データセンター地方分散で電力問題を解決へ、ワット・ビット連携とは
はじめに
生成AIの急速な普及により、データセンターの電力消費が世界的な課題となっています。日本では現在、データセンターの約9割が東京圏・大阪圏に集中しており、都市部の電力需給逼迫が懸念されています。
こうした状況を打開するため、総務省は2026年春から新たな実証事業を開始します。異なる地域にあるデータセンターを高速光通信網で結び、電力供給に余裕のある地域へ瞬時に計算処理を移す「ワット・ビット連携」の実現を目指すものです。
この記事では、ワット・ビット連携の基本的な仕組みから、実証事業の内容、そして将来の展望まで詳しく解説します。
ワット・ビット連携とは何か
電力と通信を一体で考える新発想
「ワット・ビット連携」とは、電力の単位「ワット(W)」と情報通信の単位「ビット(bit)」を組み合わせた造語です。2024年7月、東京電力パワーグリッドがGX2040リーダーズパネルで提唱しました。
この構想の核心は、送電線ではなく光ファイバーケーブルでデータを運ぶという発想の転換にあります。送電線の敷設コストに比べ、光ファイバーケーブルは約100分の1の費用で済むとされています。つまり、電力が豊富な地方にデータセンターを置き、そこから光ケーブルで都市部へ情報だけを送れば、インフラ整備のコストを大幅に削減できるのです。
官民一体で進める国家戦略
2025年2月に閣議決定された「GX2040ビジョン」において、ワット・ビット連携は重要政策のひとつに位置づけられました。同年3月からは経済産業省と総務省が共同で「ワット・ビット連携官民懇談会」を開催し、2025年6月には具体的な取りまとめ文書「ワット・ビット連携官民懇談会取りまとめ1.0」が公表されています。
政府はAI・半導体分野で今後10年間に50兆円超、GX分野では2032年度までの10年間で150兆円の官民投資を計画しており、ワット・ビット連携はこの大規模投資を支える基盤技術として期待されています。
2026年春から始まる実証事業の内容
地域間でデータセンターを一体運用
総務省が計画している実証事業では、異なる地域に設置されたデータセンターを高速の光通信網で接続します。各地の電力供給状況やデータセンターの計算需要をリアルタイムで把握し、電力に余裕がある地域へ瞬時に処理を振り分けられるかを検証します。
具体的には、2MW(メガワット)未満の小規模コンテナ型データセンターを複数地域に配置し、NTTが開発を進める「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」で接続する構成が想定されています。
オールフォトニクス・ネットワークの威力
APNは、NTTの次世代通信構想「IOWN(アイオン)」の中核技術です。従来のネットワークでは、光信号を電気信号に変換して処理するため遅延が発生していました。APNでは端末からネットワークまですべての区間で光のまま情報を伝送するため、遅延を従来の200分の1に短縮できる可能性があります。
2024年8月には、NTTと台湾の中華電信が日本と台湾の間(約3,000km)をAPNで接続する実験に成功しました。片道の遅延はわずか約17ミリ秒で、遅延のゆらぎもほとんどありませんでした。この技術を国内のデータセンター間に適用すれば、地理的に離れた複数の拠点をあたかも一つの巨大なデータセンターのように運用できます。
なぜ地方分散が必要なのか
電力需給の逼迫問題
生成AIの学習や推論に使われるGPU(画像処理装置)は、従来のサーバーと比べて数倍から十数倍の電力を消費します。データセンターが集中する東京圏・大阪圏では、近い将来、電力供給が需要に追いつかなくなる恐れがあります。
一方、北海道や九州などの地方部では、太陽光や風力といった再生可能エネルギーの発電量が豊富です。昼間は太陽光発電が活発な九州で処理を行い、夜間は風力発電が盛んな北海道や東北へ処理を移すといった運用が可能になれば、再エネを最大限活用しながら電力需給のバランスを取ることができます。
災害レジリエンスの強化
日本は地震大国であり、首都直下地震や南海トラフ巨大地震のリスクを常に抱えています。データセンターが東京・大阪に集中している現状では、大規模災害が発生した場合、国全体のデジタルインフラが機能停止する危険性があります。
データセンターを地方に分散させ、相互にバックアップできる体制を整えることは、国家の情報インフラを守る上で不可欠です。政府は東京圏・大阪圏を補完・代替する「第三、第四の中核拠点」の整備を進めており、北海道と九州がその有力候補となっています。
地方でのデータセンター建設が進む
北海道での大規模プロジェクト
実際に、地方でのデータセンター建設は加速しています。ソフトバンクは北海道苫小牧市に「Core Brain(コアブレイン)」と呼ばれる大規模データセンターを建設中です。敷地面積は国内最大規模の70万平方メートルで、2026年度に50MW規模の施設を開業予定です。北海道産の再生可能エネルギーを100%使用する「グリーンデータセンター」として運用されます。
また、石狩市でも東急不動産などが中心となり、2026年秋の開業を目指して再エネ地産地消型データセンターの建設が進んでいます。
政府の補助制度
経済産業省は、企業が北海道と九州にデータセンターを設置した場合、開設費用の最大半額を補助する制度を設けています。さらに2026年度からは、脱炭素電力を100%使う工場やデータセンターへの投資を最大半額補助する新制度も始まり、5年間で2,100億円の予算が充てられる予定です。
今後の課題と展望
技術面での課題
ワット・ビット連携を実現するには、いくつかの技術的ハードルがあります。まず、複数のデータセンター間で計算処理を瞬時に切り替えるには、極めて低い遅延と安定した通信品質が求められます。NTTのAPNは2030年頃の本格実用化を目指しており、それまでの間は既存技術でどこまで対応できるかが課題となります。
また、各地の電力供給状況や計算需要をリアルタイムで把握し、最適な配分を自動で行うシステムの開発も必要です。電力会社、通信事業者、データセンター事業者が連携してデータを共有する仕組みづくりが重要になります。
地方における受け入れ体制
データセンターの地方立地には、受け入れ側の課題もあります。十分なネットワーク環境が整っていない地域もあり、インフラの先行整備が必要です。また、地域住民との対話や、運用・保守を担う人材の確保も欠かせません。
一方で、データセンター誘致は地方にとって大きなビジネスチャンスでもあります。建設時の雇用創出に加え、稼働後も継続的な設備投資や運用費用が地域経済に貢献します。「GX戦略地域」として選定されれば、政府からの手厚い支援も受けられます。
まとめ
総務省が2026年春から始める実証事業は、日本のデータセンター戦略の転換点となる可能性を秘めています。ワット・ビット連携が実現すれば、都市部への一極集中を解消し、地方の再生可能エネルギーを最大限活用した持続可能なデジタルインフラが構築できます。
生成AI時代を迎え、データセンターの電力消費は今後も増加が見込まれます。電力と通信を一体で考えるワット・ビット連携は、エネルギー問題と地方創生を同時に解決する「一石二鳥」の政策として注目されています。実証事業の成果が、日本のデジタル社会とグリーン社会の両立にどう貢献するか、今後の展開に注目が集まります。
参考資料:
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