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by nicoxz

日仏がレアアース共同調達で合意へ、中国依存脱却の新局面

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はじめに

2026年4月1日、高市早苗首相とフランスのマクロン大統領が東京で首脳会談を行い、レアアース(希土類)をはじめとする重要鉱物の共同調達に関するロードマップの策定で合意しました。両首脳が発表する共同声明には、中国を念頭に「重要鉱物に対する輸出規制は重大な悪影響を及ぼす可能性がある」との懸念が盛り込まれています。中国が世界のレアアース精製の約9割を握る中、日仏が連携して調達先の多角化に乗り出す動きは、経済安全保障の新たな転換点となりそうです。

日仏重要鉱物協力ロードマップの全容

共同声明に盛り込まれた内容

首脳会談に合わせて発表される共同声明には「日仏重要鉱物協力ロードマップ」の策定方針が明記されています。このロードマップに基づき、両国はレアアースのサプライチェーン(供給網)の強化に取り組みます。具体的には、アジアや南米など第三国からの調達先を拡大し、供給網の多角化を共同で推進する方針です。

さらに共同声明では、一方的な輸出規制への明確な懸念が表明されました。これは2026年1月に中国が日本に対して軍民両用品の輸出管理を厳格化した措置を受けたものです。野村総合研究所の試算によれば、中国がレアアース輸出規制を1年間続けた場合、日本の経済損失は約2.6兆円、名目GDPの押し下げ効果は0.43%に達するとされています。

フランス南部の精製工場プロジェクト

日仏協力の象徴的な事業が、フランス南西部ピレネー・アトランティック県ラック工業団地で建設中のレアアース精製工場です。フランスのカレスター社の子会社カレマグ(Caremag)が運営するこの工場は、2026年末の稼働を予定しています。欧州初の本格的なレアアース精製・リサイクル施設となります。

経済産業省によると、同工場では年間2,000トンのリサイクル磁石と5,000トンの原料鉱石からレアアースを精製します。生産品目には、電気自動車のモーター用永久磁石に不可欠なジスプロシウムとテルビウム(年間約600トン、世界の年間生産量の約15%相当)、さらにネオジムとプラセオジム(年間約800トン)が含まれます。

日本側の投資と供給契約

このプロジェクトには日本側から大規模な資金が投じられています。JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)と岩谷産業は、特別目的会社「Japan France Rare Earth Company」を設立し、カレマグ社に最大1億1,000万ユーロを出融資しました。フランス政府も「France 2030」国家投資計画を通じて約1億600万ユーロを支援しています。

重要なのは、JOGMECと岩谷産業がカレマグ社の重希土類生産量の50%を引き受ける長期供給契約を締結した点です。経済産業省によれば、これにより将来の日本の重希土類需要の約2割に相当する供給が確保されます。

中国依存からの脱却と日本の多角化戦略

中国の圧倒的シェアと輸出規制リスク

中国がレアアース市場で支配的な地位を占めている現状は、日本にとって深刻な経済安全保障リスクです。中国のレアアース精製量は世界全体の約91.7%を占めており、特に電気自動車用モーターに使われる重希土類(ジスプロシウム、テルビウム)は中国依存度がほぼ100%となっています。

2026年1月6日、中国政府は日本に対するデュアルユース品(軍民両用品)の輸出管理を厳格化しました。大和総研の分析によれば、レアアースやレアメタルの輸出規制は日本の実質GDPを1.3%から3.2%押し下げる可能性があります。特に打撃が大きいのは自動車産業、電子部品、風力発電、医療機器、航空宇宙の5分野です。

日本が進める多層的な調達戦略

日本は2010年の尖閣諸島をめぐる中国のレアアース輸出制限を教訓に、調達先の多角化を進めてきました。その結果、レアアース輸入における中国依存度は当時の約90%から2024年には62.9%まで低下しました。ベトナムからの調達が32.2%に拡大し、タイ(4.8%)なども加わっています。

オーストラリアのライナス・レアアース社との連携も重要な柱です。JOGMECと双日がライナス社に出資・融資を行い、長期供給契約を結んでいます。双日は2027年半ばまでに、希少性の高い中重希土類でオーストラリア産の輸入品目を現状の2品目から最大6品目に拡大する計画です。

さらに、日本・フランス・カナダの3カ国は、米国主導の重要鉱物貿易ブロックとは別の枠組みも模索しています。カナダが主導するG7の「重要鉱物生産同盟」(バイヤーズクラブ)には約180億カナダドルの投資が集まり、オーストラリアも参加しました。輸入割当や鉱山企業への補助金など、中国の独占を打破するための複数の選択肢が検討されています。

注意点・展望

今回の日仏合意は経済安全保障の強化に向けた前進ですが、課題も残ります。フランスのカレマグ工場は2026年末の稼働を目指していますが、建設の遅延リスクは排除できません。また、日本の重希土類需要の約2割を確保できるとはいえ、残りの8割については引き続き調達先の確保が必要です。

南鳥島沖の深海レアアース開発も注目されています。2026年1月に試掘が開始され、2028年から2030年頃の本格採掘が見込まれていますが、技術的なハードルは依然として高い状況です。

日仏首脳会談ではレアアースのほかにも、次世代型原発の小型モジュール炉(SMR)開発や宇宙協力でも合意が見込まれています。宇宙デブリ除去やロケット打ち上げなどの分野でも官民の連携プロジェクトが計画されており、日仏関係は経済・安全保障の両面で深化しつつあります。

まとめ

日仏首脳会談でのレアアース共同調達合意は、中国のレアアース支配に対する日本の多層的な対応策の一つとして重要な意義を持ちます。フランス南部の精製工場プロジェクトを通じた重希土類の確保、重要鉱物協力ロードマップの策定、そして日仏カナダなど同志国間の新たな枠組みの模索は、いずれもサプライチェーンの強靱化に向けた具体的な一歩です。中国依存度のさらなる低減に向け、こうした多角的な取り組みの進展が注目されます。

参考資料:

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