認知症の4割は予防可能:難聴・運動不足・高コレステロールが主要因

by nicoxz

はじめに

「認知症の4割は予防できる」——東海大学などの研究チームが発表したこの結果は、超高齢社会を迎える日本にとって希望の光となっています。東海大医学部の和佐野浩一郎教授とデンマーク・コペンハーゲン大学認知症センターのカスパー・ヨーゲンセン上席研究員による共同研究では、日本人を対象とした調査で、認知症に陥る危険因子として難聴や運動不足、高コレステロールなどの影響が大きいことが明らかになりました。2025年には65歳以上の約5人に1人、約700万人が認知症になると推計される中、適切な対策が講じられれば認知症患者を大幅に減らせる可能性が示されたことの意義は極めて大きいと言えます。

認知症の現状と2025年問題

深刻化する認知症患者数

2025年9月時点で、日本の65歳以上の高齢者人口は3,619万人に達し、総人口の29.4%を占めています。いわゆる「団塊の世代」約800万人全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年は、認知症問題が一段と深刻化する節目の年として「認知症2025年問題」と呼ばれています。

厚生労働省の推計によれば、2025年の認知症患者数は約700万人、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になると予測されています。最新の2025年の推計では約472万人という数字も示されていますが、いずれにしても数百万人規模の国民が認知症に苦しむ状況に変わりはありません。

今後さらに増加する見込み

認知症患者数は今後も増加を続け、2030年には523万人、2040年には584万人、2050年には587万人に達すると予測されています。高齢化の進行に伴い、認知症は個人や家族の問題だけでなく、医療・介護システム全体に大きな負担をかける社会問題となっています。

認知症の14のリスク因子

ランセット委員会の最新報告

2024年7月、英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのギル・リビングストン氏らによる報告書が『ランセット』誌に掲載され、認知症のリスク因子に関する最新の知見が示されました。2020年の報告では12項目だったリスク因子に、新たに「視力低下」と「高LDLコレステロール」の2つが追加され、合計14項目となりました。

これらの14のリスク因子に対処することで、認知症発症を最大45%防ぐまたは遅らせることができることが指摘されています。つまり、認知症の半数近くは、生活習慣の改善や適切な医療介入によって予防可能だということです。

リスク因子の内訳と影響度

14のリスク因子は、人生の段階ごとに以下のように分類されています。

若年期(18歳未満):

  • 教育水準の低さ(集団寄与危険割合5%)

中年期(18~65歳):

  • 聴覚障害、高LDLコレステロール(いずれも7%)
  • 抑うつ、外傷性脳損傷(いずれも3%)
  • 運動不足、糖尿病、喫煙、高血圧(いずれも2%)
  • 肥満、過度の飲酒(いずれも1%)

高齢期(66歳以上):

  • 社会的孤立(5%)
  • 大気汚染(3%)
  • 視力の低下(2%)

この中で、特に影響が大きいのが中年期の「聴覚障害(難聴)」と「高LDLコレステロール」で、それぞれ7%のリスク低減効果があるとされています。

新たに追加された2つのリスク因子

視力低下: 眼鏡で矯正可能な視力の衰えや、失明を含む重度の視力障害などが含まれます。白内障の手術を受けた人は認知症のリスクが下がり、健常者と同程度になったとする報告もあります。視覚情報の減少が脳への刺激を減らし、認知機能の低下につながると考えられています。

高LDLコレステロール: 中年期(18〜65歳)において高LDLコレステロールに対応することで、リスクを7%低減できる可能性が示されています。この割合は難聴と並んで大きく、脂質異常症の管理が認知症予防において重要であることを示しています。

難聴が最大のリスク因子である理由

中年期の難聴で認知症リスクが8%増加

2020年の国際アルツハイマー病協会国際会議では、予防可能な12のリスク因子の中で、中年期(45〜65歳)の難聴を改善することで認知症の8%を減らすことができると報告されました。難聴は、認知症の修正可能なリスク因子の中で最大の影響を持つとされています。

難聴が認知症リスクを高めるメカニズムとしては、以下のような要因が考えられています。

  1. 脳への刺激の減少: 聴覚情報が減ることで、脳への刺激が減り、認知機能が低下する
  2. 社会的孤立: 聞こえにくいことでコミュニケーションが困難になり、社会活動から遠ざかる
  3. 脳の萎縮: 聴覚野の活動が低下することで、脳の萎縮が進む可能性がある

補聴器の使用が認知機能低下を抑制

国立長寿医療研究センターの研究によれば、補聴器を使用している人は中等度の難聴がある場合でも「知識力」の低下が抑制されていることが12年間の研究で明らかになりました。欧米の研究でも、難聴のある人が補聴器を使用すると脳の活性が保たれたという報告や、補聴器使用開始前と比べて開始後は記憶スコアが低下しにくくなったという報告があります。

近年は、難聴が脳機能と関連することに着目し、脳の活性化を促すために早くから補聴器を使う時代になってきています。食事や運動などと同様に、健康を保つ習慣の一つとして補聴器を取り入れることが推奨されています。

難聴の早期発見と対策

加齢性難聴は徐々に進行するため、本人が気づきにくいことが問題です。家族や周囲の人が「テレビの音量が大きい」「何度も聞き返す」といった兆候に気づいたら、早めに耳鼻咽喉科を受診することが重要です。

