震災15年、原発か再エネかの二択を超えるエネルギー戦略
はじめに
2026年3月11日、東日本大震災から15年を迎えます。福島第一原発事故をきっかけに、日本のエネルギー政策は大きく揺れ動いてきました。「原発推進か、再エネ拡大か」という二項対立が長く議論を支配してきましたが、15年の歳月は「どちらか一方では不十分」という現実を突きつけています。
北海道せたな町では、国内初の洋上風力発電設備が故障のまま放置され、撤去が決まりました。一方、女川原発2号機が震災後初めて再稼働するなど、原発回帰の動きも進んでいます。この記事では、震災後15年の電源政策を振り返り、脱炭素に向けた「両輪活用」の道筋を考えます。
再エネ拡大の光と影:洋上風力の教訓
国内初の洋上風力、撤去へ
北海道せたな町の瀬棚港に設置された洋上風力発電設備「風海鳥(かざみどり)」は、2004年に約7億円(うち半額は国の補助金)をかけて建設された国内初の洋上風力発電施設です。600kWの風車2基で構成され、年間約3,700万円の売電収入を上げてきました。
しかし、耐用年数(17年)を過ぎた2023年と2024年に相次いで故障し、発電を停止。高橋貞光前せたな町長は「修理しても、建て替えても、採算が合わない」と述べ、2025年に撤去方針を決定しました。撤去費用は約4億円に上り、国からの補助金はありません。
再エネの構造的な課題
せたな町の事例は、再生可能エネルギーが抱える構造的課題を象徴しています。初期投資の大きさ、設備の老朽化と維持管理費用、そして撤去コストの問題です。稼働期間中の収支は約4,300万円の黒字でしたが、撤去費用を含めると大幅な赤字となります。
日本の再エネ比率は着実に伸びており、2023年度時点で全発電量の約22%を占めるまでになりました。しかし、個々のプロジェクトレベルでは採算性の壁に直面するケースが少なくありません。特に洋上風力は、陸上風力や太陽光と比べてコストが高く、離島や遠隔地での維持管理にも困難が伴います。
大規模洋上風力への期待と懸念
一方で、北海道周辺では大規模な洋上風力発電計画が複数進行中です。檜山沖をはじめ、政府が促進区域として指定する海域での事業化が進んでいます。せたな町の小規模設備とは規模や技術水準が異なりますが、長期的な維持管理体制や撤去費用の確保など、先行事例の教訓を生かすことが重要です。
原発再稼働の現状と課題
震災後の原発停止から段階的回帰へ
福島第一原発事故の後、日本の全原発が一時停止しました。原子力発電の比率は2014年度にゼロとなりましたが、新規制基準に適合した原発から順次再稼働が進み、2023年度には約8.5%まで回復しています。震災前の約30%には遠く及びませんが、着実に回復傾向にあります。
2024年11月には、東北電力の女川原発2号機が震災後の東北地方では初めて再稼働を果たしました。被災地に立地する原発の再稼働は、地元住民の複雑な思いを伴いつつも、電力安定供給への貢献として注目されています。
GX脱炭素電源法の意味
2023年に成立したGX脱炭素電源法は、安全性の確保を前提とした原子力発電の活用推進を明確に打ち出しました。具体的には、既存原発の再稼働に向けた制度的後押し、運転期間の柔軟化(60年超運転の容認)、次世代革新炉の開発・建設の検討などが盛り込まれています。
この法律は、福島事故後に定着した「原発は縮小すべき」という空気に対して、政策的に方向転換を図ったものと言えます。脱炭素の実現には、再エネだけでは供給の安定性やコスト面で限界があるという判断が背景にあります。
「二者択一」を超えた電源政策への転換
2030年目標と電源構成の現実
政府の第6次エネルギー基本計画では、2030年の電源構成目標として再エネ36〜38%、原子力20〜22%、火力41%以下を掲げています。つまり、再エネと原子力を合わせて約6割を非化石電源で賄う計画です。
この目標を達成するには、再エネの導入拡大と原発の再稼働を同時に進める必要があります。どちらか一方に偏る政策では、2030年の目標達成は困難です。福島県は「2040年頃までに県内の全エネルギー需要を再エネで賄う」という独自目標を掲げ、県内電力の80%以上を再エネで創出していますが、全国規模でこれを実現するのは現実的ではありません。
GX-ETSと市場メカニズムの活用
2026年度から本格運用が始まるGX-ETS(排出量取引制度)も、電源政策に影響を与えます。企業間でCO2排出枠を売買する仕組みにより、化石燃料による発電のコストが上昇し、再エネや原子力の相対的な競争力が高まることが期待されています。
市場メカニズムを通じて、イデオロギーではなく経済合理性に基づいた電源選択が進む可能性があります。これは、15年間続いた「原発か再エネか」という感情的な対立を解消する一助となるかもしれません。
注意点・展望
遠回りの教訓を生かせるか
震災後の15年間、日本は電源政策で多くの「遠回り」を経験しました。原発の全面停止による化石燃料依存の増大、再エネの急速な導入拡大に伴う国民負担の増加、そして送電網の整備遅れなどです。
これらの教訓が示すのは、エネルギー政策には「唯一の正解」がないということです。地域の特性、技術の成熟度、コスト、安全性を総合的に判断し、多様な電源を組み合わせる「ベストミックス」の追求が不可欠です。
ホルムズ海峡危機が突きつけるもの
折しも2026年3月、ホルムズ海峡の事実上の封鎖が日本のエネルギー安全保障を揺るがしています。化石燃料への過度な依存がいかに脆弱であるかが、改めて浮き彫りになりました。原子力と再エネの両輪活用は、脱炭素だけでなくエネルギー安全保障の観点からも、その重要性を増しています。
まとめ
東日本大震災から15年。日本の電源政策は「原発か再エネか」の二者択一から、「両輪活用」へと舵を切りつつあります。せたな町の洋上風力撤去は再エネの課題を、女川原発の再稼働は原発回帰の現実を、それぞれ象徴しています。
2030年の電源構成目標の達成には、イデオロギーにとらわれず、経済合理性と安全性のバランスを取りながら多様な電源を活用する現実的なアプローチが求められています。震災の教訓を風化させることなく、次世代に安定したエネルギー供給を引き継ぐための議論が、今こそ必要です。
参考資料:
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