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by nicoxz

ホルムズ海峡封鎖で原油急騰、世界経済への波及を読み解く

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はじめに

2026年2月28日、米国とイスラエルがイランに対して大規模な軍事攻撃を開始しました。これを受け、イラン革命防衛隊(IRGC)は3月2日、ペルシャ湾とアラビア海を結ぶ世界最重要のエネルギー輸送路であるホルムズ海峡の封鎖を宣言しました。世界の海上石油貿易の約4分の1が通過するこの海峡が事実上閉ざされたことで、原油価格は急騰し、世界経済に深刻な打撃を与える恐れが出ています。ブレント原油先物は3月3日時点で1バレル82ドルを突破し、アナリストの間では封鎖が長期化すれば100ドル超えも避けられないとの見方が広がっています。本記事では、今回の危機の経緯と原油市場への影響、そして日本を含む世界経済に及ぶリスクを多角的に解説します。

ホルムズ海峡危機の経緯と現状

米国・イスラエルによるイラン攻撃の背景

2026年2月28日、米国とイスラエルは「エピック・フューリー作戦」「ユダの盾作戦」のコードネームで知られる大規模なイラン攻撃を開始しました。この作戦では首都テヘランを含むイラン国内の複数の軍事拠点や核関連施設が標的となり、イランの最高指導者ハメネイ師が死亡したとの報道も出ています。攻撃の直接的な引き金は、イランの核開発プログラムの進展と、中東地域における代理勢力を通じた軍事活動の激化にあるとされています。

この軍事行動に対し、イランは即座にイスラエル領土と湾岸諸国に駐留する米軍基地へのミサイルおよびドローン攻撃で応戦しました。さらに、革命防衛隊は経済的な報復手段としてホルムズ海峡の封鎖に踏み切るという、長年警告してきた「切り札」を実行に移しました。

海峡封鎖の実態

3月2日、IRGCの幹部はホルムズ海峡の封鎖を公式に宣言し、通過を試みる船舶に対して「革命防衛隊と海軍の英雄たちが火を放つ」と警告しました。これに先立つ2月28日の時点で、既にIRGCは船舶向け無線(VHF)を通じて全船舶の通過禁止を放送していました。

実際の影響は即座に表れました。タンカーの交通量はまず約70%減少し、150隻以上の原油タンカーおよびLNGタンカーが海峡外に停泊を余儀なくされました。その後、保険会社が海峡通過を試みる船舶への補償を打ち切ったことで、交通量はほぼゼロにまで落ち込みました。日本の大手海運3社(日本郵船、商船三井、川崎汽船)も通峡を全面的に停止しています。これは近代史上初めてホルムズ海峡の通行がほぼ完全に止まった事態であり、その影響の大きさは計り知れません。

原油価格への影響と市場の反応

価格急騰の推移

ホルムズ海峡は、2025年時点で日量約2,000万バレルの石油が通過する世界最大のエネルギー輸送路です。これは世界の石油消費量の約20%、海上石油輸送量の約31%に相当します。この要衝が閉ざされたことで、原油価格は急激な上昇を見せました。

イラン攻撃前日の2月27日に1バレル73ドルだったブレント原油先物は、3月1日には78ドルまで上昇し、3月2日の米国時間取引では清算値が77.74ドル(上昇率6.7%)を記録しました。WTI先物も71.23ドル(上昇率6.3%)と大幅に値を上げています。3月3日にはブレント先物が82ドルを突破し、3日連続の上昇となりました。これは4年ぶりの急騰ペースです。

アナリストの予測と100ドルシナリオ

市場関係者やアナリストの間では、封鎖が長期化した場合の原油価格予測が相次いで発表されています。ゴールドマン・サックスは、ホルムズ海峡が1か月間完全に閉鎖された場合、原油価格は10〜15ドル上昇すると試算しています。サウジアラビアやUAEがインド洋に接続するパイプラインをフル稼働させれば上昇幅は10ドル程度に抑えられるものの、そうした緩衝策がなければ15ドルの上昇もあり得るとしています。

さらに悲観的なシナリオとして、韓国のハナ証券は、海峡が完全封鎖されペルシャ湾岸の精製施設にも被害が及んだ場合、WTI価格が120ドルまで急騰する可能性を指摘しています。CNBCは、長期にわたる封鎖は「1970年代型のエネルギーショック」を引き起こしかねないと報じており、100ドル超えは楽観的なシナリオですらないとの見方を示しました。現在の70ドル台後半から100ドル台への移行は、3〜4週間の封鎖継続で現実味を帯びるとされています。

