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by nicoxz

牛丼大手が米の自前調達を強化、供給網改革の全貌

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はじめに

2024年から2025年にかけて日本を襲った「令和の米騒動」は、外食産業に大きな衝撃を与えました。猛暑による不作やインバウンド需要の急増を背景に、コメの価格は2年間でほぼ倍に高騰しました。主食であるコメを大量に消費する牛丼チェーンにとって、安定調達は経営の根幹にかかわる問題です。

この教訓を受けて、牛丼大手各社がコメのサプライチェーン強化に本格的に乗り出しています。「すき家」を展開するゼンショーホールディングス(HD)は精米工場の大幅な能力増強に動き、「松屋」の松屋フーズHDは食品廃棄物を活用した堆肥で契約農家との連携を深めています。本記事では、各社の具体的な取り組みと、その背景にある構造的な課題を解説します。

ゼンショーHDの精米工場新設と能力増強計画

福島県白河市に新工場を建設

ゼンショーHDの子会社であるゼンショーライスは、福島県白河市に新たな精米工場を建設しています。建設地は旧白河南部中学校の跡地で、敷地面積は約1万3,200平方メートルです。2024年8月に白河市と工場立地に関する基本協定を締結し、2026年9月の操業開始を目指しています。

新工場は精米機能だけでなく倉庫機能も兼ね備え、2棟合わせて延べ約7,000平方メートルの規模となる計画です。AI(人工知能)を活用した最新技術を導入し、従来は手作業で行っていた精米工程の一部を自動化します。約30人の新規雇用も計画されており、地域経済への貢献も期待されています。

国産米100%へのこだわり

ゼンショーグループは、すき家をはじめとするグループ全体で年間1万トン以上のコメを取り扱っています。注目すべきは、コメ不足が深刻化する中でもすき家が「国産米100%」を堅持している点です。松屋や吉野家が外国産米とのブレンドに踏み切る中、すき家は自社精米体制の強化によって国産米の安定供給を実現しようとしています。

ゼンショーライスは、産地から直接玄米を仕入れ、自社工場で精米し、各店舗に配送するまでの一貫体制を構築しています。品質検査室では精米品質の検査や食味・香りのテストを実施し、「精米HACCP」認定も取得しています。新工場の稼働により、精米能力は従来の数倍に拡大する見通しで、需給のひっ迫時にも安定した供給が可能になります。

自社精米の戦略的意義

外食チェーンが精米工程まで自社で手がけることには、大きな戦略的意義があります。まず、産地から玄米を直接調達することで中間マージンを削減できます。さらに、精米のタイミングや精度を自社でコントロールすることで、鮮度や品質を一定に保つことが可能です。

コメ流通のボトルネックは精米工程にあるとも指摘されており、自社に精米能力を持つことは需給逼迫時の大きなアドバンテージとなります。ゼンショーHDが掲げる「MMD(マス・マーチャンダイジング・システム)」戦略は、原材料の調達から店舗への供給までを一貫管理する構想であり、精米工場の増強はその中核をなす施策です。

松屋フーズHDの循環型農業と自社稲作への挑戦

食品廃棄物を堆肥化するリサイクルループ

松屋フーズHDは、独自の食品リサイクルループを構築しています。関東地方の約600店舗から排出される食品廃棄物を自社トラックで回収し、静岡県富士宮市にある自社堆肥場で処理しています。電気やガスなどの化石燃料を使わず、好気性微生物の働きによって40日から60日かけて自然発酵させる方式です。

この堆肥を契約農家に割安で提供することで、農家の生産コスト削減を支援しながら、安定的なコメの調達先を確保するという循環型の仕組みを目指しています。松屋フーズHDのグループ全体での食品リサイクル実施率は80%を超える水準に達しており、環境負荷の低減と調達安定化を同時に実現する取り組みとして注目されています。

さらに松屋フーズHDは、キャベツの芯や外葉、豆腐のおからなどの食品廃棄物を牛の肥育に使う実証実験も富士宮市で行っており、エコフィードを活用した畜産との連携も進めています。

革新的農法「節水型乾田直播栽培」への参入

松屋フーズHDは、農業スタートアップのNEWGREENおよび芙蓉総合リースと連携し、「節水型乾田直播栽培」と呼ばれる革新的な農法によるコメの自社生産にも乗り出しています。これは、従来の水田に水を張る方法とは異なり、乾いた田に直接種をまいて育てる栽培方式です。

2025年には千葉県木更津市の約2ヘクタールの農地で共同実証実験を開始しました。収穫量は8トンから10トン、牛めし換算で約7万2,000食分を見込んでいます。品質と収量が基準を満たせば、2026年の収穫分から実際の店舗メニューに使用する計画です。

将来的には、2026年に12ヘクタールから自社稲作を本格始動し、2031年には100ヘクタールまで拡大する目標を掲げています。100ヘクタール達成時の推定収量は540トン、約400万食分に相当します。仕入れコストは現在の約半分にまで削減できる見通しで、価格変動リスクの大幅な低減が期待されています。

外国産米ブレンドという現実的対応

松屋フーズHDは中長期的な自社生産体制の構築と並行して、短期的な対応として外国産米の活用も進めています。2024年5月から、松屋を含む9ブランドの一部店舗(約1,100店舗)で、米国産「カルローズ」と国産米のブレンド米を導入しました。国産米の高騰と供給不足に対する現実的な措置であり、品質を維持しながら安定供給を実現するための選択です。

注意点と今後の展望

構造的な課題は解消されていない

「令和の米騒動」の背景には、単なる天候不順だけでなく、日本の農業が抱える構造的な問題があります。農家の高齢化と担い手不足は深刻化しており、作付面積の減少傾向に歯止めがかかっていません。インバウンド需要の増加も恒常的な要因として定着しつつあります。

2025年産米の生産量が回復したことで一時的にコメ余りの兆候も見られますが、長期的には需給のバランスは不安定なままです。外食チェーンの自前調達の動きは、こうした構造的リスクへの備えとして合理的な戦略といえます。

各社の戦略には温度差も

吉野家HDは以前から米国産を中心とした輸入米を国産米とブレンドして使用しており、全国各地から10種類前後の銘柄を調達して年間100種類以上のブレンドを配合する独自の方式を採用しています。すき家の国産米100%路線、松屋の自社生産への挑戦、吉野家のブレンド戦略と、各社のアプローチは異なりますが、いずれも安定調達という同じ課題に向き合った結果です。

今後は、こうした外食大手の動きが農業の担い手確保や耕作放棄地の活用にもつながるかどうかが注目されます。

まとめ

2025年の米不足を教訓に、牛丼大手各社はコメのサプライチェーン改革を加速させています。ゼンショーHDは福島県白河市に新精米工場を建設し、AI技術を導入して精米能力を大幅に引き上げます。松屋フーズHDは食品廃棄物の堆肥化による循環型農業と、節水型乾田直播栽培による自社稲作という二つの柱でコメの安定調達を目指しています。

外食産業が川上の農業分野にまで踏み込む動きは、日本の食料安全保障の観点からも重要な意味を持ちます。コメという主食の安定供給を単に市場任せにせず、自ら生産・加工の体制を整える企業の姿勢は、今後の食品産業のモデルケースとなる可能性があります。

参考資料:

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