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by nicoxz

北海道で広がる「住民割」二重価格の実態と観光地の新戦略

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はじめに

国内屈指の観光地・北海道で「二重価格」の導入が加速しています。札幌市のシンボルであるさっぽろテレビ塔は展望台の入場料を値上げする一方で、市民向け料金を引き下げました。リフト券の値上がりが続くスキー場では「道民割」が定着し、地元住民を優遇する動きが広がっています。

注目すべきは、これらの料金設定が「外国人と日本人」という国籍による区分ではなく、「住民か否か」という居住地に基づく区分を採用している点です。2026年2月11日に閉幕したさっぽろ雪まつりは約253万人が来場し、過去5番目の記録を更新しました。インバウンド需要の高まりを背景に、北海道の観光地はどのような料金戦略を打ち出しているのでしょうか。

北海道で進む「住民割引型」二重価格の実態

さっぽろテレビ塔の料金改定

さっぽろテレビ塔は2025年12月に展望台入場料金の改定を発表しました。一般来場者向けの料金を値上げする一方で、札幌市民向けには引き下げるという、住民優遇型の価格設定を導入しました。

もともとテレビ塔には、札幌市民で70歳以上の方への半額割引や、誕生日前後3日間の無料入場といった市民向けサービスが存在していました。今回の改定では、こうした住民優遇の考え方をさらに拡大した形です。

大通公園を見下ろす地上90.38mの展望台は札幌を代表する観光スポットですが、インバウンドの急増に伴い混雑が深刻化していました。料金改定には、混雑緩和と地元住民の利便性確保という二つの目的があります。

スキー場で定着する「道民割」

北海道のスキー場では、燃料費や人件費の高騰を背景にリフト券の値上げが続いています。全国的に見ても、2025-26シーズンのリフト1日券の平均値上がり率は約7.1%に達しました。

特に顕著なのが大型リゾートの価格上昇です。ルスツリゾートの2025-26シーズンのリフト1日券は16,200円にまで達し、直近3年で2倍以上に跳ね上がりました。ニセコエリアでも1万円を超える価格帯が一般的になり、白馬など本州の人気スキー場でも同様の傾向が見られます。

こうした中、多くのスキー場が「道民割」を導入しています。北海道在住であることを証明すれば割引価格で購入でき、地元客の離反を防ぐ狙いがあります。ニセコのHANAZONOリゾートやキロロリゾートなどが道民限定の割引プランを提供し、地域住民がスキーを楽しめる環境を維持しようとしています。

その他の施設にも広がる動き

札幌市豊平区の大和ハウスプレミストドームで開催された「DOME Snow Zone」では、道民、日本人、外国人の3段階で料金を設定する事例も登場しました。道民は中学生以上が1,000円なのに対し、日本人および外国人の来場者は2,000円という価格体系です。

北海道観光機構も会員の宿泊施設に対して「道民割引」の導入を呼びかけており、組織的な取り組みとして広がりを見せています。

なぜ「国籍」ではなく「居住地」なのか

差別批判を回避する仕組み

二重価格の議論で最も敏感なのが「差別ではないか」という批判です。北海道で主流となっている「住民割引型」は、この問題を巧みに回避しています。

国籍で価格を分ければ、人種差別として批判を受けるリスクがあります。しかし「居住地」で分ける場合、その根拠は明確です。地元住民は自治体に税金を納めており、観光インフラの維持に貢献しています。その見返りとして割引を受けるのは合理的な仕組みといえます。

観光業の専門家は「まず全体の料金を設定した上で、地元住民には割引を適用するという形にすべき」と提言しています。「外国人料金を上乗せする」のではなく「住民を割引する」という発想の転換が、受け入れられやすい料金設定のポイントです。

海外の二重価格事例との比較

二重価格は海外の観光地では珍しくありません。タイのバンコクにある有名寺院では、タイ人は無料または数十バーツで入場できるのに対し、外国人には300〜500バーツを請求するケースが一般的です。ベネチアやブータンでも観光客に対する追加料金の仕組みが導入されています。

日本国内でも姫路市が姫路城の入城料について、市民以外は2,500円に値上げする二重価格を2026年3月に導入する予定です。沖縄のテーマパーク「ジャングリア沖縄」では、国内在住者6,930円に対し非在住者8,800円という料金設定を導入しました。

こうした事例を見ると、北海道の「住民割引型」は、海外のような国籍ベースの二重価格と、一律料金の中間に位置する日本独自のアプローチといえます。

背景にあるオーバーツーリズムとコスト増

雪まつりに見る観光需要の急増

2026年のさっぽろ雪まつりは、8日間の会期中に延べ253万9,000人が来場し、2019年以来7年ぶりに250万人を突破しました。過去5番目に多い来場者数で、欧米をはじめとする海外からの旅行者が大幅に増加したことが要因です。

こうした観光需要の急増は、地域経済に恩恵をもたらす一方で、交通渋滞や混雑、物価上昇など地元住民の生活への影響も生んでいます。「住民割」は、観光収入と住民生活のバランスを取るための現実的な解決策として位置づけられています。

燃料費・人件費の高騰

スキー場の値上げの直接的な原因は、リフトや人工降雪機を稼働させるための燃料費と人件費の高騰です。特に北海道の冬季は暖房・除雪のコストも加わり、運営費の増大は避けられません。

大型スキー場ではリフト1日券8,000円前後が標準的な価格帯となりつつあり、ルスツやニセコといった世界的に知られるリゾートでは、国際的な価格水準に近づいています。海外の同規模スキーリゾートと比較すれば、まだ割安ともいえますが、日本の消費者にとっては大きな負担増です。

注意点・展望

運用面の課題

住民割引の運用には課題もあります。居住地の確認方法が統一されておらず、免許証や住民票の提示が必要な施設もあれば、自己申告で済む場合もあります。確認の手間が増えれば、チケット販売の効率が低下する恐れがあります。

また「住民」の定義も施設によって異なります。「札幌市民」なのか「北海道民」なのか「日本在住者」なのかで、恩恵を受けられる範囲が変わってきます。今後は、より透明性の高い基準づくりが求められるでしょう。

二重価格は定着するか

国内での二重価格導入は今後も広がる可能性があります。姫路城のケースが成功すれば、他の観光名所が追随する動きも考えられます。ただし、料金差が大きすぎると「不公平」という批判を招きかねません。

重要なのは「なぜ価格差があるのか」を明確に説明し、納得感のある仕組みを作ることです。税金による施設維持への貢献や、混雑緩和といった合理的な理由を示せるかどうかが、二重価格の定着を左右するでしょう。

まとめ

北海道で広がる「住民割引型」の二重価格は、インバウンド需要の急増と運営コストの高騰という現実に対応するための新しい料金戦略です。国籍ではなく居住地で価格を分けることで、差別批判を回避しつつ地元住民の利便性を守るという、日本的なバランス感覚が表れています。

さっぽろ雪まつりの来場者が250万人を超え、スキー場のリフト券が1万円を超える時代に、観光と地域生活の共存は避けて通れないテーマです。今後の動向を注視しつつ、旅行先の料金体系を事前に確認しておくことをおすすめします。

参考資料:

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