食品減税・防衛費・ガソリン減税が招く財源不足の全貌
はじめに
日本の財政が大きな岐路に立っています。高市早苗首相が衆院選で掲げた食料品消費税率の2年間ゼロ、安全保障関連3文書の改定に伴う防衛費の増額、そしてガソリン・軽油の暫定税率廃止という3つの政策課題が同時に進行しています。
これら3つの政策は合計すると年間7兆円を超える財源が必要になると試算されています。赤字国債に頼らずにこれだけの財源をどう確保するのか、「財源シン3兄弟」とも呼ばれるこの問題は、2026年の日本の財政運営における最大の焦点です。この記事では、3つの財源課題の現状と今後の見通しを詳しく解説します。
食料品消費税ゼロの衝撃と年5兆円の税収減
公約の概要と進捗
高市首相は2026年の衆院選において、食料品にかかる消費税率を2年間ゼロにすることを公約に掲げました。2月には超党派の「国民会議」を通じて議論を進め、夏前に中間とりまとめを行う方針を表明しています。
食品表示法に規定される「食品」が対象となりますが、酒類と外食は除外される見通しです。現在の軽減税率8%がそのままゼロになることで、家庭の食費負担は大幅に軽減されます。第一生命経済研究所の試算によれば、平均的な4人家族で年間約6.4万円の負担軽減になるとされています。
年5兆円の税収減をどう埋めるか
食料品の消費税率をゼロにした場合、年間約5兆円の税収が失われます。高市首相は赤字国債の発行には頼らない方針を示しており、補助金の見直しや租税特別措置の整理、税外収入の活用で財源を確保するとしています。
しかし、具体的な財源の内訳は明示されていません。日本経済研究センターの調査では、食料品の消費税ゼロについて約9割が「財源の裏付けがない」と否定的な見方を示しています。野村総合研究所(NRI)も「責任ある積極財政」の形骸化がさらなる円安・債券安のリスクを招くと警鐘を鳴らしています。
防衛費9兆円時代と3文書改定の行方
過去最大の防衛関係費
2026年度予算案では、防衛関係費が初めて9兆円を突破し、9兆353億円に達しました。前年度の8兆7,005億円から約3.8%の増額です。岸田政権時代に策定された防衛力整備計画では、2023年度から2027年度の5年間で約43兆円の防衛費確保を目指しています。
高市首相はこの安全保障関連3文書を2026年中に前倒しで改定する意向を表明しています。改定後の3文書には、防衛費のGDP比について現行の2%を上回る新たな数値目標が盛り込まれる可能性があります。野村證券は次期目標としてGDP比3%もあり得ると分析しています。
防衛費財源の複雑な構造
防衛費増額の財源は複数の手段で賄われています。所得税については2027年1月からの増税が決定されました。東日本大震災の復興のために徴収している復興特別所得税の一部を防衛費に転用する仕組みも導入されています。
しかし、GDP比を2%からさらに引き上げる場合、追加の財源確保が不可避です。現行の防衛費ですら安定財源の確保にメドが立っていないとの慎重論もあります。東洋経済は「GDP比2%目標達成は見せ方次第」と指摘しており、実質的な財源確保には課題が残っています。
ガソリン・軽油の暫定税率廃止と年1.5兆円の穴
暫定税率廃止の経緯
ガソリンの暫定税率(1リットルあたり25.1円)は、2025年12月31日をもって正式に廃止されました。これは国会の全会一致で可決された歴史的な決定です。1リットルあたり約25円の恒久的な減税が実現しました。
一方、軽油の暫定税率(1リットルあたり17.1円)は都道府県税であるため、地方自治体の財政年度に配慮して2026年4月1日に廃止される予定です。ガソリンと合わせると、年間約1.5兆円の税収減となります。
地方財政への影響
軽油引取税は地方自治体の貴重な財源です。廃止によって地方の税収が年間約5,000億円以上減少すると試算されており、代替財源の確保が喫緊の課題です。道路整備や維持管理の財源としても重要な位置づけにあるため、地方自治体からは懸念の声が上がっています。
物流業界にとっては軽油の減税はコスト削減につながる一方で、脱炭素政策との整合性も問われています。化石燃料の税負担を軽減することが、カーボンニュートラル推進に逆行するのではないかという議論もあります。
プライマリーバランスと財政健全化の行方
28年ぶりの黒字化だが
2026年度当初予算案では、一般会計のプライマリーバランスが1兆3,429億円の黒字に転じる見通しです。黒字化は1998年度以来28年ぶりのことです。税収増加が寄与しました。
しかし、これはあくまで当初予算ベースの数字です。食料品消費税ゼロが実現すれば年5兆円、防衛費のさらなる増額、ガソリン・軽油の暫定税率廃止で年1.5兆円と、合計で7兆円を超える財源不足が生じます。せっかくの黒字化も一気に吹き飛ぶ規模です。
税外収入は一時しのぎ
高市首相は赤字国債に頼らない姿勢を示していますが、税外収入の活用は本質的に一時しのぎの性格を持ちます。外国為替資金特別会計の剰余金や独立行政法人の納付金など、毎年安定的に確保できる保証はありません。
消費税の再増税は政治的ハードルが極めて高い状況です。減税を掲げて選挙に勝った政権が、その後に増税を行うことは有権者の支持を失うリスクがあります。結果として、恒久的な歳出増に対して一時的な財源で対応するという、財政の持続可能性に疑問が残る構図が続く可能性があります。
注意点・展望
「財源シン3兄弟」はそれぞれ単独でも巨額の財源を必要としますが、3つが同時に進行する点が深刻さを増しています。食料品消費税ゼロは2年間の時限措置とされていますが、いったん実施された減税を元に戻すことは政治的に困難です。
防衛費については国際情勢の緊迫化を背景に、削減は難しい方向にあります。ガソリン・軽油の暫定税率廃止は既に法制化されており、後戻りはできません。つまり、3つの財源課題はいずれも「元に戻しにくい」という共通点を持っています。
今後は2026年夏の参院選に向けて、財源論が本格的な争点になる可能性があります。与野党ともに有権者受けの良い減税を競い合う展開になれば、財政規律はさらに緩む恐れがあります。
まとめ
高市政権が直面する「食料品消費税ゼロ」「防衛費増額」「ガソリン・軽油減税」の3つの財源課題は、合計で年間7兆円超の規模に達します。28年ぶりのプライマリーバランス黒字化を実現した直後に、これだけの財源不足を抱えることは日本の財政運営にとって大きな試練です。
赤字国債に頼らないという方針の持続可能性、税外収入という一時的な財源の限界、そして消費税再増税の政治的困難さ。これらの課題にどう向き合うかが、2026年の日本経済の方向性を左右する重要なテーマです。今後の国会審議や参院選での議論に注目が必要です。
参考資料:
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