際の設計段階での概算建築費が大きく乖離したことが主な要因です。2025年に竣工予定だった24棟のうち6棟が2026年に延期されるなど、スケジュールの後ろ倒しも発生しています。
大和ハウスの再生事業「BIZ Livness」の全容
2024年に本格始動した不動産ストック事業
大和ハウス工業は2024年5月、グループ3社(大和ハウスリアルティマネジメント、大和ハウスプロパティマネジメント、フジタビルメンテナンス)と連携し、事業施設・商業施設の不動産ストック事業ブランド「BIZ Livness」を本格始動しました。
この事業は、工場、倉庫、商業施設、オフィスビルなど企業が保有する不動産について、売買仲介、買取・販売、リノベーションを通じて戦略的に再活用することに特化しています。
同社は住宅分野ですでにストック事業「Livness(リブネス)」を展開しており、2023年度には全体で売上高3,537億円を達成しています。非住宅分野(事業施設・商業施設)では同年度に933億円の売上を記録しており、この領域の拡大を目指しています。
コスト3〜4割削減と工期短縮を実現
再生事業の最大のメリットは、新築と比較した際のコストと工期の優位性です。
構造躯体(柱、梁、壁、基礎などの構造耐力上主要な部分)を再利用する長寿命化改修では、構造躯体の新築工事が不要となるため、新築と比べて工事費を3割程度削減できます。さらに廃棄物の発生量が大幅に抑えられることで、トータルでは4割程度のコストダウンにつながるケースもあります。
また、基礎工事や構造体の施工期間を省略できるため、工期の大幅な短縮も可能です。人手不足が深刻化する建設業界において、この工期短縮効果は大きな競争優位となります。
豊富な既存ストックを活かした展開
大和ハウス工業は、これまでに事業施設分野で約2万2,000件、商業施設分野で約4万8,000件の建築実績を持っています。「Dプロジェクト」の名称で展開する物流施設だけでも、2025年3月末時点で408棟、総延床面積約1,495万平方メートルの開発実績があります。
これらの自社施工物件に加え、他社が建築した物件も含めて、築年数が経過した施設の改修や用途変更を進める計画です。自らが物件を買い取り、リノベーションによって価値を高め、販売までを一貫して担える点が「BIZ Livness」の強みとなっています。
物流施設の老朽化問題と再生ニーズ
築30年超の施設が全体の5割以上
国土交通省の調査によると、築30年を超える倉庫や工場は全国で約20万件にのぼり、これは全体の5割以上を占めています。東京都市圏に限っても、築30年以上の物流施設は約3割を占めるとされています。
鉄筋コンクリート造の倉庫の法定耐用年数は38年ですが、高度成長期に建設された施設の多くがこの年数を超えて使用され続けています。こうした老朽施設は一般的に小規模で、レイアウト面でも利用効率が悪いとされ、現代の物流ニーズに対応しきれていないのが実情です。
旧耐震基準施設のリスク
特に1981年5月31日以前の旧耐震基準で建てられた施設は、震度5強程度の揺れを想定した設計となっており、大規模地震への耐性に懸念があります。従業員の安全確保やBCP(事業継続計画)の観点から、耐震補強や建て替えの判断を迫られる企業が増えています。
こうした背景から、改修か建て替えかの判断において、コストと工期を抑えられる改修・リノベーションを選択する動きが広がっています。
環境対応と再生事業の相乗効果
ZEB化による脱炭素への貢献
物流施設の再生事業は、脱炭素化の取り組みとも親和性が高いです。環境省は「脱炭素ビルリノベ事業」として既存建物の省エネ改修を支援しており、補助金制度も整備されています。
大和ハウスグループでは2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、2023年までにZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)対応の建物を累計1,305棟提供してきました。「BIZ Livness」でも、改修時にZEB化を組み合わせることで、環境性能の向上とランニングコスト削減を同時に実現する提案を進めています。
既存建物のZEB化は初期コストが増加することもありますが、補助金の活用と光熱費削減効果により、投資回収年数が10年程度になるケースもあります。2050年時点でも現存する建物の約5割は引き続き使用される見込みであり、既存建築物のZEB化は今後ますます重要性を増すと考えられます。
注意点・今後の展望
改修には設計・施工上の制約も
既存建物の改修には、新築にはない制約が伴います。建物の構造や既存設備に合わせた設計が必要となり、レイアウトの自由度が限られるケースがあります。また、高層化や地下階の拡張といった大規模な変更は困難な場合が多いです。
改修を検討する際は、専門家による設備診断を実施し、土台や柱・梁の実際の劣化状態を把握することが重要です。法定耐用年数だけでなく、実際の劣化度合いや将来の維持コストを考慮した上で、改修と建て替えのどちらが適切かを判断する必要があります。
2030年に1兆円規模を目指す
大和ハウス工業は「BIZ Livness」事業について、2026年度に売上高4,000億円、2030年には1兆円規模への成長を目標に掲げています。2023年度の非住宅分野のストック事業売上高933億円から、約10倍の成長を見込む野心的な計画です。
建築費高騰や労働力不足が長期化する見通しの中、既存建物の有効活用は今後も重要な選択肢であり続けるでしょう。物流施設に加え、商業施設やオフィスビルなど幅広い用途での再生事業拡大が期待されます。
まとめ
建築費高騰と人手不足を背景に、物流施設の再生事業が新たな市場として成長しています。大和ハウス工業の「BIZ Livness」は、新築比3〜4割のコスト削減と工期短縮を実現し、老朽化した施設の価値向上に貢献しています。
築30年超の物流施設が全体の半数以上を占める中、改修・リノベーションによる再生ニーズは今後も拡大が見込まれます。脱炭素化への対応と組み合わせることで、環境性能とコスト効率を両立した施設運営が可能になります。
物流施設の調達・運営を検討している企業にとって、新築一辺倒ではなく、既存建物の活用も含めた柔軟な選択肢を検討する価値があるでしょう。
参考資料:
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