また、加齢性難聴を悪化させる原因には、糖尿病、高血圧、脂質異常症、動脈硬化といった生活習慣病や、喫煙、過度な飲酒、睡眠不足、騒音環境での長時間滞在などが挙げられます。生活習慣病を予防・治療したり、毎日の生活習慣を変えることで難聴を防ぐことができます。

運動不足と高コレステロールへの対策

運動による認知症予防効果

運動不足は認知症のリスク因子の一つであり、定期的な運動習慣は認知症になる危険性を低くするとされています。国立長寿医療研究センターの研究によれば、運動は以下のような効果を通じて認知症予防に寄与します。

  1. 脳血流の改善: 有酸素運動により脳への血流が増加し、脳細胞への酸素・栄養供給が改善される
  2. 神経新生の促進: 運動により脳由来神経栄養因子(BDNF)が増加し、新しい神経細胞の生成が促進される
  3. 生活習慣病の予防: 運動により高血圧、糖尿病、肥満などが改善され、間接的に認知症リスクが低下する

推奨される運動としては、ウォーキング、ジョギング、水泳などの有酸素運動が効果的です。週に3回以上、1回30分程度の運動を継続することが理想とされています。

高コレステロールの管理

2024年のランセット報告で新たに追加された高LDLコレステロールは、中年期において7%ものリスク低減効果があります。中年期にコレステロール値を適切に管理することが、後年の認知症予防につながるという重要な知見です。

LDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高い状態が続くと、動脈硬化が進行し、脳血管障害のリスクが高まります。脳血管性認知症の予防だけでなく、アルツハイマー型認知症のリスクも高めることが示されています。

対策としては、以下のような生活習慣の改善が有効です。

  1. 食生活の改善: 飽和脂肪酸を減らし、不飽和脂肪酸(魚、ナッツ、オリーブオイルなど)を増やす
  2. 運動習慣: 有酸素運動により善玉コレステロール(HDL)が増加し、悪玉コレステロールが減少する
  3. 適正体重の維持: 肥満はコレステロール値の悪化につながるため、適正体重を維持する
  4. 必要に応じた薬物療法: スタチン製剤などによる治療も検討する

その他の重要なリスク因子への対策

社会的孤立の防止

高齢期における社会的孤立は5%のリスク寄与があり、決して軽視できません。他者とコミュニケーションをとることで脳の活性化が期待できます。地域の活動やボランティア、趣味のサークルなどに参加し、人との交流を保つことが重要です。

抑うつへの対処

中年期の抑うつは3%のリスク寄与があります。うつ症状がある場合は、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けることが認知症予防にもつながります。

糖尿病・高血圧の管理

糖尿病と高血圧はそれぞれ2%のリスク寄与があります。塩分を控え、バランスの良い食事を摂取し、適度な運動習慣を持つことで、これらの生活習慣病を予防・管理することができます。

禁煙と節酒

喫煙は2%、過度の飲酒は1%のリスク寄与があります。禁煙し、適度な飲酒量に抑えることが認知症予防につながります。

実践的な認知症予防のステップ

ステップ1:リスク因子のチェック

まず、自分がどのリスク因子に該当するかをチェックしましょう。聴力、視力、血圧、血糖値、コレステロール値などの健康診断を定期的に受け、現状を把握することが第一歩です。

ステップ2:優先順位をつけて対策

すべてのリスク因子に一度に取り組むのは困難です。特に影響の大きい難聴(7%)、高コレステロール(7%)、教育水準(5%)、社会的孤立(5%)などから優先的に対策を始めましょう。

中年期にある人は、難聴の早期発見と補聴器の使用、コレステロール管理、運動習慣の確立などが重要です。高齢期にある人は、社会的孤立を避け、視力・聴力の維持に努め、人との交流を大切にすることが重要です。

ステップ3:生活習慣の総合的な改善

認知症予防は、単一の対策ではなく、生活習慣全体の改善が効果的です。以下のような総合的なアプローチが推奨されます。

  1. バランスの良い食事: 野菜・果物を多く摂り、魚、ナッツ、オリーブオイルなどの良質な脂質を取り入れる
  2. 定期的な運動: 週3回以上、1回30分程度の有酸素運動を継続する
  3. 社会活動への参加: 地域活動、趣味、ボランティアなどで人との交流を保つ
  4. 知的活動: 読書、パズル、新しいスキルの習得など、脳を活性化させる活動を行う
  5. 十分な睡眠: 質の良い睡眠を確保する
  6. 定期的な健康診断: 聴力、視力、血圧、血糖、コレステロールなどを定期的にチェックする

まとめ

東海大学などの研究で明らかになった「認知症の4割は予防できる」という事実は、超高齢社会を迎える日本に大きな希望をもたらします。2025年に約700万人と推計される認知症患者のうち、約280万人は適切な対策によって予防できる可能性があるということです。

特に影響の大きい難聴、高コレステロール、教育水準、社会的孤立などのリスク因子に対して、中年期から意識的に対策を講じることが重要です。補聴器の早期使用、運動習慣の確立、生活習慣病の管理、社会活動への参加など、日常生活の中で実践できる対策が多く存在します。

2024年のランセット報告で示された14のリスク因子への対処により、認知症発症を最大45%防ぐまたは遅らせることができるという知見は、個人の努力と社会的な支援体制の構築により、認知症問題を大幅に改善できる可能性を示しています。

今こそ、一人ひとりが自分のリスク因子を把握し、できることから対策を始める時です。そして、社会全体として、難聴対策の補聴器購入支援、運動施設の充実、高齢者の社会参加促進など、認知症予防を支える環境づくりを進めることが求められています。

参考資料:

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