休眠電力小売り事業者の登録抹消へ、経産省が法改正を検討
はじめに
経済産業省は、休眠状態の電力小売事業者の登録を取り消せるようにする方針です。電力小売り自由化後に急増した新電力(新規参入の電力小売事業者)は700〜800社程度ありますが、約3分の1は活動実態がありません。
現行の電気事業法では、明確な違法行為がなければ登録を取り消すことができません。休眠事業者の法人格が犯罪に悪用されるリスクや、監督業務の非効率を解消するため、法改正が検討されています。
法改正の背景
休眠事業者の増加
2016年の電力小売り全面自由化以降、一般家庭や小規模事業者向けの電力販売に多くの企業が参入しました。登録事業者数はピーク時で700〜800社に達しましたが、その後は倒産・撤退が相次いでいます。
2024年2月末時点で723社が登録されていますが、このうち約3分の1は事業を行っていない「休眠」状態とされています。
現行制度の問題点
電力を一般家庭などに販売するには、電気事業法に基づき経済産業省への事業者登録が必要です。しかし、現行法では明確な違法行為がない限り、登録を取り消すことができません。
そのため、実際には事業を行っていない休眠事業者の登録が残り続け、法人格が犯罪などに悪用されるリスクが指摘されていました。
行政効率化の必要性
休眠事業者であっても、経産省は登録事業者として監督業務を行う必要があります。実態のない事業者への対応が事務負担となっており、行政の効率化の観点からも制度改正が求められていました。
新電力の現状
倒産・撤退の増加
電力小売り自由化後、新電力の参入が相次ぎましたが、2022年以降は電力市場価格の高騰などにより経営が悪化する事業者が増えています。
2024年3月時点で、新電力706社のうち32社が倒産・廃業、87社が撤退、69社が契約停止という状況にあります。
小売電気事業者の推移
自由化以降、事業承継は累計152件、事業廃止や法人解散は106件に上ります。新規参入の勢いが落ち着く一方で、市場からの退出も進んでいます。
残る事業者の課題
事業を継続している新電力も、大手電力会社との競争や電力調達コストの変動など、経営上の課題を抱えています。安定した事業運営ができる事業者の選別が進んでいます。
法改正の内容
登録取消の要件
経産省が検討している法改正では、一定期間事業活動が確認できない事業者の登録を取り消せるようになる見込みです。具体的な要件(休眠期間や確認方法など)は今後詰められます。
悪用防止
休眠法人が詐欺などの犯罪に利用されるケースが社会問題となっています。電力小売事業者の登録を持つ法人が悪用されるリスクを低減することも、法改正の目的の一つです。
施行時期
経産省は年内の法改正を目指しています。国会での審議を経て、早ければ2026年度中にも新制度が施行される可能性があります。
電力システム改革の経緯
自由化の3段階
日本の電力システム改革は、2013年の「電力システム改革に関する改革方針」に基づき、3段階で進められてきました。
- 広域系統運用の拡大
- 小売および発電の全面自由化(2016年)
- 送配電部門の法的分離(2020年)
自由化の効果と課題
電力小売りの全面自由化により、消費者は電力会社を選べるようになりました。新電力の参入で競争が促進され、電気料金の低下や新サービスの登場といった効果がありました。
一方で、事業者の乱立による品質のばらつきや、撤退・倒産による消費者への影響など、課題も顕在化しています。
消費者への影響
契約先の選択
休眠事業者の登録抹消は、消費者が契約先を選ぶ際の安心感につながります。登録事業者数が適正化されることで、実際に事業を行っている事業者を見分けやすくなります。
既存契約への影響
現在、休眠事業者と契約している消費者がいる場合、契約の扱いについては経過措置などが設けられる可能性があります。詳細は法改正の際に明らかになる見込みです。
まとめ
経済産業省は、休眠状態の電力小売事業者の登録を取り消せるよう法改正を検討しています。電力自由化後に急増した新電力の約3分の1は活動実態がなく、犯罪防止と行政効率化の観点から制度の見直しが必要とされていました。
年内の法改正を目指しており、実現すれば電力市場の健全化と消費者保護の強化につながることが期待されます。
参考資料:
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