日本人創業のアルパカがユニコーンに、米国初の快挙
はじめに
米国のフィンテック企業アルパカ(Alpaca)が、企業価値10億ドル(約1,590億円)を超えるユニコーン企業の仲間入りを果たしました。日本人だけで創業した新興企業が米国でユニコーンに到達するのは、これが初めてとみられています。
アルパカは証券取引に使うシステムをAPI形式で提供するスタートアップで、「金融サービスのストライプ」とも称されています。本記事では、アルパカのビジネスモデルと成長の軌跡、そして日本人起業家が米国で成功するためのヒントを探ります。
アルパカとは
創業者の経歴
アルパカは2015年、横川毅CEO(最高経営責任者)と原田均CPO(最高製品責任者)の2人によって米国カリフォルニア州で設立されました。
横川氏は日本出身で、かつてリーマン・ブラザーズで働いていました。2008年の同社破綻後、祖母の介護のために日本に戻り、約3年間デイトレードを行っていたといいます。その経験から「証券会社のツールはどれも使いにくい」と感じたことが、アルパカ創業のきっかけとなりました。
共同創業者の原田氏は、データベース技術に精通した技術者です。後にEMCに買収されたGreenplumでリードアーキテクトを務め、2002年には日本最大級のオンライン旅行代理店のデータインフラを構築した実績があります。
「金融のストライプ」を目指すビジネスモデル
アルパカが提供するのは、証券取引のためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)です。他のスタートアップや金融機関は、このAPIを利用することで、銀行関連の手続き、セキュリティ、規制対応といった複雑な部分を自社で構築することなく、迅速に証券取引アプリを開発できます。
この仕組みは、決済APIで世界的に成功したストライプ(Stripe)と類似しており、アルパカは「株式版のストライプ」と呼ばれることもあります。
提供サービスの範囲
アルパカのブローカーAPIは、米国株をはじめとするグローバル資産に対応しています。口座開設、入出金、取引執行、レポーティングまで一貫したサービスを提供し、端数投資(少額からの投資)や24時間取引といった機能も備えています。
2026年1月には、日本で初めて金融機関向けに米国株式・ETFの24時間リアルタイム取引APIの提供を開始しました。
急成長の軌跡
Y Combinatorからの支援
アルパカは世界的に有名なスタートアップアクセラレーター「Y Combinator」の卒業企業です。Y Combinatorはエアビーアンドビー、ドロップボックス、ストライプなど数々の成功企業を輩出しており、アルパカもその一員として投資家の注目を集めてきました。
資金調達の歴史
アルパカはこれまでに、Portage Ventures、Spark Capital、Tribe Capital、Social Leverage、Horizons Ventures、SBIグループなど世界のトップクラスの投資家から、累計1億7,000万ドル(約260億円超)の資金を調達しています。
2023年10月にはSBIグループから1,500万ドルの転換社債を調達し、2025年4月にはシリーズCで5,200万ドルを調達して中東、欧州、アジアへの拡大を進めています。
驚異的な成長率
2023年10月のシリーズB延長ラウンド以降、アルパカの売上高と預かり資産は3倍に、取引量は4倍に増加しました。また、DTCC(証券保管振替機関)のメンバーシップを取得し、完全な自己清算ブローカーディーラーとなりました。
現在、アルパカは世界40カ国で500万以上の証券口座を支え、200社以上の金融機関にサービスを提供しています。
日本人起業家と米国ユニコーン
なぜ日本発ユニコーンは少ないのか
日本発のユニコーン企業は、2023年時点で14社程度とされています。米国の721社、中国の261社と比較すると大きな開きがあります。
その理由として、日本市場の規模の小ささ、スタートアップへの投資額が米国の100分の1程度であること、若手起業家の育成が進んでいないことなどが挙げられます。シリコンバレーでは起業家の平均年齢が30代である一方、日本では起業する人の3分の1が60代以上という統計もあります。
シリコンバレーでの成功要因
専門家によると、シリコンバレーには「新しい商品やコンセプトを応援し、ここから世界を制覇するものを互いに作り合っている」という独特の文化があります。日本人起業家がいきなり現地に行っても相手にされず、現地の人脈構築に時間がかかることが多いといいます。
アルパカの場合、横川氏と原田氏が米国での実務経験を持っていたこと、Y Combinatorを通じてシリコンバレーのエコシステムに早期から参加したこと、そして「金融APIのプラットフォーム」という明確で拡張性のあるビジネスモデルを持っていたことが、成功の要因と考えられます。
日本の支援体制の進化
近年、日本でもスタートアップの海外展開を支援する取り組みが進んでいます。ジェトロはグローバル・アクセラレーション・ハブやJ-StarXなどのプログラムを通じて、2025年4月時点で累計2,000社以上の日系スタートアップを支援しています。
大阪大学は2023年にシリコンバレーに連携拠点を設け、UCバークレー発の団体「Berkeley SkyDeck」とパートナー契約を締結しました。これは日本の国立大学として初の試みです。
アルパカの今後の展望
グローバル展開の加速
アルパカは2025年のシリーズC調達を機に、中東、欧州、アジアへの本格展開を進めています。特に欧州市場では、英国の資産管理プラットフォームWealthKernelの買収を通じて事業基盤を強化しています。
日本市場での取り組み
日本法人のAlpacaJapan株式会社は、横川氏が代表取締役、原田氏が取締役を務めています。2026年1月からは金融機関向けに24時間取引APIを提供開始し、提携先のWoodstockの米国株投資アプリで利用可能となっています。
横川氏は「世界中の投資家の米国市場へのアクセスを改善する重要な一歩」と述べており、日本の証券業界における24時間取引の普及に向けた環境整備を進めています。
まとめ
アルパカのユニコーン達成は、日本人起業家が米国で成功できることを示す画期的な事例です。元リーマン・ブラザーズ社員という経験、シリコンバレーのエコシステムへの早期参入、そして「金融のストライプ」という明確なビジョンが、この成功を支えました。
日本からのユニコーン創出が課題とされる中、アルパカの事例は後に続く起業家にとって大きな励みとなるでしょう。グローバル市場を見据えたビジネスモデルの構築と、現地ネットワークの活用が成功への鍵といえます。
参考資料:
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