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by nicoxz

事業売却で株価急騰、日本企業の「選択と集中」最前線

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はじめに

日本の株式市場で、ある共通点を持つ企業に投資マネーが集中しています。その共通点とは「事業売却の巧みさ」です。非中核事業を思い切って手放し、成長分野に経営資源を集中させる企業の株価が急騰する現象が相次いでいます。

半導体材料大手のレゾナックは、石油化学事業の分離を進めた結果、わずか1年で株価が理論株価を超えました。機械部品大手のTHKは売上高の4割を占める自動車部品事業を売却すると発表し、株価が上場来高値を更新しています。

東証が「資本コストや株価を意識した経営」を要請してから3年。2026年は企業の本気度が問われる「最終年」とも言われ、事業ポートフォリオの入れ替えが一段と加速しています。本記事では、この動きの背景と代表的な事例を詳しく解説します。

レゾナック — 半導体材料への集中が生んだ株価上昇

石化事業の分離と「選択と集中」

レゾナック・ホールディングス(旧昭和電工)は、事業ポートフォリオの大胆な入れ替えを進めてきた企業の代表格です。2024年に石油化学事業のパーシャルスピンオフ(部分分離)の検討を開始し、半導体・電子材料事業への集中を鮮明にしました。

この戦略の背景には、事業特性の根本的な違いがあります。コモディティ化が進む石油化学事業と、AI需要で急成長する半導体材料事業では、成長率も利益率も大きく異なります。両事業を同じ企業の中に抱えたままでは、市場から適正な評価を受けにくいという問題がありました。

AI関連で年率30%成長の見通し

レゾナックの半導体・電子材料事業は、2025年12月期に連結売上収益が前期比12%増の4,990億円、コア営業利益では34%増の990億円を見込んでいます。特にAI関連の製品売上高は年率30%の成長が期待されています。

同社は2030年までに売上高全体の約半分を半導体材料事業が占めるポートフォリオを目指しています。この明確なビジョンが投資家の支持を集め、株価は1年で理論株価を超える水準にまで上昇しました。EPS(1株当たり利益)500円を達成すれば、PER20倍で理論株価は1万円に達するという計算です。

一方で、事業ポートフォリオの急速な入れ替えに伴い、工場の統廃合や減損損失、早期退職などの一過性コストが発生しています。2025年12月期の純利益は前期比60.5%減の290億円にとどまりましたが、これは将来の高収益体質を実現するための「産みの苦しみ」と市場は評価しています。

THK — 売上4割の事業を切り離す決断

自動車部品事業をファンドに売却

機械部品大手のTHKが2026年2月に発表した自動車部品事業の売却は、事業ポートフォリオ改革の象徴的な事例です。売却対象は、自動車のサスペンション用部品を手がけるTHKリズム(浜松市)など6社を傘下に持つTRAホールディングスと、カナダ・チェコ・ドイツ・米国の自動車関連子会社です。

この事業の売上収益は2024年12月期に1,361億円と、連結売上収益3,527億円の約4割を占めていました。しかし営業利益はわずか6億円にすぎず、産業機器事業の168億円と比較すると収益性の差は歴然でした。

ROE 3%から10%超へ

THKが売却を決断した最大の理由は、ROIC(投下資本利益率)の改善が困難だと判断したためです。自動車部品事業は売上規模こそ大きいものの、利益貢献はごくわずかで、資本効率を大きく押し下げていました。

売却により全体の売上高は約4割減少しますが、ROE(自己資本利益率)を現在の3%台から早期に10%超へ引き上げることを目指しています。この決断を市場は高く評価し、発表後にTHKの株価は上場来高値を更新しました。売却先は投資ファンドのアドバンテッジパートナーズで、株式譲渡は2026年6月1日を予定しています。

東証改革が生んだ「売却の達人」ブーム

PBR1倍割れへの「最後通牒」

この事業売却ブームの背景には、東京証券取引所による改革があります。2023年3月、東証はプライム市場とスタンダード市場の上場企業に対し、「資本コストや株価を意識した経営」を要請しました。特にPBR(株価純資産倍率)が1倍を割り込む企業には、改善策の開示を強く求めています。

2026年はこの要請から3年目にあたり、市場では「最後通牒」とも言える厳しい視線が注がれています。プライム上場企業の約8割以上がすでに何らかの改善策を開示していますが、いまだに「検討中」すら出していない企業が約200社存在しています。

2026年からは東証が改善策の具体的な内容をリスト化して公開するようになり、投資家は各社のPBR改善の取り組みを横並びで比較できるようになります。「見える化」の圧力がさらに強まる局面です。

日立に見る「売却で評価が上がる」法則

事業売却が株価上昇に直結する事例は他にも広がっています。日立製作所は2026年1月、データストレージ事業の売却検討が報じられると株価が前日比6%上昇しました。ストレージ事業が属する「ITプロダクト」部門のEBITA率は4.4%にとどまり、会社全体の12%を大きく下回っていたためです。

日立はすでに空調合弁企業の株式売却や日立建機株の一部売り出しなど、非中核事業からの撤退を着々と進めてきました。こうした一連の事業ポートフォリオ改革により、2026年3月期の上場企業全体の業績は5年連続で過去最高益を更新する見通しです。

注意点・展望

売却すればよいわけではない

事業売却が市場で好感されるケースが相次いでいますが、全ての売却が成功するわけではありません。重要なのは、売却後に残る事業がしっかりと成長の柱になることです。売却で得た資金を成長投資に振り向けられるか、売却後のポートフォリオで持続的な利益成長を実現できるかが問われます。

また、事業売却に伴う一時的な減損損失や売上高の減少が短期的には業績を圧迫する点にも注意が必要です。レゾナックのように構造改革コストで純利益が大幅に減少するケースもあり、投資家には中長期的な視点が求められます。

日経平均6万円への道筋

事業ポートフォリオの最適化が進むことで、日本企業全体の資本効率が向上し、日経平均株価の「年内6万円」も視野に入ってきています。日経平均の1株利益が約3,300円水準に到達し、PERが17〜18倍まで切り上がれば、5万9,400円という計算が成り立ちます。政局の安定というマクロ要因に加え、企業内部の変革が着実に進んでいることが、この強気シナリオの根拠です。

まとめ

日本企業の「売却の達人」たちが市場で高い評価を受けている背景には、東証改革と資本効率への意識改革があります。レゾナックの半導体材料への集中、THKの自動車部品事業の切り離し、日立の非中核事業からの撤退など、いずれも「何を残し、何を手放すか」を明確にした企業が投資資金を呼び込んでいます。

2026年は東証のPBR改善要請から3年目の節目です。事業ポートフォリオの入れ替えに本気で取り組む企業とそうでない企業の差は、今後ますます広がっていくでしょう。投資家にとっては、各企業の「選択と集中」の中身を見極めることが重要です。

参考資料:

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