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by nicoxz

日本の冬季リゾートに反転攻勢の兆し――雪という国産資源の底力

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はじめに

2026年2月、ミラノ・コルティナ冬季オリンピックで日本代表は金5・銀7・銅12の計24個のメダルを獲得し、冬季五輪史上最多記録を更新しました。スノーボード競技だけで9個のメダルを手にするなど、日本の冬季スポーツの存在感はかつてないほど高まっています。

この華々しい成績の背景には、長年にわたる競技環境の充実と、日本が誇る世界最高クラスの雪質があります。そしていま、その「雪」という国産資源を軸に、日本の冬季リゾート産業が大きな転換期を迎えています。インバウンド需要の爆発的拡大、政府の積極的な支援策、そして世界的なスノーツーリズムの成長――。長く低迷を続けてきた日本のスキーリゾートに、反転攻勢の兆しが見えてきました。

世界が熱狂する「JAPOW」――日本の雪が持つ圧倒的な競争力

パウダースノーの聖地としての日本

日本の雪は世界のスキーヤーやスノーボーダーから「JAPOW(ジャパウ=Japan Powder)」と呼ばれ、最高級のパウダースノーとして広く認知されています。その特徴は、軽く乾いた雪質にあります。ユーラシア大陸を横断してきた乾いた偏西風が、暖流の対馬海流が流れる日本海で水分を補給され、日本列島の山岳地帯にぶつかって大量の雪を降らせます。このメカニズムにより、日本は世界でも極めて珍しい「豪雪地帯にパウダースノーが降る国」となっています。

北海道のニセコや富良野は冬にマイナス20度近くまで冷え込み、15メートルを超える積雪を記録する世界有数のパウダースノーエリアです。本州でも岩手県の夏油高原や新潟県の妙高エリアなどが世界トップレベルの雪質を誇り、東北地方は「パウダースノーの聖地」として海外メディアでも頻繁に取り上げられています。

スキーだけではない「雪と文化の融合」

日本の冬季リゾートが海外から高い評価を受けている理由は、雪質だけにとどまりません。温泉、和食、日本酒、伝統文化といった日本ならではのコンテンツが、スキーリゾートと一体となって提供される点が大きな強みです。外国人スキー客の多くがスキー後も平均9日間にわたって日本国内を周遊するスタイルが定着しており、「雪と文化の融合」旅行として高い消費額を生み出しています。

この点は、欧米のスキーリゾートにはない独自の魅力です。スイスやオーストリアのアルプスリゾートが「スキー特化型」であるのに対し、日本のリゾートは「スキー+文化体験」というハイブリッドモデルで差別化に成功しつつあります。

インバウンド爆発とスノーリゾート産業の構造変化

消費の9割がインバウンド――数字が示す圧倒的な成長

日本のスノーツーリズムは、2024年から2025年にかけての冬シーズンに劇的な成長を遂げました。訪日スキー客数は前年比で約40〜50%増という驚異的な伸びを記録し、スキーリゾート地における総消費額のうち、実に約90%を訪日外国人旅行者が占めるまでに至っています。

白馬村観光局のデータによると、2024年11月から2025年2月の観光客は前シーズン比14%増の約130万人となり、過去20年間の最高記録を更新しました。同期間のスキー場来場者数はのべ89万人を超え、その46%が外国人観光客でした。特にオーストラリア、香港、台湾、シンガポールからの訪問者が目立ち、ニセコには海外スキー客全体の約50%が訪れるなど、その人気は圧倒的です。

政府の本腰――スノーリゾート形成促進事業

この成長を後押しするのが、観光庁が推進する「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」です。2025年度には北海道から岐阜まで16地域が支援対象として選定され、ICゲートシステムの導入やインフラ整備に対して補助率2分の1(上限3億円)の支援が行われています。

具体的な支援内容は、スキー場のコンテンツ整備、受入環境の整備、外国人対応可能なインストラクターの確保など多岐にわたります。長野県の白樺高原、岩手県の八幡平地域、山形県の蔵王地域、福島県の会津磐梯、新潟県の越後湯沢など、全国各地でリゾートの国際化が進められています。

民間投資の活発化とスキー場経営の回復

民間セクターでも明るい兆しが見えています。日本スキー場開発は2025年7月期の売上高96億円(前年比16%増)、営業利益17億円(同9.5%増)を見込んでおり、4つのスキー場で冬の来場者数が上場以来最多を記録しました。2024年度のスキー場運営企業の倒産はゼロ件で、7年ぶりに倒産がない年となりました。

ニセコや白馬では外資系の高級ホテルやコンドミニアムの開発が加速しており、「第二のアスペン」とも呼ばれるほどの国際的なリゾート地へと変貌を遂げつつあります。一方で、白馬村は「ニセコは追わない」として、急激な外資流入による地域コミュニティへの影響を見据えた独自のまちづくりを模索しています。

注意点・展望――気候変動という最大のリスクと通年型リゾートへの転換

日本の冬季リゾート産業にとって、最も深刻な課題は気候変動による雪不足です。気象庁の将来予測によると、温暖化対策を講じずに気温が約4度上昇した場合、北海道の一部を除いた日本全体の積雪量は約7割も減少するとされています。この10年間、毎年のようにスキー場のオープンが後ろ倒しになっており、2023年には雪不足によるスキー場の倒産が7件に上り、過去10年で最多を記録しました。

人工降雪機の導入には莫大な電力コストがかかり、その電力消費自体がCO2排出を増やすというジレンマもあります。こうした課題に対して、先進的な取り組みも始まっています。白馬村は2019年に「気候非常事態宣言」を発表し、白馬八方尾根スキー場はリフトの約50%を再生可能エネルギーで運行しています。エイブル白馬五竜スキー場では、ナイターゲレンデのリフト・照明・降雪機のすべてを100%再生可能エネルギーで稼働させることに成功しました。

長期的には、雪に依存しないグリーンシーズン(夏季)の収益化を進め、通年型リゾートへと転換していくことが不可欠です。マウンテンバイクやトレッキング、キャンプなど夏のアクティビティを充実させることで、冬の雪に頼りすぎない経営基盤の構築が求められています。

まとめ

ミラノ・コルティナ冬季五輪での史上最多メダル獲得は、日本の冬季スポーツの底力を世界に示しました。そしてその背景にある「雪」という国産資源は、いまやインバウンド需要を呼び込む最大の観光コンテンツとして、日本の地方経済を力強く牽引しています。

消費の9割をインバウンドが占めるまでに成長したスノーツーリズム市場は、2025〜2026年シーズンもさらなる拡大が見込まれています。政府の積極的な支援策、民間投資の活発化、そして世界が認めるJAPOWの価値――反転攻勢の条件は整いつつあります。気候変動という大きなリスクに対しても、再生可能エネルギーの活用や通年型リゾートへの転換など、前向きな取り組みが進んでいます。雪という国産資源を最大限に活かし、持続可能な形で地域の活力につなげていくことが、日本の冬季リゾート産業の未来を左右するでしょう。

参考資料

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