韓国・李大統領が「一つの中国」支持表明、6年ぶり訪中の狙い
はじめに
韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領は2026年1月2日、台湾問題について「一つの中国」原則を尊重する立場を改めて表明しました。1月4日からの訪中を前に、中国国営中央テレビ(CCTV)のインタビューに応じた形です。
韓国大統領の訪中は、2019年12月の文在寅氏以来約6年ぶり。李大統領は2025年6月の就任後初めての訪中となります。習近平国家主席の招待による国事訪問であり、中国側が破格の待遇で迎えたことが注目を集めています。
本記事では、李大統領の訪中の背景、中国の意図、そして日中韓関係への影響について解説します。
「一つの中国」支持の表明
インタビューでの発言
李在明大統領は訪中を前にCCTVのインタビューで「我々は当然、中国の大きな懸案である台湾問題で『一つの中国』を尊重するという立場に変わりはないと考える」と述べました。
また、中韓関係について「国益を互いに尊重する」立場を強調し、第二次世界大戦において中国と韓国が侵略に抵抗した歴史を評価。過去から教訓を学ぶ必要性を訴えました。
中国の要求
台湾メディアの報道によると、中国は訪中にあたり韓国に「4つの要求と4つの約束(4要4答)」を提示したとされています。要求事項には以下が含まれていたと報じられています。
- 習近平国家主席との会談で公開の場で「一つの中国」政策の順守を明言すること
- 在韓米軍の任務拡大への反対
- 中距離ミサイルシステム「タイフーン」の韓国配備の拒否
李大統領の「一つの中国」発言は、こうした中国側の要求に応じた形とも解釈されています。
訪中の概要と経済使節団
6年ぶりの訪中
2026年1月4日、李在明大統領は北京に到着し、4日間の訪中を開始しました。習近平国家主席の招待による国事訪問で、韓国大統領としては約6年ぶりの訪中となります。
中国側は破格の待遇で李大統領を迎え、首脳会談のほか、各種の歓迎行事が予定されています。
財閥トップ200人が同行
注目すべきは、李大統領に同行した経済使節団の規模です。サムスン電子、SK、現代自動車、LGの4大財閥の会長を含む200人もの企業関係者が同行しました。
これは、冷え込んでいた中韓経済関係の回復を狙った官民一体の取り組みです。半導体、電気自動車、バッテリーなど、両国が競合・協力する分野での協議が行われると見られています。
経済協力の回復が狙い
李大統領の訪中の主要な狙いは、停滞していた中韓経済協力の回復にあります。THAAD(高高度防衛ミサイル)配備を巡る対立以降、中国による「限韓令」などで韓国企業は中国市場で苦戦を強いられてきました。
李政権は、前政権より中国に融和的な姿勢を示すことで、経済関係の正常化を図る思惑があるとされています。
中国の戦略的意図
日米韓の分断を狙う
キヤノングローバル戦略研究所の峯村健司上席研究員は、中国の意図について次のように分析しています。「中国は、鬱陶しい日本、アメリカ、韓国のトライアングルを崩すチャンスだと思っている。アメリカと韓国から日本をひきはがし、日本を孤立させる意図がある」
日中関係が悪化する中、中国は韓国との関係強化を通じて、日米韓の連携を弱体化させる狙いがあるとの見方です。
高市政権への牽制
台湾有事を巡る高市早苗首相の国会答弁を受け、日中関係は急速に悪化しています。中国は対日レアアース輸出規制を強化するなど、経済的な圧力を強めています。
こうした中、韓国の李大統領を国賓待遇で迎え、「一つの中国」支持を引き出すことは、日本への牽制メッセージという側面もあります。メディアを通じて歴史問題での中韓共闘を強調する動きも見られます。
台湾問題での「統一戦線」
中国にとって、台湾問題は「核心的利益」です。周辺国から「一つの中国」支持を取り付けることは、台湾への圧力強化につながります。韓国の李大統領による支持表明は、中国の外交的勝利と位置づけられます。
日中韓関係への影響
韓国の綱渡り外交
李政権は、米中の狭間で綱渡りの外交を強いられています。安全保障面では米韓同盟を維持しつつ、経済面では中国との関係改善を図るという難しいバランスです。
「一つの中国」支持の表明は、経済的利益と引き換えに、安全保障面でのリスクを受け入れる判断とも解釈できます。
日韓関係への影響
中韓接近が進めば、日韓関係にも影響を及ぼす可能性があります。歴史問題を巡る中韓の共闘姿勢が強まれば、日韓の協力関係に影を落としかねません。
一方、日韓両国とも米国の同盟国であり、北朝鮮問題など共通の安全保障上の課題を抱えています。日韓関係の大幅な悪化は、両国にとって得策ではありません。
米国の反応
米国は、韓国の対中接近を警戒しているとされています。特に、在韓米軍の任務拡大への反対や、ミサイル配備拒否といった中国の要求を韓国が受け入れれば、米韓同盟の根幹に関わる問題となります。
トランプ政権がベネズエラ問題で国際的な批判を浴びる中、アジアでの同盟関係のマネジメントは難しい局面を迎えています。
今後の注目点
首脳会談の成果
李大統領と習近平国家主席の首脳会談で、どのような合意がなされるかが注目されます。経済協力の具体的な成果が発表されれば、李政権の訪中は「成功」と評価されるでしょう。
一方、安全保障面で中国の要求に過度に応じる姿勢が見られれば、国内外からの批判を招く可能性があります。
日中韓の三角関係
今後の日中韓関係がどのように推移するかも注視が必要です。中国が日韓分断を図る中、日本と韓国がどこまで連携を維持できるかが問われます。
日中韓首脳会談(サミット)の開催可能性を含め、三国間の外交動向が注目されます。
まとめ
韓国の李在明大統領は訪中を前に、台湾問題で「一つの中国」原則を尊重する立場を表明しました。6年ぶりとなる韓国大統領の訪中で、財閥トップ200人を含む経済使節団を同行させ、中韓経済協力の回復を目指しています。
背景には、中国による日米韓分断の思惑があります。日中関係が悪化する中、韓国を取り込むことで、日本を孤立させる狙いがあるとの分析があります。
李政権は米中の狭間で難しい舵取りを迫られています。経済的利益と安全保障のバランスをどう取るか、今後の外交動向が注目されます。
参考資料:
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