農家の平均年齢が初の低下、27都府県で若返りの兆し
はじめに
日本の農業が歴史的な転換点を迎えています。農林水産省が5年ごとに実施する「農林業センサス」の2025年調査結果によると、基幹的農業従事者の平均年齢が67.6歳となり、前回調査(2020年)の67.8歳から0.2歳低下しました。比較可能な1995年以降の統計で、平均年齢が低下したのはこれが初めてです。
全国47都道府県のうち約6割にあたる27都府県で「若返り」が確認されました。中でも三重県は低下幅が全国トップとなっています。長年にわたる農業の高齢化に歯止めがかかる兆しが見え始めた今、各地でどのような取り組みが進んでいるのかを詳しく解説します。
農林業センサス2025が示す農業の現状
基幹的農業従事者の大幅な減少
2025年の農林業センサスでは、コメや野菜などを生産する個人経営体の基幹的農業従事者(自営農業を主な仕事としている世帯員)は102万1千人でした。2020年の前回調査に比べて34万2千人、率にして25.1%の減少です。この減少率は比較可能な1985年以降で過去最大を記録しています。
年齢構成を見ると、65歳以上が全体の69.5%を占めており、高齢化の深刻さは依然として変わりません。農林水産省は2024年11月の審議会で、農業経営体が2020年の108万から2030年には54万へと半減するとの見通しも示しています。
平均年齢低下の背景にある二つの要因
平均年齢が0.2歳低下した背景には、主に二つの要因があります。一つ目は、80歳以上の超高齢層で離農が大幅に進んだことです。近年の資材価格高騰や夏場の猛暑による作業負担の増加が、高齢農業者の離農を加速させました。
二つ目は、40代から50代の比較的若い世代による新規就農や農業参入が、一部の地域で増加していることです。単純に「若い人が増えた」というだけではなく、「高齢者が減った」という構造的な変化との複合的な結果として、この数字が生まれています。
三重県が低下幅トップを記録した理由
伊賀市のイチゴ栽培が牽引役に
三重県が平均年齢の低下幅で全国トップとなった背景には、同県伊賀市を中心としたイチゴ栽培への若手農業者の参入があります。伊賀市は「伊賀米コシヒカリ」の産地として知られる地域ですが、近年は冬場に需要が大きいイチゴの生産分野で40代から50代の農業従事者が増加しています。
伊賀地域は四方を山に囲まれた盆地で、古琵琶湖層の栄養豊かな土壌と淀川源流域の清水に恵まれています。盆地特有の寒暖差の大きい気候は米づくりだけでなく、イチゴ栽培にも適した環境です。
施設園芸の高い収益性が若手を引き寄せる
イチゴをはじめとする施設園芸は、露地栽培に比べて高い収益性を持つことが特徴です。施設野菜作の10アールあたり所得は平均で約50万5千円と、露地野菜作の約3倍にのぼります。イチゴ栽培に限れば、農業所得率は約53%に達し、参入2年目で農業所得が約270万円に上るとの試算もあります。
初期投資として経営規模20アールの施設栽培を想定した場合、設備投資と1年目の経費を合わせて約1,460万円が必要です。しかし、イチゴの設備仲介を通じた就農後押しが三重県では進んでおり、既存農家が使用していた施設や設備を新規就農者に引き継ぐ仕組みが整備されつつあります。これにより初期投資の負担が大幅に軽減され、参入のハードルが下がっています。
全国で広がる就農支援の取り組み
国の支援制度の充実
農林水産省は新規就農者の確保に向けて、複数の支援制度を設けています。就農準備資金として、農業大学校や先進農家で研修を受ける49歳以下の就農希望者に対し、月額12万5千円の資金を交付しています。また、青年等就農資金として、認定新規就農者には最大3,700万円の無利子融資が受けられる制度があります。
さらに、経営開始資金として就農直後の経営確立を支援する仕組みも用意されています。こうした重層的な支援策が、農業への新規参入を後押ししています。
自治体独自の仕組みづくり
三重県の事例のように、自治体が独自の就農支援策を展開するケースが増えています。伊賀市ではJAいがふるさとが中心となって、農業を始めたい方を積極的に募集しています。「伊賀市版農業アカデミー」の立ち上げも計画されており、研修から就農、定着までを一貫して支援する体制が整備されつつあります。
全国の自治体でも、地域の農業特性に合わせた就農者の育成プログラムが広がっています。たとえば、地元の熟練農家と新規就農者をマッチングする制度や、遊休農地・中古設備を仲介する取り組みなど、参入障壁を下げるための工夫が各地で進んでいます。
スマート農業技術の活用
近年のスマート農業技術の進展も、新規就農のハードルを下げる大きな要因です。ICTを活用した環境制御技術により、施設園芸では植物の生育環境を最適にコントロールできるようになりました。これにより、経験の浅い農業者でも品質の高い作物を計画的に生産することが可能になっています。
センサーによる温度・湿度・日照量のモニタリングや、自動灌水システムの導入など、テクノロジーが農業経験の不足を補う時代が到来しています。
注意点・今後の展望
楽観視できない構造的課題
農家の平均年齢が初めて低下したことは明るいニュースですが、楽観視は禁物です。前述のとおり、この低下は超高齢層の大量離農による影響が大きく、若手農業者が急増しているわけではありません。
新規就農者数は2023年時点で4万3,460人と前年比5.2%の減少が続いています。特に49歳以下の若手は1万5,890人で5.8%の減少です。新規就農者の7割を占める新規自営農業就農者(親元就農)の減少が顕著であり、農家の後継者不足は解消されていません。
今後の鍵は「稼げる農業」の実現
農業の若返りを本格的に進めるためには、農業が「稼げる職業」として魅力を持つことが不可欠です。イチゴなどの施設園芸が若手を引き付けている事実は、高収益型の農業モデルが就農促進に有効であることを示しています。
今後は、デジタル技術の活用による生産性向上、ブランド化による高付加価値化、そして6次産業化(生産・加工・販売の一体化)といった取り組みがさらに重要になるでしょう。農業経営体が2030年に半減するとの予測がある中、残る経営体が効率的に生産を担える環境づくりが急務です。
まとめ
2025年農林業センサスで農家の平均年齢が初めて低下し、27都府県で若返りが確認されたことは、日本農業にとって注目すべき変化です。三重県伊賀市のイチゴ栽培のように、高収益作物と就農支援の組み合わせが若手の参入を促進している事例は、他の地域にとっても参考になります。
一方で、基幹的農業従事者が5年間で25%減少し、65歳以上が約7割を占める現状は、依然として厳しいものです。国や自治体の支援制度を活用しながら、スマート農業の導入や地域ぐるみの就農支援体制の強化が求められています。農業の持続可能な発展に向けて、今こそ社会全体で農業の魅力を再認識し、次世代の担い手を育てていく時期です。
参考資料:
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