日本経済と世界へのリスク

日本の中東エネルギー依存という構造的脆弱性

国際研究機関ゼロ・カーボン・アナリティクスの分析によると、ホルムズ海峡の封鎖で最も大きな直接リスクを受ける国は日本です。日本は原油輸入の約94%を中東地域に依存しており、その大部分がホルムズ海峡を経由しています。

一方、液化天然ガス(LNG)についてはやや状況が異なります。日本のLNG輸入のうちホルムズ海峡を通過するカタール産・UAE産は総輸入量の約6%(約400万トン)にとどまり、主な調達先はオーストラリアやマレーシアなど海峡を経由しない地域です。ただし、日本には地下ガス貯蔵施設がなく、LNGターミナルの備蓄能力は約1か月分の消費量をカバーする程度であるため、封鎖が長期化した場合はガス不足が原油不足以上に切迫した問題となる可能性があります。

石油備蓄については、出光興産が「直接的な影響はない」と述べているように、日本は国内備蓄と国家備蓄を合わせて約146日分の石油備蓄を保有しています。しかしこれは短期的な緩衝材にすぎず、封鎖が数か月に及べば深刻なエネルギー供給不安に直面することは避けられません。

スタグフレーションの現実味

今回の危機で最も懸念されているのが、高インフレと景気後退が同時に進行する「スタグフレーション」のリスクです。ブルームバーグによると、複数のエコノミストが日本経済のスタグフレーション入りに警鐘を鳴らしています。

原油価格が100ドルを突破した場合、国内のガソリン価格は1リットルあたり20〜30円程度の押し上げ圧力を受けると試算されています。また、エネルギー価格の高騰は日本の消費者物価指数(CPI)を0.6〜0.7%程度引き上げると予測されています。輸入物価の上昇はインフレを加速させる一方、家計の実質所得を低下させて個人消費を冷え込ませるという二重の打撃を経済にもたらします。

米国経済にとっても状況は深刻です。個人消費に支えられた米経済は、原油価格が100ドル前後に上昇すれば大きな圧迫を受けます。ブルームバーグは「原油100ドルなら米株の押し目買いは危険であり、スタグフレーションを意識すべきだ」と警告しています。IBTimesは、ホルムズ海峡の封鎖は「世界的なリセッションを保証するもの」とまで指摘しており、インフレリスクの急激な上昇に世界中の政策立案者が神経を尖らせています。

注意点・展望

今後の展開は米国・イスラエルとイランの軍事衝突がどの程度長期化するかに大きく左右されます。外交的な解決の糸口が見つかり、海峡の安全が回復すれば原油価格は比較的早期に落ち着く可能性がありますが、現時点でそのシナリオは楽観的と言わざるを得ません。

注目すべきは中国の動きです。ブルームバーグによると、中国はLNGタンカーの航行を巡りイランに圧力をかけており、エネルギー供給の確保に向けた外交的な働きかけを強めています。中国はイランの最大の石油輸入国であり、その影響力は無視できません。

日本政府もホルムズ海峡における船舶の安全確保に向けた注意喚起を行うとともに、外交努力を継続する姿勢を示しています。しかし、集団的自衛権の行使に関しては「存立危機事態には該当しない」との立場を維持しており、軍事的な関与には慎重な姿勢を崩していません。

長期的には、日本を含む各国がホルムズ海峡を経由しないエネルギー調達先の多角化を加速させる契機となるでしょう。米国、オーストラリア、インドネシアなどからのLNG輸入拡大や、再生可能エネルギーへの転換がこれまで以上に重要性を増すと考えられます。

まとめ

米国・イスラエルのイラン攻撃に端を発したホルムズ海峡の封鎖は、世界のエネルギー供給に前例のない混乱をもたらしています。原油価格は既に82ドルを超え、封鎖が長期化すれば100ドル超えは避けられないとの見方が大勢です。中東からの原油輸入に9割以上を依存する日本は特に深刻なリスクにさらされており、スタグフレーションへの警戒が急速に高まっています。短期的には約146日分の石油備蓄が緩衝材となりますが、危機の長期化に備えたエネルギー供給の多角化と外交的解決の模索が急務です。今後数週間の情勢の推移が、世界経済の行方を大きく左右することになるでしょう。

参考資料:

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