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by nicoxz

eメタン2030年義務化迫る、ガス大手が調達網を急構築

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はじめに

都市ガス業界が大きな転換期を迎えています。日本政府は2030年度から、大手都市ガス事業者に対して合成メタン(eメタン)またはバイオガスの導管注入を義務付ける方針を打ち出しました。供給量全体の1%をカーボンニュートラルなガスに切り替えるという目標は、数字としては小さく見えるかもしれません。しかし、eメタンの製造コストは現在LNG(液化天然ガス)の約5倍とされ、大規模な商用プロジェクトはまだ世界的にも実現例がほとんどありません。義務化の期限まであと4年を切る中、東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの3社は、海外での製造・輸入プロジェクトの確保に奔走しています。

本記事では、eメタンとは何か、なぜ義務化が進められているのか、そして各社の調達戦略と直面する課題について、最新の動向を踏まえて解説します。

eメタンとは何か ── メタネーション技術の基本

合成メタンの仕組み

eメタン(e-methane)とは、再生可能エネルギー由来の水素と二酸化炭素(CO2)を化学反応させて製造する合成メタンのことです。この製造プロセスは「メタネーション」と呼ばれ、具体的にはサバティエ反応(CO2 + 4H2 → CH4 + 2H2O)を利用します。

メタネーションの最大の特長は、製造されたメタンが天然ガスと同じ成分であるため、既存の都市ガスインフラ(パイプライン、ガス器具など)をそのまま活用できる点にあります。水素エネルギーの場合は専用のインフラ整備が必要になりますが、eメタンであれば既存の膨大なガスインフラを無駄にすることなく脱炭素化を進められるのです。

なぜ「e」メタンなのか

「e」は「electrolysis(電気分解)」に由来します。再生可能エネルギーの電力で水を電気分解してグリーン水素を製造し、そのグリーン水素を原料とした合成メタンであることを示しています。原料となる水素が化石燃料由来ではなく、非化石エネルギー源から製造されていることが、eメタンの環境価値の根幹です。

2030年義務化の全体像 ── 政策と制度設計

エネルギー供給構造高度化法による規制

日本政府は、都市ガスのカーボンニュートラル化に向けた制度設計を段階的に進めてきました。資源エネルギー庁が示した方針では、2030年度において供給量の1%相当の合成メタンまたはバイオガスを導管に注入し、その他の手段と合わせてガス全体の5%をカーボンニュートラル化することが目標として掲げられています。

この導入目標は、エネルギー供給構造高度化法の判断基準に位置付けられており、義務の対象となるのは供給量が900億メガジュール以上の事業者、すなわち東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの3社です。目標を著しく下回る場合には、経済産業大臣から必要な措置をとるべき旨の勧告が行われる可能性があります。

コスト負担の仕組み

eメタンの調達コストは通常のLNG調達コストを大幅に上回るため、その差額をどう負担するかが大きな論点となっています。政府は、ガスの一般的な調達費よりも割高になる部分について、託送料金原価に含めることができる仕組みを構築する方針です。つまり、eメタンの追加コストは最終的にガス利用者全体で広く薄く負担する形が想定されています。

2050年への道筋

2030年の1%導入はあくまで第一歩です。日本ガス協会は2020年に「カーボンニュートラルチャレンジ2050」を宣言し、2050年までに都市ガスの90%をeメタンに置き換えるという野心的な長期目標を掲げています。2025年6月には「ガスビジョン2050」と「アクションプラン2030」を策定し、業界全体の方向性を明確にしました。

海外調達の最前線 ── 各社のプロジェクト動向

米国ネブラスカ州「Live Oakプロジェクト」

現在最も注目されているのが、米国ネブラスカ州で計画されている「Live Oakプロジェクト」です。大阪ガス、東邦ガス、伊藤忠商事の日本企業3社が、フランスのトタルエナジーズ(TotalEnergies)とベルギーのツリー・エナジー・ソリューションズ(TES)と共同で基本設計(FEED)の実施に向けた共同開発契約を締結しました。

このプロジェクトでは、約250メガワット(MW)の水電解能力を備え、年間7万5,000トンのeメタンを生産する計画です。ネブラスカ州の工場から回収するバイオマス由来のCO2と、再生可能エネルギーから生成するグリーン水素を原料として使用します。持分比率は、トタルエナジーズとTESがそれぞれ33.35%、日本企業3社が合計33.3%です。2027年に最終投資意思決定(FID)を行い、2030年をめどに商業化する計画となっています。

また、脱炭素を推進する米国のインフレ抑制法(IRA)の適用も想定しており、これによる税額控除を活用して事業採算性の確保を目指しています。

米国ルイジアナ州「キャメロンLNGプロジェクト」

三菱商事、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、センプラ・インフラストラクチャー社は、ルイジアナ州のキャメロンLNG基地を活用したeメタンの製造・日本輸出プロジェクトを検討してきました。年間13万トンのeメタンを製造し、既存のLNG液化設備を利用して日本に輸出する構想です。2029年の生産開始を目指していましたが、米国でのインフレによる建設コスト上昇が、このプロジェクトを含む複数の計画に影響を与えていると報じられています。

