車載半導体とは?EVと自動運転を支える技術を徹底解説
はじめに
現代の自動車は「走るコンピューター」と呼ばれるほど、多くの半導体を搭載しています。1995年には1台あたり20〜30個程度だった車載半導体は、現在では1,000個以上に増加。エンジン制御から安全システム、カーナビゲーション、自動運転支援まで、あらゆる機能が半導体なしには成り立ちません。
特に注目されているのが、電気自動車(EV)の普及と自動運転技術の進化に伴う需要拡大です。車載半導体市場は2030年には15兆円を超える規模に成長すると予測されており、自動車産業における半導体の重要性は年々高まっています。
本記事では、車載半導体の種類と役割、そして今後の市場動向について詳しく解説します。
車載半導体の主要カテゴリ
マイコン(マイクロコントローラ)
マイコンは自動車の「頭脳」として、各種システムを制御する中核的な半導体です。走行や停止といった基本性能をつかさどり、エンジン制御ユニット(ECU)に搭載されて燃料噴射量、点火タイミング、吸排気の調整などをミリ秒単位で正確に制御しています。
現在の乗用車には、走行制御用のマイコンだけでも50個以上が搭載されています。電子制御の高度化に伴い、より高性能なマイコンへの需要が増加しており、日本のルネサスエレクトロニクスは車載マイコンの世界トップシェアを誇ります。
パワー半導体
パワー半導体は電力の供給や制御を行うデバイスで、EVの心臓部ともいえる存在です。電池に蓄えられた電力でモーターを駆動する際に不可欠であり、電力変換効率を左右する重要な部品です。
従来のシリコン(Si)ベースのパワー半導体に加え、近年は炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)を用いた「ワイドバンドギャップ半導体」が注目されています。これらは従来品よりも高効率で、EVの航続距離延長や充電時間短縮に貢献します。
日本企業はこの分野で強みを持っており、ロームは2025年6月にBYDトヨタEVテクノロジーおよびFAWトヨタと提携し、第4世代SiC MOSFETをトヨタの新型EV「bZ5」に供給しています。
センサー半導体
自動運転の実現に不可欠なのがセンサー半導体です。車両周辺の環境を認識するために、複数種類のセンサーが連携して機能します。
主要なセンサーの種類:
- カメラ:車両周辺の映像を取得し、物体認識や車線検知を行う
- ミリ波レーダー:電波を使って距離や速度を測定。悪天候でも安定した検知が可能
- LiDAR:レーザー光を使った高精度な3D計測。自動運転レベル4以上で重視される
- 超音波センサー:近距離の障害物検知。駐車支援などに使用
これらのセンサーを組み合わせて統合処理する「センサーフュージョン」技術により、高度な自動運転が可能になります。ソニーセミコンダクタソリューションズは車載イメージセンサーで世界トップクラスのシェアを持っています。
ロジックIC・SoC
自動運転やADAS(先進運転支援システム)では、大量のセンサーデータをリアルタイムで処理する必要があります。この役割を担うのが高性能なロジックICやSoC(System on Chip)です。
複数の機能を1つのチップに集約したSoCは、車両全体のシステムを統合制御する「ドメインコントローラー」や「HPC(High Performance Computer)」の中核を担います。ルネサスは2025年に、3nmプロセスで製造された業界初のマルチドメイン車載SoC「R-Car X5H」を発表。ADAS、インフォテインメント、ゲートウェイの各機能を1チップで処理できる画期的な製品です。
ソフトウェア定義車両(SDV)と半導体
SDVとは何か
ソフトウェア定義車両(Software Defined Vehicle、SDV)とは、車両の機能をハードウェアではなくソフトウェアで定義・制御する次世代の自動車コンセプトです。スマートフォンのようにソフトウェアのアップデートで新機能を追加したり、性能を向上させたりすることが可能になります。
SDV市場は2026年に4,700億ドル、2036年には1.19兆ドルに達すると予測されており、従来の自動車市場の成長率(年2.1%)を大きく上回る年7.0%の成長が見込まれています。
SDVにおける半導体の役割
SDVの実現には、高性能な車載半導体が不可欠です。具体的には以下の要件が求められます:
- 高い演算処理能力:AIや機械学習を車両内で実行するため
- 大容量メモリ:ソフトウェアやデータを格納するため
- 高速通信機能:5G/V2X通信やOTA(Over The Air)アップデート対応のため
- セキュリティ機能:サイバー攻撃からの保護のため
自動車メーカーの45%が、SDVへの移行を最優先の戦略課題として位置づけています。これはADAS(25%)やEV(14%)よりも高い優先度であり、半導体メーカーにとっても重要な成長機会となっています。
車載半導体市場の動向
市場規模と成長予測
車載半導体は現在、世界半導体市場(80〜90兆円)の約10%を占めています。今後は年率10%以上で成長し、現在の約8兆円から2030年には15兆円以上に拡大する見込みです。
日本の車載半導体市場も堅調な成長が予測されています。2025年の99億ドルから、2035年には193億ドルを超える規模に達し、年平均成長率8.5%での成長が見込まれています。
1台あたりの半導体搭載額
自動車1台あたりの半導体搭載金額は、現状で7〜8万円程度です。しかし、EV化が進むと搭載金額は2倍以上に増加します。さらに自動運転車になれば、1台あたり20万円以上の半導体が必要になるとされています。
電動化、自動運転化、コネクテッド化という「CASE」のトレンドが進むほど、車載半導体の重要性と搭載量は増加していきます。
供給体制の正常化と残る課題
2020〜2022年のコロナ禍で深刻化した車載半導体の供給不足は、2024年頃から回復基調に入り、2025年には正常な水準に戻りました。しかし、米中対立や輸出規制などの不安定要素は依然として残っており、供給体制の強靭化と安定確保が継続的な課題となっています。
日本企業の強みと取り組み
主要メーカーの動向
日本は車載半導体分野で強い競争力を持っています。主要企業の特徴は以下の通りです:
- ルネサスエレクトロニクス:車載マイコン世界トップシェア。先端SoCの開発にも注力
- ローム:SiCパワー半導体のリーダー。EV向け供給を拡大中
- 東芝デバイス&ストレージ:パワー半導体と車載メモリを供給
- ソニーセミコンダクタソリューションズ:車載イメージセンサーで高シェア
- デンソー:トヨタグループの半導体開発を主導
- 三菱電機:パワー半導体の主要供給企業
特にパワー半導体、マイコン、車載センサー、メモリ製品で日本企業は存在感を示しており、SiCやGaNベースの次世代パワー半導体への移行でも、グローバルな主要供給国としての地位を強化しています。
産学官連携の取り組み
自動車メーカーと半導体メーカーの連携も進んでいます。「自動車用先端SoC技術研究組合」(ASRA)には、トヨタ、ホンダ、日産など主要自動車メーカーとルネサス、ソシオネクストなどが参加。2028年度までの先端半導体開発を目指し、政府からは最大410億円の補助が決定しています。
注意点と今後の展望
EVシフトの減速リスク
EVの普及ペースには不確実性があります。メルセデス・ベンツは2030年までの完全EV化方針を撤回し、フォルクスワーゲンはドイツ国内のEV工場閉鎖を検討。トヨタも2026年の世界EV生産目標を150万台から100万台に下方修正しています。
EVシフトが想定より遅れれば、パワー半導体などEV向け需要の成長ペースにも影響が出る可能性があります。
地政学リスクへの備え
台湾への依存度の高さは引き続きリスク要因です。日本は先端ロジック半導体の約90%を台湾から調達しており、台湾海峡の情勢変化は自動車生産に直結します。TSMCの熊本工場稼働やRapidusの国産化プロジェクトは、このリスクへの対応策といえます。
まとめ
車載半導体は、自動車の電動化、自動運転化、コネクテッド化を支える基盤技術です。マイコン、パワー半導体、センサー、SoCなど多様な半導体が連携することで、次世代モビリティが実現します。
市場は2030年に15兆円を超える規模に成長する見込みであり、日本企業もルネサス、ローム、ソニーなどを中心に強い競争力を維持しています。地政学リスクへの備えを進めながら、技術革新と安定供給を両立させることが、今後の自動車産業の発展にとって不可欠となるでしょう。
参考資料:
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