イラン攻撃で市場混乱、ホルムズ海峡封鎖の影響は
はじめに
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランに対する軍事攻撃を実施し、金融市場に大きな衝撃が走りました。3月2日の日経平均株価は一時1500円を超える下落を記録し、原油先物価格は急騰しました。
エネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡が事実上の封鎖状態に陥り、日本の原油輸入の約9割が中東に依存する構造的なリスクが改めて浮き彫りになっています。
この記事では、イラン攻撃の経緯と金融市場への影響、そしてホルムズ海峡封鎖が日本経済に及ぼす影響について解説します。
米国・イスラエルによるイラン攻撃の経緯
攻撃の実施と目的
2026年2月28日、米国とイスラエルがイランの首都テヘランを含む複数の都市を空爆しました。攻撃は中部イスファハンや北西部タブリーズなど広範囲に及びました。翌3月1日にはイランの国営メディアが最高指導者ハメネイ師の死亡を伝え、中東情勢は一気に緊迫化しました。
トランプ大統領は攻撃当日にSNSに投稿した動画で、「イランは核の野心を放棄するあらゆる機会を拒絶した。容認できない」と攻撃を正当化しました。また、イラン国民に対して「自由のときは近い」と呼びかけ、体制転換を促す姿勢を見せました。
攻撃に至る背景
攻撃には複数の背景があります。2025年12月、イラン全土で経済危機や通貨リアルの暴落をきっかけとした反体制デモが勃発し、全国100以上の都市に拡大しました。トランプ大統領は2月27日の記者会見で、イランが「少なくとも3万2000人のデモ参加者を殺害した」と述べています。
2月に入ってからはオマーンの仲介で米イラン間の高官協議が3回行われました。イラン側は制裁解除と引き換えに高濃縮ウランの希釈などで歩み寄りを見せたとされますが、最終的に合意には至りませんでした。
金融市場への衝撃
日経平均、一時1500円超の下落
3月2日の東京株式市場は、イラン攻撃のニュースを受けてリスク回避の売りが先行しました。日経平均株価は朝方に一時1500円を超える下落となり、5万7000円台まで値を下げました。
特に原油高の逆風を受ける空運株や化学株が大きく売られました。銀行株も軟調な展開となり、幅広いセクターで売り圧力が強まりました。その後、原油に関する過度な不安が後退したことで下げ幅は縮小し、終値は前週末比793円安(1.35%安)の5万8057円で取引を終えました。
原油価格の急騰
原油先物価格は大幅に上昇しました。WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)先物は一時1バレル75ドル台をつけ、前週末比で12.4%の上昇となりました。2025年6月以来の高い水準です。北海ブレント価格もイラン攻撃前の73ドルから78ドルまで急騰しました。
為替市場では有事のリスク回避で円買い圧力が生じる一方、原油高による日本の貿易収支悪化を見込んだ円売りも出て、方向感の定まらない展開となりました。
ホルムズ海峡封鎖と日本経済への影響
事実上の封鎖状態
イランの革命防衛隊がホルムズ海峡付近の船舶に通過禁止を通告したことで、海峡を通過する船舶は2月28日夜時点で約7割減少しました。ホルムズ海峡は世界の海上石油輸送の約2割が通過する要衝であり、事実上の封鎖は世界のエネルギー供給に直接的な影響を与えます。
日本のエネルギー安全保障への脅威
日本は原油輸入の約9割を中東地域に依存しています。ホルムズ海峡の封鎖が長期化すれば、日本のエネルギー安全保障に深刻な影響が及びます。
日本国内には254日分の石油備蓄がありますが、海峡封鎖が長引く場合には備蓄の放出が検討される可能性があります。経済産業省は3月2日にイラン情勢を踏まえたエネルギー対策本部を設置し、対応策の検討を始めました。
原油価格高騰のシナリオ
野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、ホルムズ海峡封鎖が続く場合に原油価格がWTIで1バレル120ドルまで上昇するシナリオを提示しています。日本総合研究所は、さらに厳しい場合に140ドルまで急騰する可能性を指摘し、その場合には日本のGDPが3%程度下押しされるとの試算を示しています。
原油価格の上昇はガソリン価格や物流コストの上昇を通じて、消費者物価に直接的な影響を及ぼします。火力発電の燃料であるLNG(液化天然ガス)もホルムズ海峡経由で輸入されているため、電気・ガス料金が数カ月遅れで上昇する見通しです。
注意点・展望
短期的な市場の見通し
当面はホルムズ海峡の通航状況と原油価格の動向が市場のセンチメントを左右する展開が続きそうです。海峡封鎖が一時的なものにとどまれば、原油価格と株式市場は比較的早期に落ち着きを取り戻す可能性があります。一方、封鎖が長期化すれば、世界的なインフレ圧力の再燃や景気後退リスクが意識され、株式市場にさらなる下落圧力がかかることも想定されます。
イラン情勢の今後
ハメネイ師の死亡後、イランの政治体制がどのように推移するかが最大の不確定要因です。革命防衛隊の動向、後継指導部の方針、そして米国との交渉の行方によって、中東情勢は大きく変動する可能性があります。
過度な悲観に走ることなく、事態の推移を冷静に見極めることが重要です。日本市場は3月2日の取引でも後場にかけて下げ幅を縮小しており、パニック的な売りには歯止めがかかる兆しも見えています。
まとめ
米国とイスラエルによるイラン攻撃は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖という形で世界の金融市場とエネルギー供給に大きな衝撃を与えました。日経平均は一時1500円超の下落を記録し、原油先物は12%以上急騰しています。
日本経済にとっては、中東依存度の高いエネルギー供給構造のリスクが改めて顕在化しました。254日分の石油備蓄という安全網はあるものの、封鎖の長期化は物価上昇や景気後退につながりかねません。今後はホルムズ海峡の通航再開の時期と、イラン国内の政治情勢の行方が最大の焦点となります。
参考資料:
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