南鳥島でレアアース試掘開始・中国依存脱却への挑戦

by nicoxz

はじめに

2026年1月12日、地球深部探査船「ちきゅう」が静岡県の清水港から出航しました。目的地は、東京から南東へ約1,900キロメートル離れた南鳥島沖。日本の排他的経済水域(EEZ)にある水深約6,000メートルの深海から、レアアース(希土類)を含む泥を採掘する世界初の本格試験が始まりました。

レアアースは、電気自動車(EV)やスマートフォン、風力発電など、現代のハイテク産業に不可欠な資源です。しかし、世界の生産量の約7割を中国が握っており、日本も約60〜70%を中国からの輸入に依存しています。

本記事では、南鳥島沖のレアアース開発の概要と、日本の経済安全保障における意義について解説します。

探査船「ちきゅう」による世界初の試掘

プロジェクトの概要

内閣府が主導するこのプロジェクトは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)が運用する地球深部探査船「ちきゅう」を使用して実施されます。航海期間は2026年1月11日から2月14日までの約1カ月間で、現地での作業期間は約3週間を見込んでいます。

試掘の対象は、南鳥島沖の水深約5,500〜6,000メートルの海底に堆積するレアアース泥です。船からパイプを海底まで下ろし、泥を押し上げて回収する技術の確立を目指します。

技術的な挑戦

水深6,000メートルからの採掘は、極めて高度な技術を要します。深海の高圧環境、長大なパイプの制御、泥の効率的な揚収など、解決すべき課題は多岐にわたります。

今回の試掘で技術的な実証に成功すれば、2027年度には日量350トン規模の泥を引き上げる、より大規模な実証試験が計画されています。その後、2028年以降に民間企業への技術移転を進め、2030年頃の商業採掘開始を目指しています。

「希望の光」と関係者

実験の責任者である石井正一氏は「緊迫したレアアースの国際情勢の中で、非常に大きな成果をあげることになるんじゃないかと。“希望の光”だと我々は言っています」と語っています。

国産レアアースの開発が実現すれば、特定国への依存から脱却し、日本の産業基盤を強化する画期的な成果となります。

レアアースとは何か・その重要性

17種類の希少金属

レアアースは、周期表上の17種類の希土類元素の総称です。代表的なものにネオジム、ジスプロシウム、セリウム、テルビウムなどがあります。

「産業のビタミン」とも呼ばれるこれらの元素は、少量の添加で製品の性能を大きく向上させる特性を持っています。

主要な用途

レアアースの最大の用途は、強力な永久磁石の製造です。ネオジム磁石は、従来の磁石の10倍以上の磁力を持ち、EVやハイブリッド車のモーター、風力発電機のタービン、ハードディスクドライブなどに使われています。

スマートフォンにもレアアースは欠かせません。バイブレーターのモーター、スピーカー、液晶パネルの研磨剤など、小さな端末の中に複数のレアアースが使われています。

その他にも、自動車の排ガス浄化触媒、MRIなどの医療機器、航空宇宙産業、軍事用途など、幅広い分野で活用されています。

今後の需要見通し

世界的な脱炭素化の流れの中で、EVや風力発電の普及が加速しています。各国のCO2削減目標を達成するためには、2030年から2040年にかけてEVの普及率が急上昇すると予測されており、レアアースの需要は年々増加する見込みです。

中国依存のリスクと経済安全保障

圧倒的な中国のシェア

アメリカ地質調査所(USGS)によれば、2024年時点で世界のレアアース確認埋蔵量約9,000万トンのうち、中国は約4,400万トンと半分近くを占めています。

さらに重要なのは、レアアースを工業利用可能な形に精錬する工程で、中国が世界の91%のシェアを握っている点です。採掘だけでなく、加工・精製においても中国への依存度は極めて高い状況です。

日本の依存度の推移

日本は2010年の尖閣諸島問題に端を発したレアアース輸出規制を契機に、依存度の低減に取り組んできました。中国への依存度は2010年の89.8%から、2024年には62.9%まで減少しています。

しかし、代替調達先となっているベトナムの精錬シェアは1%に過ぎず、供給には限界があります。重希土類(ジスプロシウム、テルビウムなど)に至っては、中国依存度がほぼ100%という状況です。

輸出規制が発動された場合の影響

野村総合研究所の試算によると、中国がレアアース規制に踏み切った場合、3カ月間で6,600億円程度の経済損失が生じ、年間GDPを0.11%押し下げるとされています。

特に打撃を受けるのは、自動車産業、電子部品、風力発電、医療機器、航空宇宙の5分野です。EVのモーターに不可欠なネオジム磁石の原料が途絶えれば、日本の基幹産業に深刻な影響が及びます。

南鳥島の埋蔵量と「ゲームチェンジャー」の可能性

発見の経緯

2013年、東京大学の研究チームが南鳥島近海の水深5,700メートルの海底から、重希土類を豊富に含む大量のレアアース泥を発見しました。

分析によれば、ジスプロシウムは日本の需要の400年分、テルビウムは数百から数千年分が存在するとされています。これが事実であれば、中国への依存度を一気にゼロとする「ゲームチェンジャー」となる可能性があります。

商業化への道のり

ただし、深海からの採掘には多くの技術的・経済的課題があります。

まず、水深6,000メートルという深さは、従来の海底資源開発の経験を大きく超えています。採掘コストが見合うかどうかの経済性評価も必要です。

また、採掘したレアアース泥から実際に有用な元素を抽出・精製する工程の確立も課題です。環境への影響評価や、国際的な海洋法との整合性の確認も求められます。

注意点・今後の展望

政府の息の長い支援が不可欠

深海資源開発は、短期的な収益を見込めるプロジェクトではありません。技術開発から商業化まで10年以上の時間と、莫大な投資が必要です。

政府には、民間企業だけでは負担しきれないリスクを引き受け、息の長い支援を続けることが求められます。経済安全保障の観点から、国家プロジェクトとしての位置づけが重要です。

日本企業の取り組み

日本企業も中国依存からの脱却に向けた取り組みを進めています。JX金属や大手商社は、オーストラリア、インド、カザフスタンなど中国以外からの調達ルート確保に動いています。

プロテリアル(旧日立金属)などは、レアアースを使わない代替技術の開発にも注力しています。また、使用済みスマートフォンや家電からレアアースを回収する「都市鉱山」のリサイクルも進められています。

国際協調の重要性

レアアースの中国依存は日本だけの問題ではありません。欧米諸国も同様の課題を抱えており、調達先の多様化や技術開発で国際協調を進める動きがあります。

日本が深海採掘技術を確立すれば、同盟国との技術協力や資源外交においても重要なカードとなります。

まとめ

探査船「ちきゅう」による南鳥島沖でのレアアース試掘は、日本の経済安全保障にとって画期的な挑戦です。世界のレアアース供給を中国が支配する中、国産資源の開発は長年の課題でした。

水深6,000メートルからの採掘という技術的難題を克服できれば、日本は重要資源の自給への道を開くことができます。2030年頃の商業採掘開始を目指すこのプロジェクトの成否は、日本の産業競争力を左右する重要な鍵となります。

今回の試掘がどのような成果をもたらすか、注目が集まります。

参考資料:

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