婚姻数50万組回復も出生増には「2人目の壁」
はじめに
厚生労働省が2026年2月26日に発表した人口動態統計(速報値)によると、2025年に結婚したカップルは前年比1.1%増の50万5,656組となり、2年連続の増加を記録しました。婚姻数が50万組を超えるのは3年ぶりのことです。
しかし喜ばしいニュースの裏側には、深刻な課題が潜んでいます。同年の出生数は70万5,809人と10年連続で過去最少を更新しました。婚姻数が回復しても出生数の減少が止まらない背景には、共働き世帯が増える中で複数の子どもを持ちにくい「2人目の壁」と呼ばれる構造的な問題があります。
この記事では、婚姻数回復の要因と「2人目の壁」の実態、そして政府の少子化対策の現状について詳しく解説します。
婚姻数回復の背景と実態
コロナ禍からの反動増
新型コロナウイルスの流行は、日本の婚姻数に大きな打撃を与えました。2019年には約60万組あった婚姻数は、行動制限や経済的不安の影響で急速に減少し、2023年には大幅な落ち込みを記録しました。
2024年から回復傾向が見られ始めたのは、コロナ禍で延期されていた結婚の「先送り需要」が顕在化したことが大きな要因です。また、社会活動の正常化に伴い、出会いの機会が増えたことも後押ししています。2025年には「令和7年7月7日」という縁起の良い日付も話題となり、婚姻届の提出が微増したとの指摘もあります。
婚姻数の中長期トレンド
ただし、50万組という数字を中長期的に見ると、決して楽観できる状況ではありません。2019年の約60万組と比べると依然として大きく下回っており、若年人口の減少という構造的な要因を考えると、婚姻数の大幅な回復は見込みにくい状況です。
日本総研の推計では、2025年の婚姻数は約48.5万組とも見積もられていましたが、実際にはそれを上回る結果となりました。とはいえ、未婚率の上昇傾向に歯止めがかかっているわけではなく、50歳時点での未婚率は男性で約3割に達しています。
出生数減少と「2人目の壁」の構造
婚姻数増でも出生数は過去最少
2025年の出生数は70万5,809人で、前年からさらに減少しました。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計と比べると、少子化は想定より約17年も早いペースで進行しています。
婚姻数が増加しているにもかかわらず出生数が減り続ける最大の理由は、結婚した夫婦の間でも子どもの数が減少していることです。かつては「結婚すれば子どもが生まれる」という前提がありましたが、現在は結婚から出産までの期間が長期化し、有配偶出生率(結婚している女性の出生率)自体が低下しています。
共働き世帯と「2人目の壁」
「2人目の壁」とは、第1子を出産した夫婦が第2子以降の出産をためらう現象を指します。この背景には複合的な要因があります。
第一に、経済的な負担です。教育費の高騰や住宅費の上昇により、子育てにかかるコストは年々増加しています。特に都市部では保育料、習い事、学費などの支出が家計を圧迫し、「もう1人」という選択を困難にしています。
第二に、仕事と育児の両立の難しさです。共働き世帯が全体の7割を超える現在、女性のキャリア継続と育児の両立は大きな課題です。第1子の育児だけでも負担が大きい中、第2子を持つことへの心理的ハードルが高くなっています。
第三に、夫の家事・育児参加の不足です。調査によると、夫の家事・育児時間が長い家庭ほど、妻の継続就業割合や第2子以降の出生割合が高い傾向にあります。しかし日本の男性の家事・育児時間は国際的に見ても短く、この改善が進んでいないことが「2人目の壁」を助長しています。
政府の少子化対策と課題
年3.6兆円規模の対策
政府は少子化対策を「最重要課題」と位置づけ、年3兆6,000億円規模の予算を投入しています。2024年に成立した改正子ども・子育て支援法では、児童手当の所得制限撤廃と支給期間の拡大、第3子以降への加算の倍増などが盛り込まれました。
2026年4月からは妊産婦に10万円相当を支給する制度が恒久化されるなど、経済的支援の拡充が進んでいます。また、男性の育児休業取得促進や、保育の受け皿拡大なども政策の柱となっています。
対策の限界と必要な視点
しかし、現行の対策だけでは出生数の回復は難しいとの指摘もあります。経済的支援は重要ですが、「2人目の壁」の根本には、長時間労働や職場の理解不足、地域の育児支援の乏しさなど、社会全体の構造的な問題があります。
また、若い世代の結婚・出産に対する価値観の変化も見逃せません。結婚や子どもを持つことが必ずしも人生の前提ではなくなりつつある中で、個人の選択を尊重しながらも「産みたい人が産める社会」をどう実現するかが問われています。
注意点・展望
婚姻数の回復は一定の明るい材料ですが、これが直接的に出生数の増加につながるかどうかは不透明です。過去の傾向では、婚姻数の増加から出生数の増加までには1〜2年のタイムラグがあるとされますが、「2人目の壁」という構造的課題がある限り、婚姻数の増加だけでは出生数の反転は困難です。
今後注目すべきは、2026年以降に婚姻数の増加が出生数にどの程度波及するか、そして政府の少子化対策がどこまで実効性を持つかです。企業における働き方改革や男性の育休取得率の向上など、社会全体の意識変革が求められています。
まとめ
2025年の婚姻数は3年ぶりに50万組を超え、回復の兆しを見せています。しかし出生数は10年連続で過去最少を更新し、少子化の進行は想定を大きく上回るペースです。共働き世帯の増加に伴う「2人目の壁」は、経済的負担、仕事と育児の両立困難、男性の家事・育児参加不足が複合的に絡み合った構造的な問題です。
婚姻数の回復を出生数の増加につなげるためには、経済的支援だけでなく、働き方や社会の仕組みそのものを見直す必要があります。個人の選択を尊重しつつ、子どもを持ちたい人が安心して産み育てられる環境づくりが急務です。
参考資料:
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