豪州ムーンバプロジェクト

東京ガスは豪州のエネルギー大手サントス(Santos)と協力し、豪州中東部クーパーベイスンのムーンバにおけるeメタン製造・輸出プロジェクトの詳細検討(Pre-FEED)を進めています。2024年8月には、サントス子会社のSantos Ventures、大阪ガス子会社のOsaka Gas Australia、東邦ガス、東京ガスの4社で覚書を締結しました。2030年以降に年間約13万トン(都市ガス約1億8,000万立方メートル分)以上のeメタンを製造し、GLNGまたはダーウィンLNGターミナルから日本に輸出することを目指しています。

カナダおよびその他の調達先

東京ガスは2025年12月、カナダでのeメタン事業開発に関する合意書を締結し、2030年度までに年間約3万トンのeメタンを製造して日本向けに輸出する計画を発表しました。さらに、大阪ガスは米エネルギー会社アルケア・エナジー(Archaea Energy)からバイオメタンを調達する契約を結び、2026年1月に関西のLNG基地で受け入れを開始するなど、eメタンだけでなくバイオメタンも含めた多角的な調達戦略を展開しています。

インフレと調達コスト ── 立ちはだかる壁

LNGの5倍のコスト

eメタンの普及に向けた最大の障壁はコストです。現時点でeメタンの製造コストは1ノルマル立方メートルあたり約250円と試算されており、これはLNGの約5倍に相当します。政府は2030年までにCIF価格(運賃・保険料込み価格)で約120円/ノルマル立方メートルまで引き下げる目標を掲げ、2050年には革新的メタネーション技術の実用化により約50円/ノルマル立方メートルを目指していますが、達成には大きな技術的・経済的ハードルが残ります。

米国インフレの影響

コスト削減に向けて海外での大規模製造を計画してきたガス大手各社にとって、想定外の逆風となったのが米国のインフレです。建設資材や人件費の高騰により、当初見込んでいた事業費が膨らみ、複数のプロジェクトで計画の見直しを余儀なくされています。

特に再生可能エネルギー関連の設備投資は、サプライチェーンの混乱やインフレの影響を大きく受けやすく、水電解装置やメタネーション設備の建設コストが上昇しています。このため、ガス各社は一つのプロジェクトに依存するのではなく、米国、豪州、カナダなど複数の調達先を並行して開拓するリスク分散戦略を採っています。

エネルギー効率の課題

コスト以外にも、エネルギー効率の問題が指摘されています。メタネーションでは、まず電気分解で水素を製造し、次にその水素とCO2を反応させてメタンを合成するという二段階のプロセスを経るため、エネルギー変換のロスが避けられません。合成されたメタンのエネルギーは原料となる水素の約78%に過ぎず、これが理論的な上限です。再生可能エネルギーから直接電力として利用する場合と比較すると、全体のエネルギー効率は大幅に低下することになります。

国内実証の進展と今後の展望

新潟・長岡の世界最大級実証設備

海外調達と並行して、国内でのメタネーション技術の実証も着々と進んでいます。INPEXと大阪ガスは、新潟県長岡市のINPEX長岡鉱場越路原プラントにおいて、世界最大級となる400ノルマル立方メートル-CO2/時の規模のメタネーション試験設備を建設しています。これは家庭用約1万戸分の都市ガス使用量に相当する規模です。2023年から建設が進められ、2025年度中の試運転・運転開始を目指しています。製造したeメタンは実際にINPEXの都市ガスパイプラインに注入し、需要家に届ける予定です。

設備規模の拡大が不可欠

商用化に向けた課題として、設備規模の拡大があります。メタネーションを商用レベルで実施するには、1万〜6万ノルマル立方メートル/時の製造能力が必要とされていますが、現時点で世界最大級の装置でも500ノルマル立方メートル/時にとどまっています。実証段階から商用段階へのスケールアップには、技術開発とともに巨額の投資が必要です。

義務化への対応シナリオ

2030年度の1%導入義務を達成するためには、海外からの輸入と国内製造の両方を組み合わせる必要があります。現在進行中の主要プロジェクトがすべて予定通りに進んだ場合でも、目標達成はぎりぎりのタイミングとなる見込みです。インフレや地政学的リスクなどの不確実性を考慮すると、バイオメタンの活用も含めた柔軟な対応が求められるでしょう。

まとめ

2030年度のeメタン導入義務化は、日本の都市ガス業界にとって前例のない挑戦です。東京ガス、大阪ガス、東邦ガスの3社は、米国のLive Oakプロジェクトやキャメロンプロジェクト、豪州のムーンバプロジェクト、カナダでの事業開発など、世界各地で調達ルートの構築を進めています。

しかし、eメタンの製造コストはLNGの約5倍と依然として高く、米国のインフレによる建設コスト上昇が複数のプロジェクトに影響を及ぼしています。国内でもINPEXと大阪ガスによる新潟・長岡での世界最大級の実証事業が進行中ですが、商用規模への到達にはまだ距離があります。

1%という数字は小さく見えますが、これを確実に達成し、さらに2050年の90%置き換えへの道筋をつけるためには、技術開発の加速、コスト低減、そして国際的なサプライチェーンの安定的な構築が不可欠です。都市ガスという日常生活に密着したエネルギーの脱炭素化がどのように進むのか、今後の動向から目が離せません。

参考資料

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