日韓首脳が法隆寺訪問、歴史遺産で親睦深める外交
はじめに
2026年1月14日、高市早苗首相と韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は、奈良県斑鳩町の世界遺産・法隆寺を訪問しました。首相が自身の地元にある、韓国と歴史的な縁が深い文化遺産を案内することで、首脳間の親睦を深める狙いがありました。
前日13日に奈良市内で行われた日韓首脳会談に続く今回の法隆寺訪問は、経済や安全保障だけでなく、文化・歴史を通じた信頼関係の構築を目指す「文化外交」の一環といえます。本記事では、法隆寺と韓国の歴史的なつながり、そして今回の訪問が持つ外交的意義について解説します。
法隆寺と韓国の深いつながり
飛鳥文化と朝鮮半島
法隆寺は、飛鳥時代に建てられた世界最古の木造建造物として、日本で初めて世界文化遺産に登録されました。1400年の歴史を持つ広大な境内には、約190件の国宝・重要文化財が残されています。
法隆寺が建立された飛鳥時代の文化は、中国六朝文化を朝鮮半島を経由して摂取したものでした。特に仏教は百済と高句麗の僧侶によって支えられており、595年(推古3年)に高句麗僧・慧慈(えじ)、百済僧・慧聰(えそう)が来朝し、翌年には飛鳥寺に住まうようになりました。
法隆寺の聖霊院には、聖徳太子の尊像とともに高句麗僧・恵慈法師の像(国宝)が祀られています。これは聖徳太子と朝鮮半島の僧侶との深い関係を今に伝えるものです。
百済観音像の謎
法隆寺には「百済観音」と呼ばれる有名な仏像があります。この仏像は飛鳥時代(7世紀前半〜中期)の作で、国宝に指定されています。
百済観音像には多くの謎があります。誰が、どこで、いつ作ったのか、すべてが分かっていません。江戸時代までは「虚空蔵菩薩」、明治期の法隆寺の目録では「朝鮮風観音像」と記載されるなど、名称も変遷してきました。
名称と伝承から外国伝来と考えられていましたが、使用されている材木がクスノキとヒノキという日本国内産であることから、現在では日本で製作されたと考えられています。ただし、韓国では自国が与えた古代日本文化の源流として、多くの歴史教科書でこの像を取り上げています。
金堂壁画と大陸の影響
法隆寺金堂にはかつて飛鳥時代に描かれた壁画がありました。1949年の火災で焼損しましたが、この壁画は高松塚古墳の壁画と技法や文様に共通点が多いとされています。
高松塚古墳の極彩色壁画には、「中国初唐末706年の永泰公主墓壁画中の男女群像や、朝鮮半島高句麗の墳墓壁画中の四神図などとの深い関係」があることが指摘されています。法隆寺の文化財は、古代日本と朝鮮半島・中国大陸との文化交流を物語る貴重な証拠なのです。
日韓首脳会談の成果
奈良での歴史的会談
2026年1月13日、高市首相の地元・奈良市で日韓首脳会談が行われました。李大統領の来日に際し、高市首相はサプライズで出迎え、「私の故郷にようこそいらっしゃいました」と歓迎しました。
両首脳は首脳同士の相互往来「シャトル外交」を継続することで一致し、日韓両国が地域の安定に連携して役割を果たすべきとの認識を共有しました。
経済安全保障での連携強化
会談では、地政学的リスクの高まりと中国による輸出管理強化を背景に、経済安全保障分野での連携を加速させることで一致しました。
具体的には、レアアースやフッ化水素などの重要物資について、第三国からの共同調達や緊急時の相互融通を検討する枠組みを構築することが合意されました。特定国への過度な依存を脱却するため、重要鉱物の調達や半導体製造に不可欠な戦略物資の供給網を共同で強化していく方針です。
多分野での協力合意
両首脳は、水素や人工知能(AI)などの未来産業での協力、少子化・高齢化など社会問題への共同対応、ワーキングホリデー拡大を通じた人的交流の強化にも合意しました。
両国が直面する共通の課題(少子高齢化、首都圏への一極集中、農業、自然災害など)に対する解決策を共に模索するため、両国間の協議体を設立することも決まりました。
「文化外交」としての法隆寺訪問
歴史を通じた信頼構築
今回の法隆寺訪問は、単なる観光ではありません。両国の歴史的なつながりを確認し、過去の文化交流を現代の外交関係に活かそうとする試みです。
法隆寺には百済観音像をはじめ、韓国(朝鮮半島)との文化的つながりを示す文化財が数多く残されています。高市首相がこれらを案内することで、日韓関係は対立の歴史だけでなく、文化交流の歴史も共有していることを示す意図があったと考えられます。
シャトル外交の定着
今回の首脳会談は、李大統領就任後5回目、高市首相就任後2回目となりました。2025年8月には李大統領が来日し、2025年10月には高市首相がAPEC首脳会議への出席を機に訪韓するなど、シャトル外交が定着しつつあります。
首脳が頻繁に相互訪問することで、信頼醸成と実務協議の深化が図られています。外務・防衛当局の対話再開や閣僚レベル協議の活性化も含めて、日韓間の実務協力が深まっています。
国交正常化60周年の意義
2025年は日韓国交正常化60周年の節目の年でした。李大統領は2025年8月の来日時に「1965年の韓日国交正常化以降、韓国の大統領が就任後、最初の2国間訪問先が日本となることは今回が初めてだ」と述べています。
このように、両国関係は新たな段階に入りつつあります。高市首相も「日韓関係をさらなる高みに発展させる年としたい」と語っており、2026年もこの流れは継続する見通しです。
今後の展望と課題
実利重視の連携
2026年の日韓関係は「実利」重視の連携が特徴です。中国との関係が複雑化する中で、日韓両国は経済安全保障やサプライチェーンの強靭化において、互いを重要なパートナーと位置付けています。
日米韓3カ国の安保協力を含む戦略的連携も確認されており、地域の安定に向けた協力関係が深まっています。
残された課題
一方で、歴史認識問題や徴用工問題など、両国間には未解決の課題も残されています。これらの問題が首脳外交の成果を損なうリスクは依然として存在します。
ただし、今回の法隆寺訪問のように、歴史的なつながりをポジティブな文脈で共有する取り組みは、対立を超えた関係構築に寄与する可能性があります。
文化交流の深化
両首脳がワーキングホリデー拡大など人的交流の強化に合意したことは、国民レベルでの相互理解を深める上で重要です。政治・経済の協力だけでなく、文化・人的交流を通じた「草の根」の関係強化が、両国関係の安定に不可欠です。
まとめ
高市首相と李大統領の法隆寺訪問は、日韓関係の新たな一面を示すものでした。百済観音像をはじめ、法隆寺には日韓の古代文化交流を物語る文化財が数多く残されています。
今回の訪問は、経済・安全保障での実利的な連携に加え、歴史・文化を通じた信頼構築を目指す「文化外交」の試みといえます。シャトル外交が定着し、首脳レベルでの相互訪問が日常化する中で、日韓関係は新たな段階に入りつつあります。
両国が共有する歴史は、対立の歴史だけではありません。古代から続く文化交流の歴史を再確認することで、より建設的な関係構築につなげていくことが期待されます。
参考資料:
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