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by nicoxz

ドンキが挑む円安時代の輸入革命――小売各社の独自調達戦略

by nicoxz
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はじめに

1ドル=150円前後の円安水準が常態化するなか、輸入コストの上昇は日本の小売業界に大きな課題を突きつけています。帝国データバンクの調査によれば、2025年には年間2万品目を超える飲食料品が値上げされ、消費者の生活を圧迫しました。しかし、この逆風のなかでも「面白い」「ここでしか買えない」海外商品を武器に、独自の輸入戦略で差別化を図る小売企業が存在します。その筆頭が、ドン・キホーテを運営するPPIH(パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)です。同社は2024年10月に輸入に特化した専門部署を新設し、話題の「剥けるバナナパン」のような商品を次々とヒットさせています。本記事では、PPIHを中心に、成城石井やドウシシャといった各社の輸入戦略を掘り下げ、円安時代を生き抜く小売業の最前線を解説します。

ドンキの「ワールドセレクト課」――原点回帰の海外商品発掘

新部署設立の背景

PPIHは2024年10月、社内に「ワールドセレクト課」と呼ばれる新部署を設立しました。これは、海外の商品を現地で調査し、メーカーと直接商談して仕入れる体制を整えたもので、同社にとって輸入に特化した初めての専門組織です。

この動きの背景には、ドンキ内部での「優等生化」に対する危機感がありました。かつてのドン・キホーテといえば、「何があるか分からない」「変な商品が置いてある」という驚きと発見の場として知られていました。しかし近年はPB(プライベートブランド)商品「情熱価格」の強化が進み、品質と価格のバランスが取れた商品が増える一方で、良くも悪くも「代わり映えのしない売り場」になっているのではないか、という社内の課題意識が高まっていたのです。

ワールドセレクト課のリーダーを務める高橋秀幸氏は、「売れるかどうかは正直分からないですが、『何これ』と思ってもらえる商品を売りたい。それがドンキの本質だと思っています」と語っています。つまり、この新部署は単なる輸入コスト対策ではなく、ドンキのブランドアイデンティティそのものを再構築する戦略的な取り組みなのです。

「剥けるバナナパン」に見るヒットの方程式

ワールドセレクト課の成果を象徴する商品が、2024年11月に発売された「剥けるバナナパン」です。税込215円というお手頃価格で、バナナのような外観をしており、実際にバナナの皮をむくように外側をめくれるという新感覚のパンです。この商品は発売後、想定の5〜6倍もの売れ行きを記録し、大きな話題となりました。

注目すべきは、その仕入れプロセスです。担当者が韓国のSNSで流行している商品を発見し、製造元である中国企業と直接商談を行い、輸入にこぎつけました。従来の商社を介した輸入ルートではなく、SNSでのトレンド発見から現地メーカーとの直接交渉、そして店頭展開までを一気通貫で手がけるスピード感が、この新部署の強みです。

ワールドセレクト課のメンバーは、SNSでの情報収集にとどまらず、海外の展示会やショッピングモールを実際に巡回し、現地の消費者が何に注目しているかを肌で感じ取っています。気になる商品があれば、メーカーに直接打診し、製造工場まで足を運んで品質を確認するという徹底ぶりです。

PPIHの業績を支える海外ネットワーク

PPIHの2026年6月期第2四半期(中間期)決算では、売上高が前年同期比7.2%増の1兆2,101億円、営業利益が4.7%増の939億円と、いずれも過去最高を更新しました。通期の業績予想も上方修正され、売上高2兆4,350億円(8.4%増)、営業利益1,740億円(7.2%増)を見込んでいます。

こうした好業績の土台には、海外事業のネットワークがあります。北米事業の売上高は1,347億円(3.4%増)、アジア事業は462億円(6.4%増)と、グローバルに展開する店舗網が成長を続けています。海外に「DON DON DONKI」や「Tokyo Central」などの拠点を持つことで、各国の消費トレンドやメーカー情報をリアルタイムに収集できる基盤が整っているのです。また、グループ子会社の「パンパシフィック・インターナショナル・トレーディング」が海外商品の企画・製造管理・調達・輸出支援を担っており、ワールドセレクト課の活動を物流面でも支えています。

成城石井・ドウシシャに学ぶ――各社の輸入最前線

成城石井:30人のバイヤーが世界を駆ける

円安下での輸入戦略という点で、成城石井は長年にわたる先駆者です。同社の最大の特徴は、約30名の専門バイヤーが日本全国はもちろん、世界中を飛び回って直接買い付けを行う体制にあります。

その仕組みの中核を担うのが、子会社の「東京ヨーロッパ貿易」(横浜市)です。成城石井はこの貿易子会社を通じて世界各地から商品を直輸入しており、特にワインは取扱商品の95%以上が自社輸入という徹底ぶりです。商社や中間業者を通さないため、中間マージンを削減してコストを抑えつつ、品質の高い商品を手頃な価格で提供することが可能になっています。

