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by nicoxz

ミラノ五輪で選手へのSNS中傷6万件超、JOCの対策と課題

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はじめに

2026年ミラノ・コルティナ冬季オリンピックで、日本選手団に対するSNS上の誹謗中傷が深刻な問題となっています。日本オリンピック委員会(JOC)の発表によると、大会開幕からわずか1週間で6万2333件の中傷投稿が確認されました。

この数字は2024年パリ五輪で確認された約8500件の約7倍にあたり、JOC内部でも「想定以上の異常事態」との声が上がっています。本記事では、ミラノ五輪における誹謗中傷の実態と、JOCの対応策、そしてスポーツ界全体が直面するSNS中傷問題の課題について解説します。

選手たちを苦しめるSNS中傷の実態

6万件超の誹謗中傷が確認

JOCは2月13日にミラノで中間総括記者会見を開き、2月12日時点での監視状況を公表しました。1月18日の結団式以降に確認された関連投稿の総数は24万5493件に上り、そのうち誹謗中傷と判断されたものが6万2333件でした。

JOCは1919件について削除を申請し、実際に削除が確認されたのは371件にとどまりました。削除率の低さは、SNSプラットフォーム側の対応の遅さや、表現の自由との境界線の判断の難しさを反映しています。

近藤心音選手への心ない言葉

スキー・フリースタイル女子の近藤心音選手は、公式練習中に大けがを負い、スロープスタイルを棄権しました。近藤選手は自身のインスタグラムで、「もし選ばれても次は辞退してくださいね」というメッセージが届いたことを明かしました。

近藤選手は「人生で初めてのアンチです」「何も知らない人がこんなに酷い事を…」と怒りと悲しみを表明しています。怪我による棄権という本人にとって最もつらい状況に追い打ちをかける中傷は、多くの人々の共感を呼びました。

フィギュアスケートなど他競技でも

誹謗中傷はフリースタイルスキーに限らず、フィギュアスケートをはじめ複数の競技の選手に向けられています。競技結果への不満や、選手のSNS上の言動に対する攻撃的な反応が目立ちます。「応援のつもり」で投稿された内容が、実際には選手を傷つけるケースも少なくありません。

JOCの対策と取り組み

24時間体制の監視システム

JOCはミラノ現地と日本国内の2拠点に監視チームを設置し、24時間体制で日本選手に関するSNS投稿を監視しています。AIを活用した不適切投稿の自動検知システムも導入されており、名誉毀損や侮辱、脅迫に該当する投稿を迅速に発見する仕組みが構築されています。

この体制は、2024年パリ五輪での経験を踏まえて大幅に強化されたものです。パリ五輪後にJOCは「アスリート誹謗中傷対策強化方針」を策定し、今大会に向けた準備を進めてきました。

法的措置も視野に

JOCの誹謗中傷対策担当者は、名誉毀損や侮辱、脅迫などの悪質な投稿については、関係機関との調整の上、警察への相談や法的措置も含めて対応していく方針を明確にしています。

日本では2022年に改正プロバイダ責任制限法が施行され、投稿者の情報開示手続きが簡素化されました。さらに侮辱罪の法定刑も引き上げられており、法的な抑止力は以前より高まっています。

スポーツ界が直面する構造的な課題

プラットフォーム側の対応の限界

削除申請1919件に対し、実際の削除確認が371件にとどまっている現状は、SNSプラットフォーム側の対応に大きな課題があることを示しています。各プラットフォームは独自の利用規約に基づいて判断するため、JOCが「誹謗中傷」と判断しても、プラットフォーム側が同意しないケースが多く発生しています。

国際オリンピック委員会(IOC)も選手保護の取り組みを進めていますが、各国の法制度やSNS企業の対応方針の違いもあり、統一的な対策は困難な状況です。

「応援」と「中傷」の境界線

弁護士の解説によると、「次は辞退してくださいね」のような投稿は、名誉毀損や侮辱罪に問われる可能性があります。応援のつもりでも、選手本人にとっては深い傷になる言葉は少なくありません。

特に結果が期待通りでなかった場合に、感情的な投稿が増加する傾向があります。投稿者には「一ファンの意見」に過ぎないと思える内容でも、選手には数千件の同様のメッセージの1つとして届くという構造的な問題があります。

注意点・今後の展望

パリ五輪と比較して7倍以上に増加した中傷件数は、SNS利用の拡大とともに問題が悪化していることを示しています。今後の夏季五輪や各種国際大会でも同様の事態が想定されます。

政府レベルでは、総務省がSNS事業者に対する規制強化を検討しています。また、教育現場でのデジタルリテラシー教育の充実も長期的な対策として重要です。

選手自身による対策としては、大会期間中のSNS閲覧を控える「デジタルデトックス」を実践するアスリートも増えています。しかし、SNSが選手と支援者をつなぐ重要なツールでもある以上、選手に「見なければいい」と求めるだけでは根本的な解決にはなりません。

まとめ

ミラノ・コルティナ冬季五輪で6万件を超える誹謗中傷が確認された事実は、スポーツ界におけるSNS中傷問題の深刻さを改めて示しています。JOCの24時間監視体制や法的措置の検討は重要な一歩ですが、プラットフォーム側の対応の遅さや削除率の低さなど、課題は山積しています。

スポーツを楽しむ私たち一人ひとりが、投稿する前に「その言葉は選手を傷つけないか」と立ち止まることが、最も身近で効果的な対策です。選手が安心して競技に専念できる環境を社会全体で守っていく意識が求められています。

参考資料:

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