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by nicoxz

中国の鉱物覇権が脅かす日本の産業基盤と備蓄戦略

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はじめに

AI、電気自動車(EV)、防衛装備品――。現代のイノベーションを支える先端技術には、レアアースをはじめとする重要鉱物が欠かせません。その供給を圧倒的に支配しているのが中国です。2026年1月には中国が日本向けのレアアース輸出管理を厳格化し、産業界に衝撃が走りました。

米国もこの「鉱物覇権」の奪還に本腰を入れており、米中間の資源争奪戦は新たな段階に入っています。このはざまに立つ日本はどう対応すべきなのでしょうか。本記事では、中国の鉱物支配の実態、米国の対抗策、そして日本が取るべき備蓄・脱依存戦略について解説します。

中国が握る「鉱物覇権」の実態

採掘から精錬まで圧倒的な支配力

中国は世界のレアアース採掘の約7割、精錬の約9割を占めています。さらに、リチウムやコバルトなどの重要鉱物についても、採掘シェアは限定的ながら、加工能力では世界の40〜90%を支配しています。

この支配力の源泉は、長年にわたる戦略的な投資にあります。環境規制が緩く人件費も安かった時代に、中国は採算性の低い鉱物加工産業に集中投資を行いました。その結果、他国が容易に追随できない加工・精錬のインフラと技術を蓄積してきたのです。

輸出規制の「武器化」が加速

中国は近年、鉱物の輸出規制を外交・安全保障上の圧力手段として明確に活用しています。2025年4月にはレアアース7元素を輸出規制リストに追加し、さらにレアアースの加工・分離技術の輸出も禁止しました。

2026年1月6日には、デュアルユース品(軍民両用品)について日本への輸出管理を厳格化すると発表。一部のレアアースやレアメタルの日本向け輸出が事実上困難になる事態が発生しています。これは2010年の尖閣諸島問題時のレアアース禁輸以来、最も深刻な供給リスクとなっています。

米国の「鉱物覇権」奪還戦略

巨額投資と法整備

米国は中国の鉱物支配を安全保障上の重大な脅威と位置づけ、対抗策を急いでいます。2026年1月15日、トランプ大統領は重要鉱物の輸入調整に関する大統領令に署名しました。

連邦資金の投入規模も桁違いです。「One Big Beautiful Bill Act」により、国防備蓄の拡大に20億ドル(約3,000億円)、重要鉱物サプライチェーン支援に50億ドル(約7,500億円)が計上されました。

国際パートナーシップの構築

米国は単独での脱中国依存が困難であることを認識し、同盟国との連携を強化しています。オーストラリアとの重要鉱物枠組みに10億ドルを投じたほか、サウジアラビアとのレアアース精製所建設、カンボジア・マレーシア・タイとの追加協定、ウクライナとのエネルギー・重要鉱物協定など、グローバルな供給網の再構築を進めています。

日本の備蓄と脱依存の現状

依存度低下の取り組み

日本は2010年の中国によるレアアース禁輸を教訓に、官民で依存度低下に取り組んできました。レアアース輸入に占める中国の割合は2010年の約9割から、2024年には6割余りまで低下しています。

JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)は国家備蓄の拡充を進めており、現在の備蓄目標は国内需要の60日分を基本としています。地政学的リスクや産業上の重要性が高い鉱種については、より長期の備蓄目標が設定されています。

経済損失シナリオ

みずほリサーチの試算によると、レアアース輸入停止が3カ月程度であればGDPへの影響は限定的ですが、6カ月の場合はGDP▲0.3%、1年の場合は▲0.9%の影響が見込まれます。野村総合研究所は、1年間の規制継続で生産減少額が2.6兆円(GDP▲0.43%)に達すると試算しています。

南鳥島のレアアース泥――ゲームチェンジャーの可能性

明るい材料もあります。南鳥島近海の海底から重希土類を豊富に含むレアアース泥が大量に発見されており、ジスプロシウムは日本の需要の400年分、テルビウムは数百〜数千年分存在するとの分析があります。2026年1月に試掘が開始され、2028〜2030年頃の本格採掘が想定されています。

注意点・今後の展望

日本が直面するリスクは、単なる供給途絶だけではありません。中国はレアアースの加工技術そのものの輸出を禁止しており、他国が独自の加工能力を構築することを困難にしています。代替技術の開発も進んではいますが、レアアースを使用しない永久磁石やモーターは、コスト増や性能低下といった課題を抱えています。

2026年は「経済安全保障の真価が問われる年」といえます。備蓄の積み増し、南鳥島の資源開発、代替技術の実用化、そして同盟国との連携強化を同時並行で進める必要があります。いずれか一つに頼る戦略は危険であり、複線的なアプローチが求められます。

まとめ

中国の鉱物覇権は構造的な問題であり、短期間での解消は困難です。日本はすでに依存度を低下させてきた実績がありますが、2026年1月の輸出規制強化は、さらなる対策の必要性を突きつけています。

官民一体での備蓄拡充、南鳥島レアアース泥の開発加速、米国やオーストラリアとの資源連携強化、そして代替技術への投資拡大が急務です。「鉱物覇権」の時代に、日本の産業基盤を守るための行動が今こそ求められています。

参考資料:

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