品質管理へのこだわりも際立っています。ワインの輸送には温度管理が可能なリーファーコンテナを使用し、現地のワイナリーから日本の店舗まで一貫した定温輸送を実現しています。2012年に稼働を開始した「関東物流センター」(神奈川県寒川町)は、食品スーパーが自社で運営するものとしては異例の高水準の品質管理体制を誇ります。

成城石井のバイヤーたちは、ドイツ・ケルンで開催される世界最大の菓子展示会「ISMケルン国際菓子専門見本市」をはじめとする海外展示会にも積極的に参加し、新商品の発掘に努めています。「ナポリタンチョコレート」など、海外展示会で見つけた逸品を日本に紹介した実績もあり、「ここでしか買えない」商品の品揃えが顧客の強い支持を集めています。円安で輸入コストが上昇するなかでも、直接取引による価格競争力と独自の商品セレクトによって、付加価値の高い買い物体験を維持しているのです。

ドウシシャ:メーカー機能と商社機能の二刀流

ドウシシャは、独自の商品開発力と海外調達ネットワークを組み合わせた、ユニークなビジネスモデルで知られています。同社のビジネスは大きく二つの柱から成り立っています。一つは、自社で商品を企画・開発・製造する「開発型ビジネスモデル(メーカー機能)」。もう一つは、国内外の有名ブランド商品をより安く安定的に調達・販売する「卸売型ビジネスモデル(商社機能)」です。

開発型ビジネスでは、ふくらはぎケア家電「ゴリラのひとつかみ」シリーズや、こびりつきにくいフライパンブランド「evercook(エバークック)」など、ニッチ市場をターゲットにした独自商品を多数展開しています。これらの商品は海外の製造拠点で生産されるケースも多く、為替変動の影響を受けやすいものの、ドウシシャならではの企画力と品質管理によって高い付加価値を実現しています。

一方、卸売型ビジネスでは、世界各国の食品やワイン、ブランド商品を独自の仕入れネットワークで調達しています。食品・酒類事業部では、「世界の美味しい、クセになる食品・お菓子」をコンセプトに、海外から直接調達した商品を全国の小売店に卸しています。

2026年3月期の中間期決算では、売上高589億円(前年同期比8.2%増)と過去最高を更新し、円安や原材料高が進むなかでも、開発型ビジネスモデルを中心に新商品の拡販と利益率の改善が進んでいます。連結経常利益の予想も111億円に上方修正され、中期経営計画の目標を前倒しで達成する勢いです。

円安時代の輸入戦略――注意点と今後の展望

構造的な課題は残る

円安による輸入コスト上昇は、小売業界全体にとって依然として大きなリスクです。PPIHも有価証券報告書のなかで、為替変動が仕入れ価格に直接影響することを認めており、必要に応じて為替予約によるリスクヘッジを実施しています。加えて、米国の関税政策や各国の政治情勢の変化が、輸出入コストをさらに押し上げる可能性も指摘されています。

「安さ」から「面白さ」への転換

注目すべきは、各社の戦略が単なるコスト削減ではなく、「ここでしか買えない体験」の提供へとシフトしていることです。ドンキのワールドセレクト課は「何これ」という驚きを、成城石井は「世界で見つけた本物の味」を、ドウシシャは「ニッチだけど便利」を、それぞれの強みとして打ち出しています。円安を単なるコスト増要因として受け止めるのではなく、参入障壁として競合との差別化に利用する発想が、今後ますます重要になるでしょう。

2026年の食品値上げ品目数は前年比で大幅に減少する見通しであり、値上げラッシュは一段落しつつあります。しかし、為替環境が急激に円高に振れる見通しは立っておらず、独自の調達ルートを持つ企業と持たない企業との間で、商品力と価格競争力の格差がさらに広がっていく可能性があります。

まとめ

円安という逆風のなかで、PPIHは「ワールドセレクト課」を新設し、SNSでのトレンド発見から現地メーカーとの直接交渉までを一気通貫で行う新しい輸入モデルを構築しました。「剥けるバナナパン」のヒットは、その戦略が消費者の心を掴んだことを示しています。一方、成城石井は長年の直輸入体制とバイヤーの目利き力で、ドウシシャはメーカー機能と商社機能の融合で、それぞれ独自のポジションを確立しています。共通するのは、「中間業者を介さない直接調達」と「独自の商品セレクト力」です。円安時代を勝ち抜くカギは、単にコストを抑えることではなく、消費者に「わざわざ足を運びたい」と思わせる商品を、いかに世界中から見つけ出せるかにかかっています。

参考資料

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