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by nicoxz

データセンター処理を電力余剰地域へ瞬時移管する新技術

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はじめに

生成AIの急速な普及により、データセンターの電力消費量が世界的に急増しています。国際エネルギー機関(IEA)の予測によると、2022年に約460テラワット時だったデータセンターの消費電力量は、2026年には最大で1,050テラワット時に達する可能性があります。これは日本の年間消費電力量に匹敵する規模です。

こうした電力需要の急増に対応するため、総務省は2026年春にも画期的な実証事業を開始します。異なる地域のデータセンターを高速光通信網で接続し、電力供給に余裕のある地域へ瞬時に計算処理を移管する「ワット・ビット連携」の技術確立を目指すものです。本記事では、この新しいインフラ最適化の仕組みについて詳しく解説します。

ワット・ビット連携とは

電力と情報通信の最適化

ワット・ビット連携とは、「ワット(電力)」と「ビット(情報通信)」のインフラを協調的に整備・運用することで、両者の効率を最大化する考え方です。AIの普及に伴うデータセンターの電力消費増大を背景に、政府と民間が連携して推進しています。

従来、データセンターは電力供給が安定している都市部に集中して建設されてきました。しかし、再生可能エネルギーの発電適地は地方に多く、都市部との間で電力供給と需要のミスマッチが生じています。ワット・ビット連携は、高速通信網を活用してこのギャップを解消することを目指しています。

実現すべき課題

データセンターの電力消費は、日本国内でも急増が見込まれています。経済産業省の試算によると、データセンターと半導体工場の新増設による最大電力需要は、2034年度には2025年度比で約13倍になると予測されています。人口減少による家庭部門の電力需要減少を上回る規模で、産業部門の電力需要が増加する見通しです。

総務省の実証事業の概要

2026年春からの実証開始

総務省は2026年春にも、異なる地域にあるデータセンターを高速の光通信網でつなぐ実証事業を開始します。電力供給に余裕のある地域へ瞬時に計算処理を移し、効率的な運用が可能かどうかを検証します。

実証では、各地の電力供給状況やデータセンターの計算需要をリアルタイムで把握し、最適な場所で処理を実行できるかを確かめます。電力事業者、通信事業者、データセンター事業者が連携して技術の確立を目指します。

地域間ワークロードシフト

具体的な運用イメージとして、昼間は太陽光発電が豊富な九州地方のデータセンターで計算処理を集中させ、夜間は風力発電が活発な北海道や東北地方のデータセンターに処理を移行させることが想定されています。再生可能エネルギーの発電量が余剰となる時間帯に電力を最大限活用できる仕組みです。

東京大学と富士通は、2026年1月から3月にかけて、電力系統の状況と連動したクラウド接続による地域間ワークロードシフト技術の検証に関する実証実験を実施しています。電力系統の状況に応じてデータセンター間で計算負荷を移動させる、国内初の取り組みです。

核心技術:IOWN構想とオールフォトニクス・ネットワーク

NTTのIOWN構想

ワット・ビット連携を技術的に支えるのが、NTTが推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想です。その中核を担うオールフォトニクス・ネットワーク(APN)は、端末からネットワークまですべてに光ベースの技術を導入し、圧倒的な低消費電力、高速大容量、低遅延伝送を実現することを目指しています。

APNは2030年の目標性能として、電力効率100倍、伝送容量125倍、エンド・ツー・エンド遅延を従来の200分の1にすることを掲げています。2023年には、敷設済みの商用光ファイバを用いて、光1波長あたり1.2テラビット毎秒での世界最長336キロメートル伝送と、世界最大容量1テラビット毎秒超のデータ転送のフィールド実証に成功しています。

商用サービスの開始

IOWNの商用展開も進んでいます。2023年3月にNTT東日本・西日本からAPN IOWN1.0の提供が開始され、2024年12月にはAPNサービス「All-Photonics Connect」が開始されました。ユーザー拠点間としては世界最高水準となる最大800ギガビット毎秒の高速大容量通信を提供しています。

NTT東日本とブロードバンドタワーは、1,000キロメートルを超える長距離データセンター間で同一ファイルシステムを構成する取り組みを共同で開始しています。物理的に離れたデータセンターをあたかも一つのシステムのように運用する技術の実証です。

再生可能エネルギー活用との連携

再エネ適地へのデータセンター誘導

政府は、再生可能エネルギーが豊富な地域へデータセンターを戦略的に誘導する政策を進めています。2026年以降、北海道や九州、関東・関西以外の地域でのデータセンター開発が加速する見込みです。

経済産業省と総務省は、2030年代初頭に複数のギガワット級データセンター拠点を地方に整備する計画を示しています。電力供給とデータセンター立地を一体的に計画することで、インフラ投資の効率化を図ります。

政府による支援策

2026年からは、全ての電力を再生可能エネルギーや原子力発電から調達して稼働する工場やデータセンターへの投資を、最大で半額補助する制度の公募が始まります。環境省も総務省と連携し、データセンターの脱炭素化支援を推進しています。

データセンターの地方分散を推進することで、デジタル社会とグリーン社会の同時実現を目指す方針です。

期待される効果と課題

電力の効率的活用

ワット・ビット連携が実現すれば、再生可能エネルギーの出力変動に対応した柔軟な電力活用が可能になります。太陽光や風力は天候によって発電量が変動しますが、計算処理を発電量の多い地域に動的に移すことで、余剰電力を有効活用できます。

NTTの研究開発では、IOWN APNによる遠隔データセンター間の処理配置最適化の実証実験に成功しており、積極的な再生可能エネルギー活用が可能になることが確認されています。

技術的・運用上の課題

一方で、複数のデータセンター間でリアルタイムに処理を移管するには、高度な制御システムが必要です。電力供給状況と計算需要を常時監視し、最適な処理配置を瞬時に判断するアルゴリズムの開発が求められます。

また、異なる事業者間でのデータ連携やセキュリティの確保、通信遅延の最小化など、実用化に向けて解決すべき課題も残されています。今回の実証事業では、これらの課題を検証し、技術の成熟度を高めることが期待されています。

今後の展望とまとめ

総務省の実証事業は、日本のデジタルインフラと電力インフラを統合的に最適化する第一歩です。AI時代の電力需要増大に対応しながら、脱炭素化も同時に進めるという、二つの課題を一挙に解決する可能性を秘めています。

ソフトバンクやNTTをはじめとする通信事業者も、データセンターの全国分散構想を描いており、民間主導の取り組みも加速しています。2030年代に向けて、日本各地にデータセンター拠点が整備され、光通信網で結ばれた分散型のデジタルインフラが構築されていく見通しです。

データセンターの電力問題は、単なるエネルギー課題ではなく、日本の産業競争力に直結するテーマです。ワット・ビット連携の成否は、日本がAI時代のグローバル競争でどのような立ち位置を確保できるかを左右する重要な要素となるでしょう。今後の実証事業の進展に注目が集まります。

参考資料:

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