ロッテがカカオ調達を多角化、コートジボワール産を新規導入
はじめに
チョコレート業界が大きな転換期を迎えています。「カカオショック」と呼ばれるカカオ豆の歴史的な価格高騰により、日本の菓子メーカー各社が原料調達戦略の見直しを迫られています。
国内板チョコレート販売シェア1位のロッテは、長年続けてきたガーナ産一辺倒の調達方針を転換し、世界最大のカカオ産出国であるコートジボワール産の導入を決定しました。浦和工場にはサイロや配管を増設し、複数産地からの原料受け入れ体制を整えています。
この記事では、ロッテの調達戦略変更の背景にあるカカオ市場の構造変化、明治など他社の対応策、そして消費者への影響について詳しく解説します。
カカオ価格高騰の実態と原因
史上最高値を更新し続けるカカオ相場
カカオ豆の国際価格は2024年から2025年にかけて急激な上昇を記録しました。国際カカオ機関(ICCO)のデータによると、2022年までは1トンあたり2,000ドル台で安定していた相場が、2024年4月には9,876ドルの過去最高値を記録。2025年1月には10,709ドルとさらに記録を更新しました。
わずか2年で価格が約4倍に跳ね上がる異常事態です。2025年後半には6,000ドル台まで下落する局面もありましたが、それでも高騰前の約2倍の水準にとどまっています。
西アフリカの不作が最大要因
価格高騰の最大の原因は、世界のカカオ生産の約6割を占める西アフリカでの歴史的な不作です。コートジボワールとガーナでは、干ばつや豪雨といった異常気象、病害虫の蔓延により、収穫量が大幅に減少しました。
さらに深刻なのは、カカオの木自体の老齢化問題です。収穫量が継続的に落ち込んでいますが、農家の多くは貧困状態にあり、植え替えに必要な投資ができません。新しい苗木を植えても実をつけるまでに4〜6年かかるため、短期的な回復は見込めない状況です。
円安の進行も日本企業には追い打ちとなっています。ドル建てで取引されるカカオ豆の輸入価格は、為替の影響でさらに押し上げられています。
ロッテの調達戦略転換
ガーナ依存からの脱却
日本はこれまで輸入カカオ豆の約7〜8割をガーナから調達してきました。ロッテの看板商品「ガーナチョコレート」に象徴されるように、日本とガーナのカカオ貿易は長い歴史を持っています。
しかし、ガーナのカカオ生産量は近年大きく変動しており、2024年は過去15年間で最低水準となりました。ガーナ・カカオ委員会(COCOBOD)によると、2024年度の生産量は約64万トンにとどまる見込みです。
こうした状況を受け、ロッテはコートジボワール産カカオ豆の調達を開始することを決定しました。コートジボワールは世界最大のカカオ生産国であり、年間約240万トンを生産。世界シェアの約39%を占めています。
浦和工場の設備増強
新たな調達先からの原料を受け入れるため、ロッテは浦和工場(さいたま市)の設備増強を実施しました。カカオ豆を貯蔵するサイロや配管を増設し、複数の産地からの原料を同時に扱える体制を整えています。
この投資は単なる緊急対応ではなく、中長期的なサプライチェーンリスク分散の一環と位置づけられています。一つの産地に依存するリスクを軽減し、どちらかの産地で不作が発生しても安定供給を維持できる体制を目指しています。
サステナブル調達への取り組み
ロッテは調達先の多角化と並行して、持続可能なカカオ調達にも力を入れています。トレーサビリティが確立されたカカオ豆を「ロッテ サステナブルカカオ(LSC)」と名付け、2025年度までにガーナ産カカオ豆で100%、2028年度までにすべてのカカオ豆で100%のLSC化を目標に掲げています。
ガーナでは収穫から出荷までの各段階でトレーサビリティを確保しており、コミュニティ倉庫、地区倉庫、港湾倉庫を経て日本へ輸出される仕組みが構築されています。
他社の対応と業界全体の動向
明治の代替原料戦略
明治はココアバターを植物性油脂に置き換えた商品の数を増やす戦略を採用しています。カカオバターの代替として、シアバターやパーム油由来の植物油脂を活用することで、原料コストの上昇を抑える狙いがあります。
代替油脂には主に3つのカテゴリーがあります。化学的組成がカカオバターに近い「ココアバター等価油脂(CBE)」、パーム核油やココナッツ油由来の「ココアバター代替油脂(CBS)」、そして部分的な置換に使用される「ココアバター部分代替油脂(CBR)」です。
これらの代替油脂はカカオ由来原料に比べて5〜6分の1と安価でありながら、口溶けを良くするなどの機能性も備えています。ただし、明治の板チョコレート(ミルクチョコレート)は引き続きココアバター以外の植物油脂を使用しない方針を維持しています。
各社の価格改定
2025年6月には大手メーカーが一斉に価格改定を実施しました。明治やロッテなどは約10〜36%の値上げを行い、従来100〜150円だった50g板チョコは200円以上に上昇しています。
ロイズも2025年6月4日から価格改定を発表し、チョコレート製品全般で値上げが進んでいます。2025年のバレンタインシーズンでは、チョコ1粒当たりの平均価格が418円(税込)となり、初めて400円を超えました。
消費者への影響と今後の見通し
チョコレート離れの懸念
価格高騰により、消費者のチョコレート離れが懸念されています。「昔は100円で買えたのに、今は150円以上が当たり前」という声が広がり、日常的なおやつとしてのチョコレートに手が伸びにくくなっている現象が報告されています。
チョコレートは嗜好品であり生活必需品ではないため、食料品全般の値上げが続く中で優先順位が下がりやすい商品です。グミなど他のスイーツへの需要シフトも見られます。
二極化する消費行動
一方で、興味深い消費行動の変化も観察されています。「どうせ高いなら良いものを」という考えから、プレミアムラインや高級チョコレートを選ぶ消費者が増加しています。量より質を重視し、1粒でも満足度の高い商品を求める傾向が強まっています。
松屋のアンケート調査では、回答者の約7割が今年のバレンタインで「節約を意識しない」と回答しており、チョコレートにかける金額はむしろ増加傾向にあります。
市場の将来像
専門家の間では、カカオ価格が短期間で大きく下落する可能性は低いとの見方が主流です。構造的な供給問題の解決には時間がかかり、気候変動の影響も今後さらに深刻化する可能性があります。
将来的には、本物のカカオバターを使ったチョコレートは高級品となり、一般的な価格帯の商品は植物油脂を多用した「準チョコレート」に置き換わっていく可能性も指摘されています。
まとめ
ロッテのコートジボワール産カカオ導入は、カカオショックへの対応策であると同時に、日本のチョコレート業界全体の構造変化を象徴する動きです。
ガーナ一極集中から調達先を分散することで、供給リスクの軽減と価格安定化を図る戦略は、今後他社にも広がる可能性があります。明治の代替原料活用や各社のサステナブル調達強化と合わせ、業界全体で「カカオを持続的に確保する」という課題への取り組みが加速しています。
消費者としては、チョコレートの価格上昇が続く中で、量から質への価値観シフトを検討する時期に来ているかもしれません。カカオ農家の持続可能な生産を支えるフェアトレード商品の選択も、長期的なチョコレート市場の安定に貢献する一つの方法です。
参考資料:
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