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by nicoxz

稼働9割でも赤字、香川県立アリーナに見る公設民営アリーナの構造問題

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はじめに

香川県が約202億円を投じて建設した「あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)」が、2026年2月に開館1年を迎えました。高松市サンポートに位置するこの施設は中四国最大規模を誇り、週末を中心に稼働率は約9割と旺盛な需要を獲得しています。

しかし、施設の維持管理にかかる費用を利用料収入で補えない赤字体質が課題として浮かび上がっています。県民に開かれた公共施設としての役割と、収益性の確保という二つの要請をどう両立させるのか。この問いは、全国で65を超えるアリーナ計画が進行する日本において、他人事ではありません。

本記事では、香川県立アリーナの現状を手がかりに、公設民営アリーナが直面する構造的な課題と解決の方向性を考えます。

香川県立アリーナの現状

施設概要と運営体制

香川県立アリーナは2025年2月24日に開館しました。地下1階・地上2階建てで延べ面積は約3万平方メートルの規模です。メインアリーナ、サブアリーナ、武道施設兼多目的ルームの3つの施設で構成されています。

運営には「指定管理者制度」が採用されており、あなぶきエンタープライズを代表とする4社で構成される「香川アリーナコンソーシアム」が約7年間の運営・管理を担っています。穴吹興産が命名権(ネーミングライツ)を取得し、「あなぶきアリーナ香川」の愛称で親しまれています。

稼働率9割でも赤字の理由

週末を中心に需要は旺盛で、稼働率は約9割に達しています。しかし、それでも赤字体質から脱却できていません。その主な理由は以下の通りです。

利用料金の制約: 公共施設であるため、利用料金は条例で定められた上限があり、民間施設のように市場原理に基づく価格設定ができません。プロスポーツやコンサートなどの高収益イベントでも、民間アリーナと比べて施設利用料を高く設定できない構造です。

維持管理コストの重さ: 約202億円かけて建設された大規模施設の維持管理には、光熱費、設備保守、清掃、警備など多額の経常費用がかかります。稼働率が高くても、1回あたりの利用料収入でこれらを賄いきれない構造があります。

指定管理者制度の限界: 指定管理者の収入は主に行政からの委託料と利用料金で構成されます。収益を上げても指定管理者のインセンティブに直結しにくい仕組みのため、収益最大化への動機が弱いという指摘があります。

全国アリーナ建設ラッシュの現状

65超の計画が進行中

日本全国で65を超えるアリーナ・スタジアムの新設・改修計画が進行しています。この建設ラッシュの最大の推進力は、2026年10月に始まるプロバスケットボールBリーグの新リーグ「Bプレミア」です。参入審査基準として5,000席以上のアリーナやスイート・ラウンジの確保が求められており、各地のチームが要件を満たすための施設整備を急いでいます。

主な開業予定施設を見ると、その規模の大きさが分かります。

  • ジーライオンアリーナ神戸: 2025年春開業、約1万人収容
  • IGアリーナ(名古屋): 2025年夏開業、約1万7,000人収容
  • 川崎市の複合施設: 2028年開業予定、約1万5,000人収容

民設民営と公設民営の違い

アリーナの運営モデルは大きく「民設民営」と「公設民営」に分かれます。

民設民営: 民間企業が自ら資金を調達して建設・運営するモデルです。沖縄アリーナがその先駆的存在であり、収益性を重視した料金設定やイベント誘致が可能です。一方で初期投資のリスクは民間が負います。

公設民営: 自治体が建設し、運営を民間に委託するモデルです。香川県立アリーナがこの典型です。建設費の負担を公的資金で賄えるメリットがありますが、利用料金の設定に制約があり、「稼ぐ」ことに対する制度的な壁が存在します。

収益化に向けた課題と解決策

コンテンツの多角化

プロバスケットボールのホームゲームは年間30試合前後に過ぎません。残りの日数をいかに高収益イベントで埋めるかが、アリーナ経営の成否を分けます。

音楽コンサート、eスポーツ大会、企業イベント、展示会など、多目的に活用できる施設設計が重要です。加えて、VIPルームやラウンジ、飲食・物販エリアの充実により、施設利用料以外の収入源を確保する戦略が求められます。

運営制度の見直し

GLOBIS学び放題の分析によると、公設民営アリーナの赤字体質を解消するためには、運営事業者に収益向上のインセンティブが働く制度設計が不可欠です。具体的には、利用料金設定の柔軟化、成果連動型の委託料体系、長期的な運営権の付与などが考えられます。

スポーツ庁も「スタジアム・アリーナ改革」として、民間活力の導入による収益向上を推進しています。

地域経済との連携

アリーナは「ただの箱」ではなく、地域経済の核となる施設です。周辺地域の飲食店や宿泊施設との連携、交通アクセスの改善、イベント前後の回遊性向上など、面的な経済効果を最大化する取り組みが重要です。

注意点・展望

アリーナ乱立のリスク

今後5年で約30の新規施設が開業し、収容人数は20万人以上増える見通しです。イベントの誘致競争が過熱すれば、施設間でイベントを奪い合う「共食い」が発生する可能性があります。収益計画が成り立たなければ、運営段階でも公費負担が増大するリスクがあります。

東洋経済オンラインは、先に待つのが「夢のアリーナ」か「令和のハコモノ」かという問いを投げかけています。建設の是非だけでなく、持続可能な運営モデルの構築が、各自治体に問われています。

今後の展望

Bプレミアの開幕により、2026年後半からは各地のアリーナの「実力」が試される局面に入ります。稼働率だけでなく、収益構造の健全性が評価される時代が始まります。香川県立アリーナの試行錯誤は、全国のアリーナ運営にとって貴重な先行事例となるでしょう。

まとめ

香川県立アリーナは稼働率9割という好成績にもかかわらず赤字という、公設民営モデルの構造的課題を体現しています。利用料金の制約、維持管理コストの重さ、収益インセンティブの弱さが主な要因です。

全国で65超のアリーナ計画が進む中、公共性と収益性の両立は避けて通れない課題です。コンテンツの多角化、運営制度の柔軟化、地域経済との連携が、持続可能なアリーナ経営への鍵となります。

参考資料:

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