Research

Research

by nicoxz

生保15社の基礎利益15%増、金利上昇の光と影

by nicoxz
URLをコピーしました

はじめに

日本の主要生命保険15社・グループの2025年4~12月期決算が出そろいました。本業のもうけを示す基礎利益は前年同期比15%増の約3兆5,000億円となり、15社中11社が増益を達成しています。日銀の金融政策正常化に伴う金利上昇が、運用収益の拡大をもたらしたことが最大の要因です。

一方で、金利上昇は保有する国内債券の価格下落を招き、含み損は約26兆6,000億円と2025年3月末比で58%も膨らみました。生保業界にとって、金利上昇は「光と影」の両面を持つ構造的な変化です。この記事では、好調な決算の背景、含み損拡大のリスク、そして業界が直面する今後の課題について解説します。

基礎利益を押し上げた3つの要因

金利上昇による運用収益の拡大

基礎利益増加の最大の要因は、金利上昇に伴う運用収益の改善です。日銀が金融政策の正常化を進める中、国内金利は上昇基調が続いています。これにより、新規に購入する国債や社債の利回りが上昇し、利息収入が増加しました。

大手生保の2025年3月期決算では、4社合計の基礎利益が過去最高を記録しています。日本生命は基礎利益が前期比32.3%増の約1兆1,090億円と、1999年の開示開始以来初めて1兆円を突破しました。第一生命ホールディングスは21.6%増の6,388億円、住友生命は24.3%増の3,798億円、明治安田生命は11.6%増の6,264億円と、いずれも大幅な増益を実現しています。

4~12月期も好調が続いており、金利上昇による運用環境の改善が業界全体を底上げしました。特に「順ざや」と呼ばれる、資産運用利回りが保険契約者に約束した予定利率を上回る状態が拡大し、利益を押し上げています。日本生命の基礎利益上の運用収支等の利回りは2.53%まで上昇しました。

貯蓄性保険の販売好調

金利上昇を受けて、生保各社は貯蓄性保険の予定利率を相次いで引き上げています。日本生命は2025年1月、年金保険の予定利率を0.6%から1.0%に、終身保険を0.25%から0.4%に引き上げました。これは同社にとって約40年ぶりの利率改定です。

2026年時点では、一時払い終身保険や個人年金保険の予定利率は1.75%~2.08%が主流となり、2001年以来の高水準に達しています。低金利時代には魅力が薄れていた貯蓄性保険が、再び消費者の関心を集めるようになりました。予定利率の引き上げは保険料の実質的な値下げに相当するため、販売の追い風となっています。

株式市場と為替の追い風

金利上昇に加えて、国内企業の好業績に伴う株式配当の増加も運用益を押し上げました。保有する株式からの配当収入が増加し、基礎利益の改善に貢献しています。また、前年度には円安環境で外国債券の利息収入が円換算で増加するという恩恵もありました。

含み損26.6兆円の実態と対応策

含み損はなぜ急拡大したのか

金利上昇は債券価格の下落を意味します。生命保険会社は長期の保険契約に対応するため、大量の国内債券を保有しています。金利が上昇すると、過去に低い利率で購入した債券の時価が下がり、含み損が発生します。

主要15社の国内債券含み損は約26兆6,000億円と、2025年3月末の約16兆8,500億円から58%増加しました。2023年度末には約3兆8,000億円だったことを考えると、わずか2年で7倍に膨張したことになります。大手4社だけでも、2025年12月末時点で13兆円を超える含み損を抱えています。日本生命単体では5兆4,519億円と、過去最大の水準です。

各社の資産入れ替え戦略

含み損の拡大に対し、各社は保有債券の入れ替えを進めています。低利回りの既存国債を売却し、現在の高い利回りで新たに国債を購入する「ポートフォリオの入れ替え」が主要な対策です。

日本生命は2025年度に国債入れ替えを約3兆円規模で実施しています。売却時には損失が実現しますが、新たに購入した高利回り債券からの利息収入で中長期的には回収できるとの判断です。ただし、2025年度下期に日本国債の残高を積極的に増やすと表明した大手は住友生命のみで、他社は保有残高の入れ替えを中心とした慎重な姿勢をとっています。

会計ルール見直しの動き

含み損の急拡大を受けて、日本公認会計士協会は2026年2月17日、生命保険会社の保有債券に関する会計処理の見直しに向けた公開草案を発表しました。

従来のルールでは、債券の時価が簿価を50%以上下回り、回復の見込みがない場合は「減損損失」として損失計上が必要でした。見直し案では、「責任準備金対応債券」について満期保有目的の債券に準じた取り扱いとし、時価による減損判断を不要とする方針です。

生保各社は保有する公社債の大半を責任準備金対応債券として保有しており、日本生命は公社債約30兆円のうち約27兆円がこれに該当します。この見直しが実現すれば、金利上昇に伴う減損リスクが大幅に軽減されることになります。同協会は3月17日を期限に意見を募集しています。

注意点・展望

新しいソルベンシー規制への対応

生保業界が直面するもう一つの大きな変化は、「経済価値ベースのソルベンシー規制(ESR規制)」の導入です。2025年7月に関連法令が公布され、2026年3月末から適用が開始されます。

従来の規制では負債の大半を占める責任準備金を取得原価で評価していましたが、新規制では資産も負債も経済価値(時価)ベースで評価します。金利変動の影響がただちに反映されるため、資産と負債の年限(デュレーション)のミスマッチを縮めることが求められます。各社は新規制への対応として、資産運用戦略の見直しを迫られています。

金利上昇が続く場合のリスクと機会

金利がさらに上昇すれば、運用収益の改善が続く一方で、含み損はさらに膨らむ可能性があります。ただし、生保のビジネスモデルは長期保有が前提であるため、満期まで保有すれば含み損は実現しません。大量解約が発生しない限り、含み損の拡大が直接的に経営を脅かすリスクは限定的です。

むしろ長期的には、金利上昇は生保にとってプラスの要素が大きいと考えられます。低金利時代に苦しんだ「逆ざや」問題が解消に向かい、魅力的な保険商品の開発が可能になるためです。金利上昇局面で各社がどのような資産運用戦略と商品戦略を展開するかが、業績格差を左右する重要な要素となるでしょう。

まとめ

生保主要15社の2025年4~12月期決算は、金利上昇の恩恵を受けて基礎利益が15%増加するという力強い結果でした。運用収益の改善と貯蓄性保険の販売好調が業績を押し上げています。一方で、国内債券の含み損は約26兆6,000億円に膨張しており、会計ルールの見直しや新たなソルベンシー規制への対応が急務です。

投資家や保険契約者にとっては、各社の資産運用戦略や予定利率の動向が注目ポイントです。金利上昇局面では貯蓄性保険の商品性が改善する可能性があるため、保険の見直しを検討するのも一つの選択肢でしょう。生保業界は「金利ある世界」への適応を進めており、その成否が今後の業界地図を塗り替えることになりそうです。

参考資料:

関連記事

最新ニュース